【大槻文藏が舞ふ! 九州三日連続公演】各公演の見どころ

公益社団法人 能楽協会

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九州/沖縄 公演の魅力

2024年新春「大槻文藏が舞ふ!」と題しまして、佐賀1月6日(土)・唐津 7日(日)・宮崎8日(月祝)と三日間続けて九州を巡る「日本全国 能楽キャラバン!」公演が開催されます。

全日で出演するシテ方観世流 大槻文藏氏は現代の能楽界を代表する役者のひとりです。2016年に大阪のシテ方としては初となる重要無形文化財各個認定(人間国宝)を受けられました。大槻文藏氏による地方公演自体がほぼ初の試みとなり、人間国宝の芸を間近に体験できる貴重な機会です。

本記事では3公演に共通する魅力と、各公演で大槻文藏氏が演じる能の演目を中心に見どころをご紹介します。

上演前のお話や対談について

今回の九州公演は三日間ともに 狂言方和泉流 野村萬斎氏を迎え、各公演に花を添えていただきます。佐賀・唐津公演では狂言を、宮崎公演では「翁」への出演のほか、大槻文藏氏との対談が予定されています。
ともに能楽界のトップを走ってこられ、新作への取り組みなど共通点の多いお二人です。きっと貴重なお話が聞けることと思いますので、ぜひご期待ください。

また、6日の佐賀、7日の唐津公演では 上演前にシテ方観世流 多久島法子氏による解説が行われます。能楽初心者の方にも分かりやすく、楽しいお話の時間になると思います。
8日の対談を含め、三日間、いずれのトークイベントも、九州地区で活躍されているフリーアナウンサーやマルチタレントの方々に、ナビゲータ―として加わっていただきますので、能楽初心者の方にもわかりやすく、楽しいお話の時間になると思います。

1月6日(土)佐賀公演の見どころ

会場となる佐賀市について

佐賀市は九州の北西部に位置する県庁所在地です。佐賀城とその周辺に発達した城下町が今でも市の中心部となっています。城自体は残念ながら明治初期に焼失してしまいますが、残された鯱の門(しゃちのもん)と続櫓(つづきやぐら)は国の重要文化財に指定され、城跡に作られた「佐賀城公園」には「佐賀城本丸歴史館」「佐賀県立美術館」「佐賀県立博物館」など、文化スポットが数多くあります。佐賀城公園の北側、柳町地区には日本の近代化を物語る7つの歴史的な建築が残されており、「佐賀市歴史民俗館」として整備、公開されています。

本公演の会場となる佐賀市文化会館からは駅を挟んで1kmほどの近さとなります。公演と合わせて、魅力あふれる佐賀の街を散策してみてはいかがでしょうか。

能「船弁慶 前後之替」能がはじめての方も楽しめるスペクタクル曲

能「船弁慶」は、兄・源頼朝に追われ西国へと下る源義経一行の物語。前シテの静御前を大槻文藏氏が演じます。 前場では愛妾・静御前との別れを描き、後場では怨霊となって現れた平知盛との激しい戦いのありさまが描かれます。

前半と後半でガラリと場面が転換するスペクタクルな構成で、各役それぞれに見どころ、聞きどころが多く、人気曲のひとつです。能楽初心者の方にとっての入門曲としてもピッタリの曲ですが、今回の佐賀公演での注目ポイントを2つ挙げましょう。


能「船弁慶」前シテの静御前、後シテの平知盛

船弁慶 注目ポイント🔎

小書「前後之替」

今回の能「船弁慶」は「前後之替(ぜんごのかえ)」という小書で上演されます。この小書はその名の通り、前場、後場の両方で、通常とは異なる“替えた”演出がなされるものです。

前場では、静かでゆったりした舞が続き、さらにこの舞の途中で、義経を見つめ、別れに涙を流す場面が挿入されます。

後場の知盛は装束が変わり、義経一行とのやり取りがより一層強調された演出になります。また、後シテの登場の際に「半幕」といって揚幕を半分ほど引き上げて、幕内で床几(しょうぎ)に腰掛けた姿を見せるのも特徴的な演出です。 今回はホールでの演能ですので、この「半幕」が行えるのかどうか、また舞の省略と変化についても、あくまでも原則的なものですので、実際はどういった演出になるか、本番を楽しみにしていただきたいと思います。

前シテ・後シテを別役者が演じます

佐賀公演では前シテと後シテを別の役者が演じます。
通常、前場、後場の二場構成になっている能では、同じ役者がシテを勤めます。しかし、演者や会の意図、曲趣等によっては、役者を替えて演ずる場合もあります。
「船弁慶」は、前後シテは、性別が異なり、まったくの別人格です。そして場面が劇的に変化し、前場の静御前と後場の平知盛の間に役柄としての関連がない、といったことから前後のシテを替えて演ずることがしやすい曲となっています。
今回の佐賀公演では、前シテを大槻文藏氏、後シテを後継者である大槻裕一氏が勤められ、親子での共演をご覧いただく趣向です。

1月7日(日)唐津公演

会場 旧高取邸 について

唐津公演の会場となる「旧高取邸」は、国から重要文化財の指定を受けた伝統的建築物で「肥前の炭鉱王」と呼ばれた実業家、高取伊好(たかとりこれよし)の私邸として明治38年(1905)に建設されました。
和風建築でありながら洋間があり、随所に洋風を取り入れるなど、近代の建築として特徴的な造りをしていますが、特筆すべきは大広間に能舞台が据えられていることです。この能舞台が今回の演能場所となります。
広間の正面に三間四方に設けられた舞台で、襖には老松が描かれ鏡板として用いられます。さらに襖を取り外し、移動することでアト座、地謡座、橋掛かりのスペースが現れ、本格的な演能にも使用することができるという工夫がなされたものです。チケットはお陰様で完売となりました。ご来場いただくお客様には、ぜひ特別な空間での上演をお楽しみください。

能「羽衣 彩色之伝」

能「羽衣」は羽衣を取られ天に帰れなくなってしまった天女の物語として各地に伝わる「羽衣伝説」をもとにした曲です。唐津公演は、天女を大槻文藏氏が演じます。
小書の「彩色之伝(さいしきのでん)」は観世流で三つある「羽衣」の小書(ほか二つは「脇留」「和合之舞」)のうち、最も重く扱われるものだそうです。通常の演出とどこが変わるのか、注目ポイントを挙げてみましょう。

能「羽衣」シテの天女を演じる大槻文蔵氏

羽衣 彩色之伝 注目ポイント🔎

謡のメイン部分が省略される

通常の「羽衣」では、天上世界の様子や天人の役割、その天人が天下って伝えたという駿河舞という歌舞のいわれが、三保の松原の美しい叙景とともに謡われます。 しかし「彩色之伝」になると、この曲の中心となる物語の謡が省かれ、舞の導入部の謡に跳びます。かなり大胆なカットですが、これは「羽衣」という曲のウェイトを舞に集約させる工夫ともいえます。なお、謡のメイン部分を抜くのが通例ですが、抜かない演じ方もあるようです。

舞の変化

「彩色之伝」になると、通常の舞よりも笛の調子が一調子高くなり、より天上世界をイメージさせるような透明感のあるものとなります。このメインの舞の後に添えられる短い舞も、月世界へのあこがれ、静寂感が表現される通常とは違った演出が加えられます。

装束、作り物の変化

シテの天女の冠の装飾が、白蓮華に変わります。また普段は松の作り物(舞台装置)を出して、羽衣を掛けますが、橋掛かりの欄干に掛ける演出に変わるのも同様です。 しかしながら、今回の会場となる旧高取邸では、橋掛かりのスペースがそう長くはないはずなので、どのように演じられるのか、注目してご覧になると一層面白みが増すのではないでしょうか。

1月8日(祝・月)宮崎公演の見どころ

会場となる宮崎市 清武町について

会場は宮崎市ですが、市街地から少し離れた清武町での公演になります。
宮崎市での能楽公演はやや少ない傾向にあります、能楽を見たことがない方でも、少しでも興味をもっていただけるようにと、新春にふさわしい「翁」と
大槻文藏が復曲したご当地曲の復曲能「鵜羽」の上演といたしました。

清武町は九州の中南部に位置し、2010年に宮崎市に編入合併された地域です。大学の開学を機に学園都市としての発展が始まり、温暖な気候で自然豊かな農林業の町で「文教の町」を掲げています。

会場となる清武文化会館・半九ホールの「半九」という名称は、この「文教の町」のきっかけとなった、清武出身の儒学者・安井息軒(やすいそっけん)の座右の銘「百里を行く者は九十を半ばとす」に由来します。

息軒の業績は江戸期儒学の集大成とされ、また多くの優秀な門弟を育てたことでも知られています。宮崎市安井息件記念館・安井息軒旧宅」では、そんな“知の巨人”安井息件の偉業に触れることができます。会場最寄りの清武駅から20分ほどの距離にあります。

清武文化会館のすぐそばには、物産館「交流プラザきよたけ 四季の夢」があります。地元の生産者が育てた野菜、果物を中心に加工品や、お弁当、お惣菜、清武町の工芸品などが販売され、賑わいを見せています。宮崎公演を機会に、清武町の歴史と物産をお楽しみください。

「翁」 天下泰平を祈る神事儀礼の曲

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「翁」で翁を演じる大槻文藏氏(写真左) 三番叟を演じる野村萬斎氏(写真右)


本公演で大槻文藏氏が演じる「」は能楽の起源ともいうべき曲で、神事儀礼としてすべてが粛々と執り行われます。

「翁」は幕府の式楽であったころからの伝統にならって、新年最初の演能会である初会の時に必ず行われてきました。天下泰平、国土安穏、五穀豊穣を祈る「翁」芸能の本質は、地域の祭りや、そこで行われている芸能と何ら変わるものではありません。
新春を寿ぐ「翁」の凛とした清々しい空気感をぜひ味わっていただければと思います。

 

能「鵜羽」 宮崎を舞台としたご当地能

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能「鵜羽」前シテとツレの海女(写真左)、後シテの豊玉姫(写真右)


能「鵜羽(うのは)」は平成3年(1991)に大槻文藏氏が中心となって復曲(現在上演されていない曲を現代に復活させた作品)された能です。今回は大槻裕一氏がシテを勤めます。

この曲は宮崎県を舞台としたご当地曲です。 日本神話を題材とした曲で、日向の国 鵜戸の岩屋を訪れた恵心僧都の前に、二人の海女が現れ、鵜羽葺不合尊(うのはふきあわせずのみこと)誕生の昔話を物語ります。実は海女は尊の母で、海龍王の娘もである豊玉姫です。後場では豊玉姫(龍女)の姿で現れます。潮満玉、潮干玉の奇跡を僧都に見せ、仏法による救済を願いつつ海中へと帰っていくというストーリーです。

曲のロケーションとなる鵜戸の岩屋は現在の宮崎県日南市にある鵜戸神宮」です。地元の方々からは「鵜戸さん」と親しみを込めて呼ばれ、宮崎県南でもっとも有名な神社です。その名の示す通り、岩屋=洞窟の中に朱塗りの本殿があり、神社のある一帯が国指定名勝となっています。
鵜戸神宮の祭神であり「鵜羽」の後シテとして登場する豊玉姫は「古事記」「日本書紀」などで知られる「海幸彦山幸彦」の物語に登場するお姫様、のほうがなじみ深いかもしれません。兄に借りた釣り針をなくして、竜宮を訪ねたところ、山幸彦が海の神である龍王に気に入られ、その娘である豊玉姫と結婚し……という物語です。
こちらのエピソードは「玉井(たまのい)」という能になっています。山幸彦と豊玉姫、二人の間に生まれた子が鵜羽葺不合尊です。

最後に

これらの能を中心に、仕舞、狂言と魅力あふれた番組となっております三日間の「大槻文藏が舞ふ!」九州公演。
人間国宝の芸に触れることのできる貴重な機会です。どうぞ皆さまこぞって足をお運びいただきますようお願い申し上げます。

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