伽羅沙~能楽とオルガンによるレクイエム~新作能の魅力

公益社団法人 能楽協会

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2021年9月7日(火)に愛知県の豊田市コンサートホールにて「伽羅沙」~能楽とオルガンによるレクイエム~が開催されます。そこで、能楽笛方の竹市学師とオルガニストの徳岡めぐみさんに、公演のきっかけや「伽羅沙」「パイプオルガン」の魅力について伺いました。

今回上演される 新作能「伽羅沙」あらすじ

明智光秀が主君の織田信長を討ち取った頃、光秀の娘、玉子は密かにキリスト教の洗礼を受けます。洗礼名はガラシャ(神の恩籠)。
豊臣秀吉が没し、石田三成と徳川家康の対立が深まる中、徳川方についた細川忠興の出陣中に、ガラシャの嫁ぎ先である細川邸が石田三成によって包囲されてしまいます。細川邸に控えていたガラシャは、人質となるよりも死を選びます。家老の小笠原少斎の介錯によって37歳の生涯を閉じたのです。

「伽羅沙(がらしゃ)」は愛妻の死を悼む細川忠興が、当時禁教であったキリスト教会でミサを行う場面からはじまります。
ミサの最中、小笠原少斎の霊が現れて主君の妻を手にかけた苦悩やガラシャの最後を語ります。そして「神はなぜ奇跡を起こしガラシャを救わなかったのか」と信仰の無情に怒りをぶつけて消えるのです。ミサに参列していた高山右近に求められ、細川家の侍従がガラシャの厚い信仰心を語って去ります。
そして一人佇む右近のもとにガラシャの霊が現れ、信仰により自らが苦しみから教われ、非業の死を遂げた父の魂もまた救われたと語ります。死によって得た永遠の生命を喜び、静かに舞い、消えていくのでした。

「伽羅沙」は1997年初演以来、様々な形で演じられてきました。
戦国の世に翻弄されながらも、武家の価値観とキリスト教の理想を全うして恐れずに死を迎えるガラシャ。ガラシャの人物像を表現する方法として、パイプオルガンの演奏を取り入れています。
西洋と日本の音がいかに響き合うのか、人がいかにして生き死んでいくのかというテーマと共にご鑑賞ください。

現在上演されている能の曲と、新作能との違い

現在、主に演じられる能のほとんどは、江戸時代までに各流派によって厳選されて受け継いでいる曲です。その中で明治以降に創作されたものを新作能と呼んでいます。
新作能は現在だからこそ実現可能な演出が試みられることも多く、今回の「伽羅沙」も著名な新作能となっております。

豊田市コンサートホール×能楽キャラバン公演のきっかけ

豊田市能楽堂の正式名称は豊田市コンサートホール・能楽堂。コンサートホールを併せ持つ珍しい能楽堂です。

施設を運営する豊田市文化振興財団主催で、過去(2005年)にはオペラ「カーリューリバー」と能「隅田川」が同時上演されたこともあり、パイプオルガンの共演についても、オルガン設置10周年の時から取り組んでいました。
この場所の良さを活かせる公演としてパイプオルガン入りの能楽公演を、と道を探っていたところに今回の「日本全国 能楽キャラバン!」の話がありました。昨年よりのコロナ禍、紛争、差別等、悲しく先が見出だせない中、オルガンと能楽で鎮魂のミサが開けないかと考え、新作能「伽羅沙」を選曲いたしました。

細川忠興の「追悼のミサを始める」より始まり、パイプオルガンによるミサを開きお客様にも同席頂いている気分に浸っていただく演出になっています。伽羅沙の前シテ(伽羅沙を介錯せざるを得なかった小笠原少斎の苦悩を描く)部分をオルガンコンサートという形で上演します。
また、後シテは能面・能装束付の能の形式で演じますが、お客様との祈りにより昇天した伽羅沙が本公演ではパイプオルガンの演奏にて美しく舞います。

本公演の出演者のうち、オルガニスト 徳岡めぐみさん・シテ方 梅若紀彰さん・笛方 竹市学さんは他館を含め4回目の共演となります。是非、お客様方の色々な視点、感覚でご覧いただければ幸いです。

パイプオルガンの特徴や魅力

パイプオルガンはピアノのように鍵盤がついていますが、風をパイプに送り空気を振動させて音を出すため、管楽器に近い楽器(鍵盤楽器)です。
コンサートホールに設置されている沢山のパイプにて様々な音色をもつことができます。
そのため一人でオーケストラのようなことができ、非常に面白い楽器です。

なお、ピアノは鍵盤を叩くと音が徐々に弱くなっていくのですが、パイプオルガンは鍵盤を押している限りは同じ音量で流れ続けます。つまり、楽器の性質的にはお囃子の笛と近い部分を持ち合わせているのです。

雅楽で使われている笙(しょう)に非常に似た楽器と近いという風にも言われています。

徳岡めぐみさんも、西洋の楽器のパイプオルガンと日本の伝統芸術である能楽とのコラボレーションに非常に興味があり、過去共演されてきたという経歴をお持ちです。それぞれの楽器や文化が育ってきた背景(キリスト教と仏教)を超えて、「伽羅沙」を通じて共通したポイントを感じていただければと思います。是非ご注目ください。

パイプオルガンは、コンサートホールのホールの上部に位置しているため、徳岡めぐみさんは上部で演奏し、その他の出演者は舞台という配置となります。出演者同士が見えない大変難しい配置となりますが、うまく工夫して演奏されるそうです。

 

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