【宝生流特別公演】能「七人猩々」シテ方宝生流 久貫弘能氏インタビュー

公益社団法人 能楽協会

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「日本全国 能楽キャラバン! 宝生流特別公演」は2024年1月21日(日)に福岡市の大濠公園能楽堂で開催されます。

本公演は、シテ方宝生流の七人の女流能楽師が華やかに相舞を披露する能「七人猩々」が初上演されます。 また、狂言方大蔵流の山本東次郎氏による狂言「萩大名」とシテ方宝生流の大坪喜美雄氏による仕舞「難波」という人間国宝のお二人による至高の芸をご堪能いただけます。 さらに、能の王道とも言われる能「熊野」の上演と、能楽初心者から愛好者の方まで楽しめる番組となっています。

今回、能「七人猩々」でシテ(主役)を勤めるシテ方宝生流の久貫弘能氏に、能「七人猩々」の見どころや本公演の魅力、福岡での活動について語っていただきます。

久貫弘能 プロフィール(シテ方宝生流)

1963年、茨城県古河市生まれ。
小学1年生から能楽の稽古をはじめ、當山興道に師事。
東京芸術大学大学院修士課程修了。大学入学以降、佐野萌、19代宗家宝生英照に師事。
1994年、大鼓方高安流の白坂保行氏と結婚して、福岡へ活動の拠点を移す。
舞台活動のほか、福岡や故郷・古河市で主に子どもたちの指導に当たり、また新作能「博多山笠」「桧原桜」の原作を手掛ける。重要無形文化財総合指定保持者。
風聲水音〜能への誘い(久貫弘能&白坂保行 公式サイト)

七人の女流能楽師が舞台を彩る能「七人猩々」について

久貫:今回はじめてシテを勤める「七人猩々」は、能「猩々(しょうじょう)」の宝生流固有の小書(特別演出)となります。
「猩々」は海中に棲む猩々という精霊が酒に浮かれながら舞い遊ぶ祝言曲です。通常は一人のシテが舞うのですが、今回はお家元(宝生流二十世宗家・宝生和英氏)にご提案いただきシテと六人のツレ(助演)を合わせて七人の猩々が登場し、しかも全員を女流能楽師が演じる初の「七人猩々」の上演になりました。

見どころは、三人(シテ含む)が能舞台、残り四人が橋掛かりで同じ型を同時に舞う、一糸乱れぬ相舞です。
しかしながら、二人でも合わせるのに苦労するのに、それが七人になるため、舞台裏はたいへんなことになっております。一番大きい理由は、七人の猩々の活動拠点が福岡・大阪・金沢・東京とそれぞれ異なっているため、全員そろっての稽古がなかなかできないことです。

そこで謡や囃子、足の運びなどを細かく書き入れた譜面を書き起こして、個別に稽古できるように六人にLINEで送り共有しました。拍子や囃子のリズムで合わせようと判断したのです。
その後も、都合のあった数人で実際の舞台で舞い、意見を集めて譜面を修正して再度送るといった作業や、囃子を入れて私が実際に舞った動画を送ったりと、いまできる稽古や、やりとりを続けています。
七人全員が顔を揃えるのは本番四日前にお家元から稽古を受ける時、そして当日申し合わせ(リハーサル)の二回となります。それまでに個別の稽古だけでどこまで綺麗に合わせることができるか、その成果をぜひご覧いただけたらと思います。

シテとツレの七人が登場し、相舞を披露する能「七人猩々」

舞台では、七人とも全員、赤頭(あかがしら)をつけ、赤を基調とした装束に身を包み、舞を舞います。これら七人分の装束を揃ってご覧いただけるのも貴重な機会です。ぜひ装束などにもご注目ください。

「猩々」という曲は、最後の謡に「尽きせぬ宿こそめでたけれ(酒は尽きもせず、高風の家が末永く繁栄したのはまことにめでたい)」とありまして、「家の繁栄や幸せを祈ります」というメッセージがあるように感じています。
令和6年の始まりは、能登半島の大地震、飛行機事故など大変なことが立て続けにおきました。いまだに行方不明の方が数多くいらっしゃいます。この一年がすべての方にとって良き年となりますように、祈りを込めて舞いたいと思います。

1999年、大濠公園能楽堂で能「猩々」の小書「乱(みだれ)」でシテを演じる久貫弘能氏

大濠公園能楽堂や福岡での能楽普及活動

大濠公園の入り口すぐという素晴らしい立地にある大濠公園能楽堂

久貫:公演会場の大濠公園能楽堂は現在、福岡で活動する私にとってホームグラウンドのような舞台です。
福岡の能楽公演はこちらで開催されることが多く、また、子どもたちへのお稽古・指導の会場などにも活用しています。市営地下鉄 大濠公園駅の最寄りにありますし、福岡空港からも地下鉄で1本、約30分と大変アクセスが良く、市民が自然と集う大きな池がある公園の中にあるという素晴らしい環境です。

しかしながら、その存在が一般の方には意外と知られていないことが残念でなりません。福岡は東京に比べれば能楽公演の機会が少ないので、能楽を観てくださる方、愛好してくださる方を少しでも増やしていけたらと思い、様々な普及活動をしています。

私が所属する公益社団法人能楽協会の九州支部では、学校でのワークショップなどのほか、大濠公園能楽堂を会場として年2回主催公演(8月「ほおずき能」・12月「クリスマス能」)を開催しています。
そのほか、大濠公園能楽堂では、能楽がはじめての方にも気軽に足を運んで楽しんでいただけるように企画を凝らしたさまざまな能楽公演が行われています。
※くわしくは【宗像特別公演】能楽入門講座の魅力と九州能楽の現在をご覧ください。

また、個人的に注力しているのが子どもたちへの指導です。子どもたちには、お能を通して、日本人が受け継いできた文化や精神、礼儀作法なども伝えていきたいと思っています。日本古来から伝わる精神・魂は謡の言葉の中にも能の身体の使い方にも存在しています。
たとえば、「なぜ、お辞儀が大切なのか?」武道にも共通する視点で説明するならば、「頭を下げつつ相手の動きをしっかり見る」「自分の身を守るための動作」でもあるんです。これらの理由をしっかり説明して教えると子どもも納得して受け入れてくれます。この先、お能を継承していくためにも必要なことであると感じています。

本公演には、能楽の稽古をしている子どもたちも来てくれる予定です。
「猩々」は子どもたちがすでにお稽古をしているなじみのある曲で、今回は猩々が七人も登場するとあって楽しみにしてくれています。

能楽ファンも初心者も楽しめる番組構成

能「熊野」のシテ 池田宿の遊女・熊野(ゆや)

久貫:本公演は、昔から「熊野、松風米の飯」と愛好者の中でも称えられるほどの人気曲「熊野(ゆや)」からはじまります。

そのあとに人間国宝のお二人にご登場いただき、大坪喜美雄先生に紋付袴姿で地謡のみで舞う仕舞「難波」、山本東次郎先生に滑稽な掛け合いが魅力の狂言「萩大名」をご披露いただきます。人間国宝の先生方の芸を続けて二番もご覧いただける豪華な番組となっています。

最後に華やかな演出による能「七人猩々」と、能楽はまったくはじめての方から能楽をお稽古されている方にも楽しんでいただける内容になっています。

本公演は、公演中にお手持ちのスマホやタブレットに字幕解説が自動的に表示される「能楽鑑賞字幕サービス 能サポ」対応公演となっています。「能サポ」は、鑑賞の邪魔にならないように短い字幕でわかりやすく解説をしてくれるので能楽初心者の心強い味方です。ぜひご活用ください。

本公演に、能楽初心者の方にも気軽に足を運んでいただき、新たな能楽ファンが一人でも増えることを願っています。

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