金春円満井会鹿児島公演「江口」シテ方金春流 山井綱雄氏インタビュー

公益社団法人 能楽協会

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九州/沖縄 インタビュー

「能でめでたくお正月」として鹿児島から新年を祝う能楽の祭典「日本全国能楽キャラバン! 金春円満井会鹿児島公演」が2023年1月4日(水)に鹿児島市のかごしま県民交流センター県民ホール能舞台で開催されます。

本公演は、江戸時代、薩州島津候に仕えるなど鹿児島に縁の深い金春流の主要な能楽師が勢揃いし、宗家による天下泰平を寿ぎ国土安穏を祈念する「翁」の謡を皮切りに、能、狂言、仕舞などバラエティーに溢れた贅沢な番組で新年を寿ぎます。

今回、能「江口」の初シテ(主役)で新境地を切り開く、山井綱雄氏に本公演にかける熱い思いを語っていただきました。

山井綱雄氏プロフィール(シテ方金春流)

1973年、神奈川県生まれ。八十世金春安明、富山禮子に師事。
祖父はシテ方金春流 梅村平史朗。5歳で初舞台。

「能楽は世界最高の芸術である」との信念の下、能楽普及と「日本の心」の啓蒙に奔走。日本国内での能楽公演、初心者のための能ワークショップ、学校公演なども多数開催。海外公演や、他ジャンル芸術家との共演、創作作品にも多数取り組み、能楽の新たな可能性に挑み続けている。

公益社団法人能楽協会理事・公益社団法人金春円満井会常務理事・山井綱雄能の会「山井綱雄之會」と謡曲・仕舞「春綱会」を主宰。

山井綱雄 公式サイト

金春流が総力を結集する舞台で敢えて能楽の王道曲「江口」に挑む理由

山井:今回は、金春流の主要な能楽師が鹿児島の地に集結し、大都市圏でもなかなか実現しない豪華なプログラムを、総力を挙げてお届けします。
当日の番組は、八十一世宗家の金春憲和による天下泰平を祈る謡「」を皮切りに、代宗家の金春安明が新春を寿ぐ住吉明神の舞「高砂」に続き、私が初のシテに挑む能「江口」、狂言「末広かり」、仕舞3曲を挟んで、最後は紅白二体の獅子が縦横無尽に舞う半能「石橋(しゃっきょう) 古式」と、新年を祝うおめでたい曲のオンパレードとなっています。

現在、世界はコロナや戦乱などにより厳しい状況にありますが、その中にあっても前を向いて頑張っていこうという、能楽が根本的に持っている永久の平和への祈りのメッセージをこの番組構成に込めました。
私も、そのような思いで初シテとなる「江口」を自身で選曲しました。

「江口」は女性を主人公として優美な舞を見せる三番目物、鬘物(かずらもの)といわれるジャンルに属し、月夜に舟遊びをする遊女が普賢菩薩となって昇天するという幽玄美溢れる能楽の王道曲です。この機会に、本格的な能の演目を、能楽初心者の方をも含む多くの皆様にご覧いただきたいと考え、敢えて本公演にぶつけました。

「江口」は、物語をドラマ的に楽しむというよりも、肌感覚で何かを感じ取っていただきたい作品です。とくに後半は遊女の優雅で美しい舞が続きますので、頭で理解するというよりは、面装束の美しさなども含めて感覚的に捉えていただき、ストレスフリーな状態で、癒やしの効果を得ていただけたらうれしいです。

今回、「江口」の地頭(じがしら=地謡のリーダー)を勤めるのは、金春流の重鎮・本田光洋先生です。幼少の頃から、そして今なお叱咤激励してくださる芸歴76年の先生とご一緒できることは感無量です。

また、「江口」というと思い出すのが、私がまだ20代の頃、祖父のお弟子さんだったアマチュアの方がシテを勤められ、私が地謡を勤めた時の舞台です。
通常、アマチュアの方が「江口」を舞う時は、楽に舞えるように地謡や囃子のテンポを少し速めるのが常なのですが、その方は高齢にもかかわらず、堂々と最後までプロ顔負けのゆったりとしたペースで舞われました。それは実に見事な舞台でした。このように「江口」という曲は、演者の生き様や魂のようなものが舞台に色濃く反映されます。その時の舞台は、まさにその方の生き様が現れた素晴らしい舞台でした。私も今回の「江口」でそのような姿をお見せできたらと思っています。

金春流の重鎮・本田光洋氏のシテによる能「江口」(※撮影/辻井清一郎)

九州で活躍する3人の女性能楽師による彩り豊かな仕舞も必見!

山井:本公演の見どころのひとつとして、九州を拠点に活動する3人の女性能楽師がそれぞれ披露する仕舞があります。

中でも「野宮(ののみや)」を舞う上野寧子さんは昭和8年生まれ。私の祖父が大学で能を教えていた時のお弟子さんで、鹿児島へ嫁がれる際に祖父から言われた「鹿児島で能楽を広めるように」との言葉を見事に実践され、鹿児島での能楽振興に大きな貢献を果たされてきました。

今回の会場である、かごしま県民交流センター県民ホール能舞台が建築された際にもご尽力をいただき、おかげで全国的にも珍しい本格的な能舞台が付設されたホールが誕生しました。仮設の舞台ではないので客席との距離も近く、能楽堂の雰囲気がそのままに味わえる舞台となっています。

今回は、上野さんに無理をお願いして、この舞台で舞っていただけることになりました。九州を代表する女性能楽師の彩り豊かな仕舞をお楽しみいただけることと思います。

私としても、これまで鹿児島で能楽振興に寄与されてきた皆さまへの御礼の気持ちを込めて、今回は特別な能面とともに鹿児島に渡ります。
通常、金春流の「江口」では「小面(こおもて)」という女面で舞いますが、今回は、江戸時代初期に能面の名工と言われた河内大掾家重(かわちだいじょういえしげ)作の小面をかける予定です。祖父が生前愛用していた、わが家の家宝ともいえるものです。ぜひこちらの能面にもご注目ください。

かごしま県民交流センター県民ホール能舞台。本格的な能舞台がステージ裏に格納されており、公演時には電動式で前方に出てくる構造になっています

本公演に向けて鹿児島の皆さんに能楽をご紹介する事前ワークショップも開催!

山井:本公演に向けて鹿児島の皆さまに能楽に興味を持っていただけたらと、9〜11月の3日間、「わくわく能楽 days」という事前ワークショップを鹿児島天文館の繁華街にある商業施設で開催しました。

東京からも金春流の能楽師が足を運び、面装束の展示能楽体験を行ったところ、たいへん多くの方にご来場いただくことができました。これをひとつのきっかけとして、今後もこのようなワークショップを続け、鹿児島に能楽の輪を広げていこうと考えています。

12月17日(土)には「能装束着付け実演講座」も鹿児島市で予定しています。本公演で仕舞「八島」を舞う中野由佳子が講師を勤めますので、こちらにもご参加いただけると、本公演をさらにお楽しみいただけることと思います。

本公演は、過去多くの皆さまの力で鹿児島に根付いた能楽が、この日を起点としてさらに未来に向かって大きく花開くように、大きな歴史の転換点となるような舞台を目指します。私は、そのような気構えで「江口」に挑みます。ひとりでも多くの方に歴史的な瞬間に立ち合っていただけたらと思います。

本公演に向けて「わくわく能楽 days」と名付けられた能楽ワークショップが鹿児島で開催されました

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