銕仙会特別公演レポート

公益社団法人 能楽協会

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2022年1月16日(日)に東京の宝生能楽堂で、日本全国能楽キャラバン!公演として「銕仙会特別公演」が開催されました。本記事では、当日の会場の模様を交えた公演レボートをお届けします。

銕仙会定期公演が長い間行われている宝生能楽堂

本公演は、銕仙会定期公演が行われている東京・本郷の宝生能楽堂で開催されました。銕仙会と宝生能楽堂との関係は古く、現在は東京・銀座にある観世能楽堂が1972年に新宿区新小川町(大曲)から渋谷区松涛に移転したおりに定期公演を宝生能楽堂で行って以来、ここで開催されています。

宝生能楽堂の魅力については、過去記事でもご紹介していますのでぜひご覧ください。

宝生能楽堂の最寄り駅は、JR水道橋駅(東口より徒歩3分)と地下鉄都営三田線の水道橋駅(A1出口より徒歩1分)となりますが、今回は東京メトロ丸ノ内線と南北線が乗り入れる後楽園駅から向かいました。途中、東京ドームシティアトラクションズ最古のアトラクション、落下傘型のスカイフラワーなどを眺めながらのんびり歩いても意外に早く約10分で着いてしまいました。

後楽園駅から東京ドームシティアトラクションズのスカイワラワーを眺めながら会場へ

開場までどう過ごそうと思ったところで会場隣にあった讃岐金刀比羅宮東京分社を発見。「水道橋のこんぴらさん」に参詣していると、やはり会場に早めに到着したお客様と思われる人々が次々にお参りに来ていました。

「こんぴらさん」の右手に見える茶色の建物が宝生能楽堂

当日の会場の模様

「こんぴらさん」から会場に戻ると、すでにたくさんのお客様が列をつくっていました。検温を済ませて入場し、受け取ったパンフレットは、演目紹介のほかに、新作能「鷹姫」の老人役を勤める観世銕之丞先生のインタビューに詞章、「鷹姫」上演記録まで掲載されている豪華バージョン。

本公演は詞章や解説を公演中に表示してくれる「能楽鑑賞多言語字幕システム 能サポ」対応公演ということで、担当者の方々がタブレットの貸し出しやスマホアプリ「G・マーク」のインストール方法を説明する姿が見られました。

筆者もアプリをインストールして開くと、本公演が表示されたのでダウンロード。スマホの設定を「機内モード」にしておけば、公演中に着信音が鳴ることはないとの説明を受け、ひと安心。アプリには「イラストでわかる能」という能の基本についてイラストで分かりやすく解説しているページや、上演回数が多いおなじみ曲についての「あらすじ・見どころ」もあるので、対応公演以外でも活躍してくれそうです。

「G・マーク」アプリを開くと本公演が表示されるのでダウンロード。公演中、舞台に合わせて自動的に表示される詞章や解説は、黒画面に白い文字が大きく浮かび見やすい

画像4:「G・マーク」アプリを開くと本公演が表示されるのでダウンロード。公演中、舞台に合わせて自動的に表示される詞章や解説は、黒画面に白い文字が大きく浮かび、見やすかったです

公演後にパーティーを開けるほどの広さを持ち、サロンとしても活用されているロビーには、新年の寅年にあやかり能「龍虎(りょうこ)」の後シテである虎の面装束が展示されていました。中でも筆者の目が釘付けになったのは「虎冠」。虎の全身がデザインされた1m近くもある冠で、これをシテが頭に付けて舞うのはとてもたいへんそうです。

新年の寅年にあやかり、ロビーに展示されていた能「龍虎」の後シテ・虎の面装束。中央にあるのはシテが頭に装着する「虎冠」

このほか、ロビーには、謡本から扇、足袋などお稽古で使う道具まで販売されている売店に、テーブルや椅子も多数配置され、開演までのひとときや休憩時間を心地よく過ごしました。

謡本からお稽古で使う扇や足袋なども販売されている売店

ロビーには能楽公演の案内チラシも多数置かれ、熱心にチェックする能楽ファンの姿も!

公演レポート

公演前の能舞台。場内は落ちつきがある明るさで、雰囲気がありました

公演前には、早稲田大学名誉教授の竹本幹夫先生による解説があり、とくに「鷹姫」の解説に時間をかけられ、アイルランドの劇詩人W.B.イェイツ作の詩劇をもとに1967年に初演されるまでの経緯とともに、その時代背景としてオカルトブームの影響があったことなどが語られ、舞台への期待がいちだんと高まりました。

新作能「鷹姫」

主要キャストの一人・鷹姫に銕之丞先生の嫡男の淳夫先生、空賦麟(クー・フーリン)に狂言方和泉流の野村万之丞先生という若手の配役で、溌剌とした動きに勢いとスピード感を感じました。

そして、老人の演出が、公演直前に拝見した通し稽古や、銕之丞先生のインタビュー記事で語られていた内容の印象と少し異なっていたことに驚きました。たとえば、老人が突いていた杖を最終的に空賦麟に渡す場面は、老人が杖を舞台上に置き、それを空賦麟が自ら受け取るように演出されていて、これは空賦麟が老人の運命を受け継ぐことを自ら受け入れたということなのか等、様々に想像をかきたてられました。

こうして「鷹姫」という作品は伝承されていく中で変化していき、同時に私たち観客も歳を経ることによってその時々の見方や感じ方も変わっていくのでしょう。だからこそまた「鷹姫」を観たくなる。それは、他の演目にも共通していることであり、能楽の魅力の一つとも感じました。

狂言「鍋八撥(なべやつばち)」

シテの鍋売りに野村万蔵先生、アドの羯鼓(かっこ、雅楽で使われる打楽器)売りに息子さんの拳之介さん、二人の仲裁に入る目代(もくだい、国守の代理人)にお父様の萬先生という野村家親子三代による共演。鍋と羯鼓というお互いの商品を使って勝負することになります。羯鼓売りの羯鼓を使用して繰り出す芸の数々が素晴らしく、それとは対象的に間が抜けている鍋売りのとぼけた仕草に笑いを誘われました。

最後、羯鼓売りが側転をしながら橋掛かりから揚げ幕に退場していく場面には会場からどよめきが起こり、3人の演者の世代が生かされた演目と配役であることを実感しました。

半能「石橋(しゃっきょう) 大獅子」

今回は後半部分だけを上演する半能形式でした。タイトルとなっている「石橋」を象徴する、紅白の牡丹が華やかに飾られた二台の一畳台が舞台に運ばれるところからはじまりました。「大獅子」の小書(特別演出)により、白獅子一体に赤獅子三体が登場し、囃子の激しいリズムに合わせて勇壮な獅子舞を披露します。獅子たちは舞台中央から橋掛かりまで使用しながら、左へ右へと顔を振り、牡丹に戯れたり、一畳台に上がったり降りたり、激しい動きの連続ながら、獅子たちのフォーメーションも見事で、現代の芸能ショーの原点を観ているかのような鮮やかさでした。

舞と囃子と地謡のシャワーを全方向から浴びたような贅沢な時間で、見終わったあとは明るくすがすがしい気持ちで満たされました。

公演を終えて

シテやツレといった役割から解き放たれた文学的で実験的な香りがする新作能「鷹姫」のあとは一転、狂言「鍋八撥」と半能「石橋」という芸を魅せつつ観客を楽しませる構成内容になっていて、全編を通して舞台に集中できた素晴らしい公演でした。

公演パンフレットによると「鷹姫」は他の流儀での公演や海外公演なども含めると今回が44回目の上演!「鍋八撥」「石橋」も含めた今回の3曲は今後も見続けていきたい演目となりました。

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