さいたま公演 「羽衣」シテ方金春流 安達裕香氏インタビュー

公益社団法人 能楽協会

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「日本全国能楽キャラバン! さいたま公演」が2023年8月16日(水)に埼玉県さいたま市大宮区のRaiBoC Hall(市民会館おおみや)大ホールで開催されます。

本公演は「夏休み みんなの能狂言」と題して、小・中学校の教科書にも掲載されている能「敦盛」「羽衣」と狂言「柿山伏」を上演。子どもや学生、はじめて能をご覧になる方にも気軽にお楽しみいただける公演です。

本記事では「羽衣」のシテ(主役)を演じるシテ方金春流の若手のホープ・安達裕香氏に公演に寄せる想いや魅力について語っていただきます。

安達裕香氏 プロフィール(シテ方金春流)

1989年生まれ、徳島県出身。2011年、早稲田大学文学部卒業。
学生時代に能楽と出会い、卒業後にプロの道へ進む。シテ方金春流の本田光洋に師事。

2015年、円満井会定例能にて能「小鍛冶」初シテ。
2018年に「乱」、2021年に「石橋」を披く(大曲を初めて演じること)。
能楽協会会員、金春円満井会会員。

安達裕香公式Twitter

親子連れでも楽しめるポピュラーな演目を上演

安達:今回の公演は、私の師匠である本田光洋が立ち上げから携わっている「大宮薪能」が毎年行われている地というご縁でして、埼玉県さいたま市大宮区で開催します。夏休み期間中ですので、若い世代をはじめ、能ははじめてという方にも見ていただけるように、教科書にも掲載されているポピュラーな演目を上演します。 「敦盛」は平家の若い武将が太刀で舞うカッコイイ演目ですし、私がシテを勤める「羽衣」は昔話の羽衣伝説をもとにした天女が羽衣をまとって優雅に舞うおなじみの演目です。

会場のRaiBoC Hallは、昨年オープンしたばかりの新しい多目的ホールです。大宮駅前にある大宮門街(かどまち)」という複合商業施設内にあり、地元の皆様にも気軽に足を運んでいただける場所です。“能は敷居が高い、難しい”と思われがちですが、日常の中で映画を見たりコンサートに行ったりするのと同じような感覚で、出演者の舞(演技)はもちろん、装束(能の衣装)やお囃子(能の音楽)なども楽しんでいただければと思います。

今回の公演では、最初にあらすじや見どころの解説を行いますし、スマホでご覧いただける無料の字幕解説「能サポ」もご用意しています。通常の公演と比べてお求めやすいチケット料金になっていますので、ぜひご家族やお友達を誘ってご来場ください。

東京・西荻窪の金春円満会事務所で行ったインタビュー

シテの天女を演じる「羽衣」の魅力・難しさ

能「羽衣」の舞台である三保の松原(静岡県清水市)

安達:私が「羽衣」のシテを演じるのは2回目となります。「羽衣」は「天女がとられた羽衣を返してもらい、舞を舞う」というシンプルなストーリーで、能のお稽古では初期に習う身近な演目です。しかし、演者からするととても難しい演目なんです。なによりも、天女は天上界という嘘偽りのない世界にいる人なので、表現するのが難しいのです。天女の「羽衣がなければ天に帰れない」という悲しさや、「羽衣を返してくれたお礼に、舞を見せます」という純粋さをどう表現するかをいつも念頭に置いています。その天女の純粋さがこの演目のテーマだと思いますが、観る方にも自然に伝わるように表現できたらと思いながら稽古をしています。

また、「羽衣」の舞台である三保の松原の風景も感じていただけたらと願っています。舞台には松原を象徴する松の作り物(舞台装置・大道具)が正面に置かれます。謡にも登場する春の浦、波音や松風、富士の高嶺などの美しい光景を一緒に想像していただけたら大変うれしいです。

公演を通して若い世代にも伝えたい「能の魅力」

安達:私が能と出会ったのは、大学生のときでした。能楽サークルのチラシをもらい、そこに掲載されている能装束を着けて舞う姿を見た瞬間「素敵だ、カッコイイ」と純粋に感じました。実際に能の稽古を始めて、限りなくシンプルな舞台で「舞」「謡」「囃子」のみでおはなしが進んでいく、その凝縮された美しさにとても惹かれました。いろいろな説明・装置がなくても、世界が動いていき、観る側もいつしか時間を忘れてその世界に入り込んでいく……それが能の魅力だと思います。

日本全国 能楽キャラバン!は、全国のさまざまな地域や会場で能公演が開催され、私たち能楽師にとっても全国の皆様にお目にかかることができる貴重な機会です。今回のさいたま公演が皆様にとって能の世界への入り口となり、若い世代にも能楽の魅力を伝えることができたらと願っています。

「羽衣」を替ノ型の小書(特殊演出)によりシテを演じた安達裕香氏(2019年) 撮影:辻井清一郎

 

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