金剛流 京都能楽紀行公演「小鍛治 白頭」シテ方金剛流 種田道一氏インタビュー

公益社団法人 能楽協会

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2022年9月3日(土)に京都の金剛能楽堂で「日本全国能楽キャラバン京都〜金剛流 京都能楽紀行」が開催されます。

本公演では、京都が舞台となっている能「小鍛治 白頭」と舞囃子「東北」が上演されます。また、「小鍛治」の舞台である伏見稲荷大社の宮司・舟橋雅美氏をゲストにお招きし、金剛流二十六世宗家の金剛永謹氏との対談も予定しています。初めて能を鑑賞される方も、また能を習っていらっしゃる方も、様々な視点から舞台を楽しんでいただける公演となっています。

今回のインタビューでは能「小鍛治 白頭」でシテを勤め、京都を拠点として活動されているシテ方金剛流の種田道一氏に、本公演の魅力や演目の見どころ、そして京都の能文化について語っていただきます。

種田道一 プロフィール(シテ方金剛流)

たねだ・みちかず。
1954年、能楽金剛流の職分家である種田家の四代目として京都に生まれる。
1959年初舞台。
1975年「石橋」で初シテ以降「乱」「望月」「道成寺」「卒都婆小町」などを開曲。
茶道裏千家(茶名:宗道)としての顔を持ち、著書「能と茶の湯」(淡交社)がある。
種田後援会能を主宰。重要無形文化財保持者。金剛会理事。

京都が舞台の演目 × 曲に関わりのあるゲストを招く京都能楽紀行公演

種田:去年の能楽キャラバンでは、京都能楽紀行公演を金剛能楽堂で4回開催しました。こちらは、京都が舞台となっている演目を上演し、その曲に関わりの深いゲストをお招きして演目にちなんだ話を語っていただく企画なのですが、たいへん好評だったことから、今回の公演が実現しました。

今回の公演では、シテ方金剛流の廣田幸稔さんによる舞囃子「東北(とうぼく)」と、私がシテを勤めさせていただく能「小鍛治 白頭(こかじ はくとう)」を上演します。

東北 あらすじ

都にある東北院の梅の木の下にたたずむ僧の前に一人の女性が現れ、それは和泉式部の愛した「軒端の梅(のきばのうめ)」であると語り、消えてしまいます。その夜、僧の前に和泉式部の霊が現れ、優雅な舞を舞います。

「東北」は平安朝の歌人である和泉式部が主人公で、曲名にもなっている東北院というお寺が曲の舞台です。平安時代、東北院は御所の鬼門にあたる場所に建ち、鬼から御所を守っていました。現在の東北院は、当時とは場所も建物も異なりますが、京都市内にあり、境内には和泉式部ゆかりの軒端の梅とされる古木もあります。

小鍛治 白頭 あらすじ

平安時代の刀匠として名高い三条宗近は剣を打つようとの勅命を受けますが、しかるべき相槌を打つ者がいないことに困り、氏神の稲荷明神に祈願に出かけます。 現れた老人に励まされ、帰宅して準備を整えて待つと稲荷明神の使いである狐の姿をした精霊が現れて相槌を勤め、無事に名剣「子狐丸」を仕上げます。

「小鍛治」の舞台は、刀匠の宗近が祈願のために訪れる稲荷明神ですが、この舞台は千本鳥居でおなじみの伏見稲荷大社です。

本公演では、この伏見稲荷大社の宮司さんをゲストにお招きしています。金剛流家元との対談を通して伏見稲荷大社と「小鍛治」にまつわる様々なお話をお聞きいただいてから演目をご覧いただくという趣向になっています。お客様にはスペシャルな体験になり、演目への理解もより深まることでしょう。

また、「東北」が優雅で静かな曲であるのに対して「小鍛治 白頭」は比較的動きが激しい曲のため、両曲の対比も楽しんでいただけることと思います。

「小鍛治」の舞台である伏見稲荷大社。楼門前には狐の像が立っている

京都人にとっての能文化は気軽で身近、そして自由なもの

種田:私が「小鍛治 白頭」のシテを勤めるのは、2018年に東京の国立能楽堂以来、2回目となります。国立能楽堂は橋掛かりが長いので、揚げ幕から登場してから舞台中央になかなかたどり着けなかったことが思い出されます(笑)。

今回の舞台は、金剛流の本拠地である金剛能楽堂で、私にとってはホームグラウンドになります。そのため慣れた舞台で舞えるという安心感がありますね。

金剛能楽堂は、京都御所の西向かいという大変わかりやすい場所にあります。四条室町の金剛宗家邸内にあった140余年の歴史を持つ能舞台をそのまま移築し、平成15年に開館しました。

橋掛かりの壁に掛けられた青海波(せいがいは)文様の簾(すだれ)はかつて御所にあったもので、金剛流が御所に出入りしていた縁からいただいたものとされており、その意味では能楽堂の移転によりお里帰りしたと言えるかもしれませんね。庭園には錦鯉が泳ぐ池や石舞台もあり、京都らしい雅な雰囲気の漂う空間になっています。

また、京都の能文化には他の地域では見られない特徴があります。東京公演などでは「お能を拝見する」というような雰囲気を感じますが、京都の能文化はもっと自由です。公演中の拍手も東京では決まったところで起こりますが、京都ではワキ方など演者が退場するたびにに拍手があり、「道成寺」などでは鐘にうまいことシテが飛び込んだらそこでも拍手が沸き上がる。京都人にとっ能は気軽で身近なものなんですね。

演者にとっても、京都が舞台になっている曲は多くありますので、曲をイメージしやすいという利点があります。今回の「小鍛治」でも、登場人物(ワキ)である三条宗近の住まいは今のウェスティン都ホテル(京都市東山区)の辺やな、とわかりますし(笑)宗近が稲荷明神に行く道筋なども大体の検討がつきます。
京都には今もまだ古の面影が残っていますので、小鍛治時代の景色や空気を感じることができます。本公演と合わせて楽しんでほしいです。

昨年1月に金剛能楽堂で開催された京都能楽紀行公演より。橋掛かりにはかつて御所にあったとされる青海波文様の簾が見える

“舞金剛”の真価が問われる「白頭」の小書演出

種田:「小鍛治」は話がわかりやすく、素直に楽しめる曲です。しかし「白頭」の小書(特別演出)がつくと扱いが重くなります。前シテは少年から老人に変わり、後シテの狐の精霊の髪は赤から白へと変わり、白色が際立つ装束となります。そして動きも緩急が激しく変化します。

前場にしてもでもシテは老人なのに少年の時より激しく舞いますし(笑)、後場は狐らしく音を立てずに足を跳ねる「狐足」や、両足を揃えてジャンプして台に昇ったり降りたりという高度なテクニックを必要とする動きが続きます。シテの力が強まり、バージョンアップしたような感じになるんですね(笑)。

この曲の一番の見どころは、狐の精霊と宗近がまるで餅つきをしているかのように、呼吸を合わせて刀に向かって相槌を打つ場面でしょう。

金剛流の芸風は、豪快でめざましい動きの中にも華麗・優美さがあることから“舞金剛(まいこんごう)”と言われます。まさに今回の「小鍛治 白頭」は舞金剛の真価が問われる演目と言えます。舞金剛の真骨頂をお目にかけたいと思っています。金剛能楽堂でお待ちしています。

2018年に「小鍛治 白頭」の初シテを勤める種田氏の写真。後場で、狐の精霊となったシテが登場し、欄干に足をかけながら宗近の様子を見守る愛情のこもった場面。これも白頭ならではの演出となります」(種田氏)

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