能楽公演のみどころ

新潟公演「道成寺 赤頭」シテ方観世流 山階彌右衛門氏インタビュー

公益社団法人 能楽協会

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北陸/甲信越 インタビュー
山階彌右衛門氏インタビュー

2023年、新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館は開館25周年を迎えます。その幕開けに2023年1月7日(土)「新潟 観世流特別公演」にて能の大曲「道成寺」が上演されます。

「道成寺」は、能舞台中央に吊られる巨大な鐘の作り物で有名な、大曲といわれている能の演目です。観世流による「道成寺」の新潟での上演は15年ぶり。本記事では、「道成寺」のシテ(主役)を演じるシテ方観世流 山階彌右衛門氏に「道成寺」の見どころや本公演の魅力、会場との深い関わりについて語っていただきました。

山階彌右衛門 プロフィール(シテ方観世流)

1961年、二十五世観世宗家 観世左近の次男として生まれる。
2007年、十二世山階彌右衛門を襲名。

国内各地での能楽公演をはじめ、学校・企業などで能の面白さを分かりやすく学べる「能のワークショップ」を継続的に行うなど普及活動と後進の育成に力を注いでいる。海外公演にも数多く参加。

一般社団法人観世会 副理事長。一般財団法人観世文庫 常務理事。国立能楽堂 能楽養成 副主任講師。

山階彌右衛門公式ウェブサイト

秘すれば花「道成寺」

山階:本公演の会場である「りゅーとぴあ」で「道成寺」のシテを勤めさせていただくのは2回目です。前回は2008年の開館10周年記念時に舞わせていただきました。以来、私にとっても、そして観世流にとっても新潟での「道成寺」公演は15年ぶりとなります。

能を大成した世阿弥の本「風姿花伝」内に「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」と芸事における心得があります。とりわけ、「道成寺」の舞台裏については語ってはいけないとされております。ですので、このインタビューはこれで終わり……(笑)、とはいきませんよね。
今回は見どころや私のエピソードを少し語らせていただきます。

「道成寺」見どころ解説

山階:「道成寺」は「安珍清姫(あんちんきよひめ)伝説」をもとに激しい恋の執念を描いた能の大曲です。

見どころは、なんといってもです。後見によって大きな鐘の作り物が舞台に運ばれ、天井の滑車に釣り上げられるところからはじまります。すでにその時点から舞台には緊張感が漂い、他の演目とは様子が違います。それから、シテの白拍子が華やかな桜の中に登場する「道行」での謡。高音から低音にドラスティックに変わる謡が聴きどころです。続いて、シテが小鼓に合わせてゆっくり足先やかかとを上げたり引いたりする「乱拍子(らんびょうし)」、その静寂を破りシテが激しく舞う「急の舞」、そして後見によって鐘が落とされ、シテが鐘に飛び入む有名な「鐘入」。これが最大の見どころで、鐘が引き上げられると、蛇体の鬼女に一変したシテが現れます。

この場面、鐘の中に後見もいて面装束を付け替えてもらっているのでは?と思われがちですが、鐘入中に一人で着替えを行います。これが実に難しい。真っ暗な鐘の内で中腰になり手探りで着付けをするわけですから。

若い頃は、布団の中で着替えの稽古をしました(先輩に教えていただきました)。布団をかぶった暗い中で、寝間着をパッと脱いで紋付き袴に着替えるのです。これが意外と難しく、良い稽古になったのを覚えています。

披キの曲でもある「道成寺」

山階:ここ一番の大曲を演じることを能では「披キ(ひらき)」と言います。とくに、道成寺の披キは能楽師として一人前になれるかどうかの卒業試験とも言われます。自分で着付けができ、難しい地謡も舞もできるようになり、そうしてはじめてシテを勤められる曲だからこそ「道成寺」は披きの曲と言えるんですね。

能楽師にとっては難易度が上がるがより豪華に楽しんでいただける小書「赤頭」

山階:私が「道成寺」を披いたのは25歳のときで、今回が8回目のシテになります。今回は「赤頭(あかがしら)」の小書(特別演出)で演じます。「赤頭」では、後シテ(蛇体の鬼女)の髪の色が通常の白から赤に変わります。面装束もガラッと変わるほか、乱拍子などの舞は凝縮されます。

能楽師にとっては鐘の内での着替えなども含めて難易度が上がりますが、その分、お客様にとってはお楽しみいただける豪華な演出となっていますのでご期待ください。

2008年のりゅーとぴあ開館10周年記念で「道成寺」シテを演じる山階氏

鏡板を外して野外の雰囲気を楽しむこともできる屋内能楽堂

山階:会場のりゅーとぴあは新潟市の白山公園にあり、能楽堂のほかに、コンサートホールや劇場も備えた施設です。能楽堂は5階にあり、ロビーからはすぐ下を流れる信濃川のほか、遠くには佐渡島ものぞむことができます。ロビーには能装束なども飾られ、見る人の目を楽しませてくれます。

檜床の舞台、檜皮葺きの屋根など伝統的な様式を備えた屋内能楽堂ですが、この能楽堂ならではの素晴らしい施設があります。それは鏡板をはずしたときの背景です。奥には竹林の中庭が広がり、あたかも野外で能を鑑賞している雰囲気を味わえます。私もかつて鏡板をはずした舞台で能「安宅」などを演じたことがありますが、まるで物語の中にいるような借景でお客様にも楽しんでいただけました。

2021年12月の能楽キャラバン新潟公演より。鏡板をはずした舞台で「安宅」シテを演じられる山階氏

本公演前には「道成寺プレ講座」も開催

山階:会場のりゅーとぴあと私との関わりは古く、山階家の先代が新潟にお稽古に通っていた関係で、1988年の開館前から能楽堂の造りなどについてアドバイスをさせていただきました。以来、能公演の舞台に定期的にお声がけをいただいているほか、毎年開催されている「おやこ“能”たいけん教室」や「おとなのための能楽講座」の講師を勤めています。

さらには、りゅーとぴあ主催により毎年新潟市内の10校ほどの小学校で行っている能の体験授業の講師も担当しています。りゅーとぴあは多くの方々に能を知っていただき、能公演に足を運んでいただくための普及活動を熱心にされています。

本公演に際しても、公演の約1カ月前の12月3日(土)に「道成寺プレ講座」が予定されています。2022年夏に上演されて話題となった能 狂言「鬼滅の刃」の脚本制作を担当された木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一さんが講師を勤められ、「道成寺」の見どころをお客様からの視点でわかりやすくご紹介していただく予定となっています。こちらにもご参加いただくと本公演をよりお楽しみいただけると思います。

「おやこ“能”たいけん教室」で能面を紹介

山階氏と一緒に能の所作を体験する子どもたち

佐渡で能楽に触れる旅も兼ねてぜひ新潟公演に足をお運びください!

山階:本公演は「道成寺」の前にも新潟と縁が深い観世流の能楽師による連吟と仕舞もお楽しみいただける番組になっています。連吟や仕舞を通して徐々に能の世界に入ってきていただき、最後に緊張感をともなう「道成寺」の世界に存分に浸っていただければと思います。今回は、25歳以下の方を対象としたお得な「U25席」もご用意しましたので、とくに若い世代の方にも気軽にご覧いただけたらと願っています。

新潟には、お米をはじめとして魚貝、ブランド肉、へぎそば、そして朝採りの枝豆と、美味しい食べ物がたくさんありますので、ぜひ新潟旅行を兼ねて公演に足を運んでいただけたらと思います。とくにお時間がある方は、ぜひ泊まられて、新潟港から高速船に乗れば約1時間で到着する佐渡への旅をおすすめします。

佐渡は世阿弥が流された地で、世阿弥所縁の寺などの史跡も多くありますし、かつては島内に200以上の能舞台があり、現在も能楽が盛んに演じられています。お能が好きな皆さまは是非、「佐渡で能楽に触れる旅」を体験していただけたらと思います。
本公演は、正月明け早々の公演となりますが、今回の年末年始は休み返上で気を引き締めて舞台に臨む所存です。ぜひご期待ください。

佐渡に残る現役の能舞台の一つ、大膳(だいぜん)神社能舞台。現在も演能されている

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