【香川公演】能「屋島」シテ方観世流 奥川恒治氏インタビュー

公益社団法人 能楽協会

公益社団法人 能楽協会

「日本全国 能楽キャラバン! 香川公演」は2024年1月24日(水)に香川県高松市のレクザムホール(香川県県民ホール)で開催されます。

会場の目の前は高松港・瀬戸内海。こちらで上演される曲は、高松を舞台としたご当地能「屋島」が "弓流" "奈須輿市語" の小書で演じられるほか、仕舞「玉之段」「船弁慶」、狂言「舟渡聟」とすべて【海】にゆかりがあります。また、解説や能装束の展示などお楽しみ企画が満載の公演となっています。
能「屋島」でシテを勤められるシテ方観世流の奥川恒治氏に、能「屋島」の見どころと本公演の魅力について伺いました。

奥川恒治 プロフィール(シテ方観世流)

1965年、東京都生まれ。6歳より小島芳雄のもとで稽古を始め、7歳で初舞台。
1978年に三世観世喜之に師事。神楽坂の矢来能楽堂を中心に国内外での公演多数。
重要無形文化財総合指定保持者。(公社)観世九皐会理事。
奥川恒治 能のHanaサイト

ご当地能 能「屋島」に"弓流" "奈須輿市語"ふたつの小書

能「屋島」前シテ 漁翁を演じる奥川恒治氏

奥川:本公演の開催地である香川県は、稽古の関係で月1回は足を運ぶ大変なじみのある土地です。高松には能「屋島」の舞台である源平の古戦場跡があります。稽古の合間にそれらを訪ね歩きながら、いつかこの地でご当地能を演じられたらと考えておりました。そして今回、実現の運びとなりました。
私自身が能「屋島」のシテ 源義経を勤めるのは3回目です。本公演の能「屋島」は小書(特殊演出)が2つついています。

能「屋島」後シテ 源義経(2019年「奥川恒治の会」より)

"弓流" は、後半に義経が落としてしまった弓を命がけで拾う場面に彩りを添える演出です。
通常、この部分は座ったまま謡で語ります。"弓流" では弓に見立てた扇を落としたり追いかける所作が加わります。囃子方と息を合わせての所作になりますので、演じ手の難易度・緊張感は増しますが、弓流の場面がよりいっそうわかりやすく楽しくご覧いただけることと思います。

そして"弓流" が付くと必ず設けられるのが、間狂言の小書"奈須輿市語(なすのよいちかたり)"で、これにより間狂言が大きく変わります。
通常は、前半に登場する平家の武将・悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)と三保谷四郎(みおのやのしろう)の一騎打ちが座ったまま語られます。景清が三保谷の兜の錣(後ろえりの部分)を引きちぎる有名な「錣引き(しころびき)」の話です。
それが"奈須輿市語" の小書になると、義経の家来・後藤兵衛実基(さねもと)が推す弓の名手・那須与一が波に揺れる船上の扇の的を射る場面に変わり、所作をつけて演じられます。
演者である狂言方は語り手を中心に義経・実基・与一の四役を一人で演じ分け緊迫の場面を演出します。今回、この役は野村萬斎さんが演じられます。ぜひ楽しみにしてください。これらの小書により屋島の合戦の全体がより広がりを持って伝わることと思います。

能「屋島」 の間狂言「奈須輿市語」で四役を演じ分ける野村萬斎氏

「屋島」という曲は、実際の合戦を描きながらも血なまぐさくないところが魅力と言えます。「錣引き」や「奈須輿市(那須与一)」の話は武士としての勇猛さや弓の名手ぶりを讃えるエピソードですし、「弓流」は武名のために命をかけて敵の眼前に身をさらして弓を取り戻すという、この時代の武士らしさや人間味が溢れている作品です。ぜひそういったところにもご注目ください。

「海」をキーワードとした番組と貴重な名物面の特別公開

奥川:公演会場のレクザムホールのすぐ前が高松港・瀬戸内海といったロケーションであることから、本公演では能「屋島」のほかにも海や船にちなんだ番組を構成しました。

仕舞の「玉之段」は、能「海人(あま 観世流では「海士」)」のクライマックス部分を紋付袴姿で地謡のみで舞います。物語の舞台は志度(しど)の浦で現在の香川県さぬき市ですから、こちらもご当地曲としてお楽しみいただけます。

同じく仕舞で演じる「船弁慶」は、壇ノ浦で滅んだ平知盛の亡霊が海上に現れる物語です。「屋島」の義経の刀に対して、知盛は長刀を扱いますので、長刀による舞の面白さを味わっていただけることでしょう。

そして、狂言「舟渡聟(ふなわたしむこ)」は、シテの渡し船の酒好きの船頭・舅を人間国宝の野村万作先生が演じられますので、素晴らしい至芸をご堪能いただけることと思います。

狂言「舟渡聟」シテ船頭・舅を演じる人間国宝の野村万作氏

高松といえば、高松藩松平家のお膝元で、江戸幕府の式楽であった能楽とも縁の深い土地柄です。
会場の隣にある「香川県立ミュージアム」では、本公演開催日を含む1月2日(火)〜28日(日)に「寿ぎの美」と題された、高松松平家伝来の品々の展示が予定されています。今回の公演にあわせて、松平家の能面それも能「屋島」にまつわる名物面を特別公開していただくことになっていますので、こちらもあわせてご見学いただけたらと思います。

さらに、公演当日は会場のロビーでも公演で使用する能面・能装束などのミニ展示をします。
面装束を間近でご覧いただける貴重な機会ですので、ぜひ上演前や休憩時間にご鑑賞ください。

能楽初心者にもやさしい数々の企画

奥川:高松での能楽公演はやや少ない傾向にありますので、能楽を見たことがない方でも少しでも興味を持っていただけるように、本公演は最初に「解説」を設けています。こちらも私が担当し、能「屋島」の背景や魅力とともに、能楽の楽しさ・面白さをわかりやすくお伝えする予定です。

そして、本公演は能楽鑑賞サービス「能サポ」をご利用いただけます。能「屋島」上演時にお手持ちのスマートフォンに舞台進行に合わせた字幕解説が表示され、初心者の方でも安心して能を楽しめます。

さらに、当日の番組表にも工夫を凝らしました。
番組表に能「屋島」のあらすじを絵本作家さんに描いてもらったイラストを掲載しています。主要場面の挿絵を用いて、物語の展開をわかりやすく理解してもらいたいという思いがあります。「屋島」の各場面がどのように描かれているかは当日の番組表でご確認、お楽しみください。

今回の香川公演では、「能楽にゆかりのある土地」で「その土地にゆかりのあるご当地能」を演じます。今も高松に残る古戦場跡の物語が、曲中それぞれ見せ場になって再現されます。ぜひご覧いただき、当時の合戦や武士たちの世界をご堪能いただけたらと思います。

公益社団法人 能楽協会

公益社団法人 能楽協会

日本の伝統芸能である能・狂言(ユネスコ無形文化遺産)に関する幅広い情報、協会員の公演情報、全国能楽堂のご案内、普及活動を紹介しています。

ウェブサイト
https://www.nohgaku.or.jp
Twitter
https://twitter.com/nohgakukyokai
Facebook
https://www.facebook.com/nohgakukyokai

能楽情報メルマガのご案内

公演情報や、能楽に関する情報を不定期でお届けします。