これまでも、そしてこれからも。由緒ある本郷の地で能楽を支えてきた「宝生能楽堂」の魅力

公益社団法人 能楽協会

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JR水道橋駅東口から徒歩3分。東京ドームのほんの近くに宝生能楽堂はあります。昭和3年(1928年)に「宝生会館能楽堂」が建てられた時より、戦災に遭いながらも長きにわたり本郷の地で宝生流、そして関東の能楽界を支える施設として愛されてきました。今回はその宝生能楽堂の魅力について深掘りして解説します。

神田猿楽町からはじまり、本郷の地へ

宝生能楽堂は大正2年(1913年)に建立され、もともと神田猿楽町にありましたが、関東大震災によって焼失してしまいました。その後、本郷の松平頼寿伯旧邸跡地が提供され、昭和3年(1928年)現在の宝生能楽堂がある場所に「宝生会館能楽堂」が完成しました。

しかし、昭和20年(1945年)の第二次世界大戦における東京大空襲で再び焼失してしまいます。終戦の後、宝生流宗家をはじめ全国の流友の支援・協力のもと昭和25年(1950年)に「水道橋能楽堂」として再建されました。

東京大空襲で都内の主な能楽堂はほとんど被災した中、いち早く再建されたのが水道橋能楽堂です。上物は焼失したものの、建物の基礎損傷は少なく、再利用することで早く再建ができたと言われています。また、能楽を再び盛り上げたいという関係者の想いや熱意も迅速な再建の原動力になったものと推察されます。

名称も、流儀の「宝生」ではなく「水道橋」を冠したことで、ほかの流儀の方々も水道橋能楽堂で催しを行い、各流儀の能楽堂が建設されるまでの間、都内における大きな演能会のほとんどがこの水道橋能楽堂で開催される大きな源となりました。水道橋能楽堂は、戦後の能楽界の活動拠点として重要な役割を担ってきたのです。

そして昭和53年(1978年)に現在の「宝生能楽堂」として建て替えられ、今に至るまで多くの公演が催され、広く能楽の普及や発展の場として活用されています。

五感で触れる宝生能楽堂の魅力

宝生能楽堂外観

近代的な建物の中で荘厳とした佇まいの能舞台は、和の伝統美を盛り込んだ檜造りです。今では希少となっている上質な檜が使われており、客席に座るとほのかな香りに癒されます。

席数は490席あり、都内の能楽堂の中でも有数の広さとなっていることから、大きな公演が催されることもしばしば。宝生能楽堂ではないと演じにくい曲もあるそうです。

また、舞台設計の段階から音響にもこだわっており、観客に聞きやすい、自然と惹きこまれる工夫が随所にみられます。舞台の床構造にも工夫があり、足拍子が綺麗に響くことから、静かな曲も激しい曲もより楽しむことができます。

宝生能楽堂ロビー

宝生能楽堂は能舞台だけでなく、広いロビーも特長です。公演後にパーティを開けるほどの広さをもつ隣接のロビーは、これもまた都内有数の広さを誇り、サロンとしても活用されています。公演を鑑賞し、感動冷めやまぬうちに仲間と交流する……能楽を通じた文化的な体験ができることも、愛され続けてきた理由の一つです。

声優による朗読で能楽を楽しむ~夜能へのいざない

宝生能楽堂では今回の能楽キャラバン!公演だけでなく、様々な公演が定期的に開催されています。

最近、若い方の注目を集めているのが「夜能」です。声優による朗読で能を楽しむことができ、じわじわと人気が高まっています。朗読を通すことでどのような場面なのか、どういう状況なのかが頭でイメージしやすく、能楽に詳しくなくとも曲の魅力を感じることができます。
能は分かりづらそう、能楽堂は近づきがたい……しかし、一度体験すると「また来てみたい」となるのが能楽、そして能楽堂の魅力。能楽堂を訪れる最初のきっかけになれば、というのも夜能を催す一つの目的だそうです。

他にも、月1回開催される「月浪能」や、若手が中心の「五雲能」など、様々な定期能が催されています。宝生能楽堂の公演スケジュールも併せてご覧ください。

能楽キャラバン!公演「獅子三題」にぜひお越しください

宝生能楽堂は定期的な点検やメンテナンスもされており、まだまだ長く使い続けられる状態であることから、今後も永く能楽を親しむ場として愛され続けていくことでしょう。

2021年10月31日に能楽キャラバン!公演として「宝生流 東京公演 獅子三題」が催されます。能楽鑑賞そして宝生能楽堂に行ってみたい、という方はぜひ公演にお越しください。

公益社団法人宝生会 事務局長のメッセージ

能楽堂は、もちろん能を上演する場所ではありますが、能舞台だけでも素晴らしい文化財です。

よく能楽を鑑賞するとまどろんでしまう、と言いますが、それは能を鑑賞している時間がとても心地が良いということ。能楽は五感に訴えかける芸能であり、能舞台の客席に座るからこそ味わえる体験があります。曲目の意味は完璧には理解できずとも謡や楽器の音を全身で感じたり、能面や装束と能舞台の美しさを観察するのではなく俯瞰して眺めたりといった、他の芸能では味わえない体験――時間が経つのも忘れるような感覚――だと思います。
その体験や感覚をぜひ味わってください。

写真提供:公益社団法人宝生会

公益社団法人 能楽協会

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