一陽来復祈願能 IN 和歌山御坊 公演レポート

公益社団法人 能楽協会

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2021年11月11日(木)に和歌山県の御坊市民文化会館で開催された「一陽来復祈願能 IN 和歌山御坊」では、能「翁」と「道成寺」が披露され、大盛況のうちに幕を閉じました。

特に「道成寺」は、演目の舞台である道成寺のお膝元での公演、しかも二代目の釣鐘が京都から里帰り中とあって、公演前後には演者含め、道成寺に足を伸ばした観客の皆さんが多く見られました。本記事では、道成寺への観光を含めた公演レポートをお届けします。

公演レポート

鉄道ファンに人気の「日本最短のローカル線」で会場へ

会場の御坊市民文化会館へは、JR御坊駅から約2.5km、タクシーで約10分の距離ですが、せっかくですから鉄道ファンに人気の紀州鉄道を利用することにしました。紀州鉄道は、御坊駅~西御坊駅間の2.7kmを結ぶ「日本最短のローカル線」として知られています。

鉄道ファン垂涎、一両編成の紀州鉄道

車体には、御坊市に伝わる「宮古姫伝説」にちなんだゆるキャラ「みーやちゃん」が描かれています

一両のみの車両に乗り、のどかな車窓を楽しんでいると間もなく2駅目の紀井御坊駅に到着。紀井御坊駅から御坊市民文化会館までは徒歩2分。住宅街の中を歩いていくと、すぐに大きなホールが見えてきました。

御坊市の芸術・文化活動の創造・発表の場として市民から親しまれている御坊市民文化会館

地元の材木を使用して大ホールに造られた能舞台

会場ロビーは、すでに地元の観客の皆さんで溢れ、長蛇の列が出来ていました。

その中に、先ほどJR御坊駅前でお昼をいただいたとき、目の前でうどんを茹でていた店主の姿を発見! お昼の営業を終えて慌てて駆けつけたようで、地元の皆さんの今回の公演への期待がうかがえるプチ出来事でした。その後、京都などからの遠征組を乗せた大型バスも次々に到着しました。

会場ロビーは長蛇の列!

感染対策のため、受付で検温をし、チケットの半券を自身でもぎ取って入場すると、大ホールには本格的な能舞台が造られていました。和歌山在住の能楽師、シテ方観世流の小林慶三先生のご指導のもと、地元の材木を使って造られたものです。

感染対策のため市松模様に設定された座席は約300人の観客で埋まり、いよいよ公演の時を迎えました。

地元の材木を使用して大ホールに造られた能舞台。笛柱には「道成寺」で使用する環が見えます

「翁」と「道成寺」の大曲二曲を3時間にわたって堪能

最初の演目は「能にして能にあらず」といわれる別格の、儀式性の高い祝言曲「翁」。翁は分林道治先生、三番三は茂山逸平先生、小鼓の頭取(リーダー)に大倉源次郎先生という豪華キャストによる荘厳な舞や囃子に、観客の皆さんは神事に参加しているような厳粛な面持ちで見入っていました。

休憩をはさんで、片山九郎右衛門先生のシテによるご当地開催の能「道成寺」。道成寺に伝わる「安珍清姫伝説」をもとにした物語です。

白拍子が怪しく小さく舞う「乱拍子」で会場の緊張感は徐々に高まり、鐘が落下してその中に姿を消す「鐘入り」の瞬間には小さなどよめきが起こりました。後半、釣鐘が上がり大蛇となって姿を現し、シテ柱に蛇体がからみつく「柱巻き」など恋慕嫉妬を表す舞を観客の皆さんは固唾を吞んで見守り、最後に大蛇が舞台を去ると、鐘が片付けられる最後まで待ちきれないといった雰囲気で大きな拍手が起こりました。

道成寺への観光

公演翌日、昨夜の興奮冷めやらぬ中、道成寺へと足を伸ばしました。

道成寺へは、御坊市民文化会館から約4km、JR御坊駅からはJR紀勢本線(きのくに線)で隣駅の道成寺駅で下車して徒歩5分という近さにあります。

土産店が並ぶ参道に入ると、「道成寺」の乱拍子の舞を生んだとされる六十二段の石段と朱塗りの仁王門が見えてきました。乱拍子は足で拍子をとりながら舞いますが、その所作には清姫が安珍を捜し求めながらこの石段を登るという意味が込められていると言われます。

「乱拍子」のもとになったことでも知られる石段と仁王門

石段を上って仁王門をくぐると、すぐ右手に釣鐘跡の石碑がありました。道成寺の稽古に行き詰まった19歳の片山九郎右衛門先生が「気が付いたら立っていた」と公演直前インタビューで語られていた場所は、ここだったのだと感慨深く眺めました。

19歳の片山九郎右衛門先生がシテ柱に見立てて柱巻きの練習をされたという釣鐘跡

京都から里帰り中の二代目の釣鐘(釣鐘についての詳細はこちら)と、秘仏の千手観音像が公開されている本堂へ。

二代目の釣鐘は、意外なことに、舞台で使用される鐘よりもずっと小さく、安珍はどうやって隠れたのかと頭を傾げずにはいられませんでした(笑)。なお、秘仏の千手観音像は撮影不可でしたが、その秘仏の胎内に納められていたという一回り小さい初代の千手観音像が本堂の正面に祀られていました。

二代目の釣鐘と、初代の千手観音像。秘仏の千手観音像は真後ろに、初代を守るように北向きに祀られています

本堂には、能や歌舞伎の道成寺の舞台写真たくさん飾られていました

その後、境内に建つ縁起堂で、室町時代に作られた絵巻物「道成寺縁起」の写本を見ながら「安珍清姫伝説」を聞く「絵とき説法」を体験し、宝仏殿で国宝の仏像などを見学。そして、期間限定の御朱印をいただいているときに、片山九郎右衛門先生の名前が書かれた短冊を発見!
「道成寺」の公演成就を祈願された演者の皆さんのお名前が掲示されていたのでした。

今年は、二代目の釣鐘を寄進された万壽丸の生誕700年祭にあたることから、道成寺の公演は例年より多く、公演成就の祈願に訪れる関係者も多いそうです。

道成寺の見物を満喫したあとは、参道の土産店で名物の「釣鐘まんじゅう」を購入して帰路につきました。

公演成就の祈願に訪れた片山九郎右衛門先生の名前を発見!

釣鐘の形をした「釣鐘まんじゅう」は黒あんと白あんがあり、素朴で優しい甘さが特徴

最後に

道成寺のお膝元での「道成寺」と、別格と言われる「翁」の大曲二曲の組み合わせによる公演は、観客の皆さんにとって、より思い出深いものとなったことと思われます。

さらには、演目の舞台である道成寺を訪ねることで楽しく理解も深められたご当地公演でした。

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