【宗像特別公演】能楽入門講座の魅力と九州能楽の現在

公益社団法人 能楽協会

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宗像特別公演は、福岡県宗像市 ハーモニーホールで11月12日(日)に開催されます。
本公演は「能楽入門講座」とし、舞囃子「高砂」・狂言「棒縛」・能「船弁慶」の上演をいたします。そのほか、能楽師による解説とアフタートークが行われ、能楽初心者から能楽ファンまでが楽しめる内容です。

本記事では、狂言「棒縛」でシテ(主役)を勤められ、能楽協会 九州支部長として九州における能楽振興に力を注ぐ狂言方和泉流の野村万禄氏に、宗像特別公演の魅力とともに九州の能楽事情や能楽スポットなどを伺いました。

野村万禄氏 プロフィール

1966年、東京生まれ。故・六世野村万蔵(芸術院会員・人間国宝)の孫。伯父の初世野村萬(芸術院会員・人間国宝)に師事。
2000年、二世野村万禄襲名。野村万蔵家別家を興す。
現在、福岡在住。九州各地に稽古場を開設し、一般にも広く門戸を開き、福岡を拠点に狂言の普及と発展に努めている。現代劇やTVラジオ等への出演など古典芸能にとどまらず幅広く活躍中。
萬狂言 九州支部代表、公益社団法人能楽協会本部理事 兼 九州支部長。

野村万禄 公式Instagram

狂言「棒縛」と能「船弁慶」の見どころ

万禄:本公演の演目は能楽初心者から見巧者の方まで楽しんでいただける内容です。

私がシテの太郎冠者を演じる「棒縛(ぼうしばり)」は、狂言の中でもわかりやすい代表的な演目です。
あらすじは、主人の留守中に酒を盗み飲みしないように、棒に縛られた太郎冠者と、後ろ手を縛られた次郎冠者が二人で力を合わせてついに酒にありつき酒宴をしているところに主人が帰ってきて……というものです。

無類の酒好きな二人が、不自由な中でもなんとか工夫を重ねて酒宴をはじめてしまう、人間の生きるエネルギーを絵に描いたような舞台といえます。狂言の笑いは下剋上にあるとよくいわれますが、目の上のたんこぶでもある主人を二人で出し抜し抜く開放感もあります。どの時代のどの国の方にも共感してもらえる内容ですのでぜひお楽しみください。

狂言「棒縛」のシテ・太郎冠者を演じる野村万禄氏(左)

続く「船弁慶」は、源頼朝から逃げる義経一行の物語です。
前半は義経との別れに際し、静御前が名残を惜しむ優美な舞が披露され、後半では一転、長刀を振るう荒々しい平知盛の亡霊が現れて義経一行に襲いかかるというドラマティックな作品です。
前半と後半の間には間狂言(あいきょうげん)が入ります。
普段の間狂言は、狂言方がそれまでの物語の振り返りや背景をわかりやすく語ることが多いです。船弁慶の間狂言は、狂言方が船頭として登場します。そして、義経一行を船に乗せて漕ぐ所作により海の荒波を動きで表現したりと活躍します。物語にリアリティーをもたらす狂言方の写実的な演技にも是非ご注目ください。

九州を拠点に活動するきっかけ

肥前島原子ども狂言で子どもたちに狂言の指導をする野村万禄氏

万禄:東京生まれの私が福岡に居を移し、活動を始めたのは1997年です。当時、独立したこともあり、自分自身の活動拠点を東京以外に広げたいという想いがありました。和泉流の狂言は、地方ではまだまだなじみが薄かったので狂言の裾野を広げたいと考えたのです。その時に、福岡は地方都市でありながら、能楽公演が盛んに行われており注目したのがきっかけです。
福岡は、東京からのアクセスが充実していますし、川・海・山の自然もあり、何より福岡の人々には他の地域からの移住者を受け入れてくれる包容力がありました。そしてノリが良くて義理人情に厚い。こうしたことからも、福岡をはじめ九州地方で能楽の普及と後進の育成をしようと決め、活動を続けてまいりました。

現在は、福岡を中心に九州各地での公演や稽古、そして各地方で狂言ワークショップでの指導を行っています。

長崎「肥前島原子ども狂言」

九州でのワークショップのひとつが、長崎県島原市で20年前から指導を担当している「肥前島原子ども狂言」です。
毎年5月からスタートし、10月に島原城を背景として開催される「島原城薪能」の舞台での発表を目標に稽古を重ねます。
未就学児から高校生までの40人ほどの子どもに月1〜2回の指導を行います。狂言の魅力はもちろん、正座やあいさつといった日本の礼儀作法なども教えています。

20年続けておりますと、かつての卒業生が子どもたちの稽古を手伝ってくれたり、あるいは市の職員となって活動を支えてくれるサポーターが増えて大変充実した組織に成長しております。

また、子ども狂言をきっかけとして定期的に稽古に通うようになった方もおり、普及の成果を大変実感しています。


2023年島原城薪能で、狂言「茸(くさびら)」を演じる子どもたちと野村万禄氏
2023年島原城薪能で島原のオリジナル狂言「釣ろうよ」を演じる子どもたち

2023年島原城薪能では、小舞も披露

能楽協会 九州支部の活動について

万禄:公益社団法人能楽協会では全国を7支部に分け、地域に根付いた活動をしています。
私は2022年夏に九州支部長を拝命いたしました。能楽をもっと元気にしようと、九州を拠点として活動している能楽師と協力し、新たな試みをはじめました。

九州支部としての活動の柱は、学校でのワークショップなどのほか、福岡市の大濠公園能楽堂で年2回主催公演(8月「ほおずき能」・12月「クリスマス能」)を開催しています。

最近では、この主催公演にたくさんのお客様に足を運んでいただこうと、地元企業の協賛による広報など、地元も一緒に盛り上げられる活動を試みています。

また、昨年の「ほおづき能」では初の試みとして「事前講座」を公演3週間前に開催し、公演の魅力を多くの方にお届けしました。能楽公演は事前講座で物語のポイントや解説をすることでわかりやすくご覧いただけると大変好評です。

今年12月24日(日)開催の「クリスマス能」でも、どなたでも無料で参加できる「事前講座」を予定しています。

また、「ほおずき能」では、公演後にロビーに出て、お客様にご挨拶とお見送りをさせていただきました。カーテンコールの延長戦上のような感覚で、とにかくお客様に喜んでいただきたいとの思いからです。

ここ数年、コロナ禍もあり入場者も減少し、活動が大変厳しくなっているのも事実です。これを打開するためにも、今後もさまざまな工夫を重ね、九州支部の能楽を盛り上げていけたらと考えています。

2023年12月24日開催 クリスマス能 チラシ

九州エリアは能楽スポット多し

九州には独立型の能楽堂がたくさんあります。とくに福岡市には、広大な大濠公園の一角にあり昨年リニューアルオープンした大濠公園能楽堂をはじめとして、市の有形文化財にも指定されている伝統ある住吉神社能楽殿、能楽師が運営する森本能舞台・白金能楽堂とコンパクトなエリアに4つもの能楽堂があり、能楽公演が定期的に開催されています。大分には市営の平和市民公園能楽堂もあります。九州エリアの能楽スポットは充実していますので、お近くの映画館に行くような感覚で足を運んでいただけたらと願っています。

今回の宗像特別公演「能楽入門講座」はまさに能楽のきっかけづくりになれればと考えています。
会場の宗像ユリックス ハーモニーホールでは、コロナ禍以来の久々の能楽公演となります。

「棒縛」で大いに笑っていただき、「船弁慶」でスペクタクルな能をお楽しみいただき、明日への活力にしていただけたらと思います。能楽師による解説とアフタートークもありますので、ぜひお楽しみください。

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