観世能楽堂特別公演 レポート

公益社団法人 能楽協会

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観世能楽堂特別公演

本年度も「心弾む」をコンセプトに各地をまわる、日本全国能楽キャラバン!が全国で開催されています。今回はその中から、東京・銀座の観世能楽堂において開催された「観世能楽堂特別公演」のレポートをお届けします。

開場5周年を迎える観世能楽堂

渋谷の松濤(しょうとう)にあった観世能楽堂が、現在のGINZA SIX内に移転して早や5年になります。当時は閑静な住宅街から、繁華な銀座のしかも大型商業ビルへの移転ということで、大きな話題となっていたことが思い出されます。

公演当日はあいにく小雨交じりの空模様でしたが、会場は多くのお客様で賑わっておりました。GINZA SIXは地下鉄(銀座駅・東銀座駅)から直結の地下通路があります。こういうお天気の時、地下でつながっているのはやはり便利ですね。特にお着物でお越しの方にとっては助かるだろうな、と思いながらロビーの様子を眺めておりました。

観世能楽堂の魅力やアクセスについては、過去の公演レポートに詳細がございますので、ぜひそちらもご覧ください。

賑わう売店コーナー。観世能楽堂ではスヌーピーコラボデザイングッズがあり、本公演の演目でもある「土蜘蛛」スヌーピーが開場五周年をお知らせ!

「静と動」人気曲二番

本公演の番組構成は、はじめに連吟の「天鼓」、初番のお能が「松風 戯之舞」、狂言「昆布売(こぶうり)」を挟みまして、最後に能「土蜘蛛 入違之伝 白頭 眷属出之伝 ササカニ」となっていました。

「松風」は昔から「熊野(ゆや)松風は米の飯」と言われるほどの人気曲です。これはお能(あるいは謡)の「熊野」と「松風」は、米の飯と同じように飽きることがない、嫌いな人がいない、といったような意味を持ちます。月の美しい秋の夜に繰り広げられる、海人(あま)である姉妹の恋と狂乱の悲しい物語です。

二曲目の「土蜘蛛」も明快なストーリーと娯楽性に満ちた演出で人気のある曲の代表です。初心者向けの公演や子供向けのワークショップなどで取り上げられることが多いので、最初に観たお能が「土蜘蛛」だったという人は結構多いのではないでしょうか。

どちらも人気のある曲目ですが、一方は美しい女性をシテとした「静」の曲、もう一方は異形の怪物をシテとした「動」の曲といえます。また今回はどちらも小書(特別演出)付きで、
「松風」が「戯之舞(たわむれのまい)
「土蜘蛛」には「入違之伝(いれちがいのでん)」「白頭(しろがしら)」「眷属出之伝(けんぞくだしのでん)」「ササカニ」と四つ小書の付いた大変贅沢な番組となっています。

公演レポート

連吟「天鼓」キリ

「連吟(れんぎん)」というのは、お能の謡の中の聞かせどころ(=謡どころ)を二人以上の複数人で謡う上演形式のことです。一人で謡う場合は「独吟(どくぎん)」と呼びます。お稽古をしている素人の発表会ではよく出る上演形式なのですが、プロが公演で出されることは意外と少なかったりします。これは会の時間的な都合もありますし、なにより昨今、謡や仕舞の稽古人口が減少し、謡だけを聞いて楽しむことができる観客が減ったことが要因のように思います。そうした現状の中、本公演のようにプロによる連吟を出されることは、とても意味のある、大切なことだと感じました。観世流の能楽師11名による連吟は会場の隅々まで響き渡り、迫力に満ちたものでした。

舞台に11名もの能楽師が居並ぶ姿は壮観。聞いているこちら側も自然と襟を正したくなります。

能「松風 戯之舞

舞台中央に静々と運び出される松の作り物。ワキ僧とアイとのやり取りから、ここは津の国須磨の浦、松は平安朝の貴族、在原行平の寵愛を受けた松風村雨という姉妹の海人ゆかりの松であることがわかります。寂しげな囃子の音に耳を傾けていると、いつの間にか白い衣をまとった女性が二人、橋掛かりにたたずんでいます。

二人はこの須磨の浦に住む海人で、海人という生業のはかなさ、物寂しくも美しい須磨の月夜の様子などを詠じつつ、前半の見どころである汐汲みのわざを見せる場面へと進みます。

この後、ワキとのやり取りの内に、二人は自分たちこそが行平から寵愛を受けた松風村雨姉妹の霊であることを語り、行平の形見の装束を持ち出して、後半の見どころである恋慕による狂乱の場面へと移っていきます。

「静」の曲と申しましたが、一曲を通して見どころ、聞きどころが多く、飽きの来ない構成になっていて、昔からの人気曲というのも納得がいきました。

小書き「戯之舞」では、曲終盤の舞の中にちょっとドキッとするような演出が加えられます。

狂言「昆布売」

次は和泉流の狂言「昆布売」。お供の者を連れずに外出した大名が、通りかかった若狭の小浜の昆布売に声をかけて、無理矢理に太刀持ちをさせます。腹を立てた昆布売は大名を油断させて太刀を抜いて脅し、大名に自分の商売ものである昆布を売らせます。「昆布召せ 昆布召せ」という売り声を曲調の違うさまざまな謡で謡わせるのが、この曲の面白いところです。

後半の謡は流儀や家によって種類が異なります。聞き比べてみても面白いかも。

能「土蜘蛛 入違之伝 白頭 眷属出之伝 ササカニ

最後に、能「土蜘蛛」です。今回の「土蜘蛛」の主眼は何といっても小書「眷属出之伝」。通常、土蜘蛛の精は後シテ一人(匹?)ですが、これに後ツレが付いて三人の土蜘蛛が登場するという賑やかな演出です。この小書は2021年の“日本博皇居外苑特別公演”のために新しく作られたものですが、残念ながらこの公演は雨天で中止となり、正式な上演としては本公演が二回目。一体どのような演出なのかと、客席も興味津々な様子でした。

ミステリアスな前場の緊迫した空気を、「ササカニ」のコミカルな蟹の精二人(匹?)のやりとりが和ませつつ、後場へとつなげます。

さて、注目の後場。通常ですと土蜘蛛の精が隠れ住む塚の作り物が出されるのですが、ここで若干会場にどよめきが……。運び出されてきたのはいつもの二倍くらいはある巨大な塚。通常の「土蜘蛛」をご覧になっている方はちょっとびっくりしたと思います。

引き回し(作り物を覆う布)が降ろされて、三人の土蜘蛛の精がひっしりと塚の中に納まっている姿は少しおぞましさがあり、たくさんの蜘蛛が巣の中で蠢いているような印象。後シテの「白頭」も現行の小書には無いものですが、年を経たボス蜘蛛感が出ていると思いました。作り物を出てからは舞台を所狭しと使った闘いの場面となり、惜しげもなく投げられる蜘蛛の糸が、舞台をより一層華やかなものにしていました。

前場で蜘蛛の糸を投げかけるシーン。かつてはこの糸を使うこと自体が「小書」でした。

 

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