能楽キャラバン! 奈良 春日野公演〜公演レポート

公益社団法人 能楽協会

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奈良春日野国際フォーラム甍

能楽のふるさと・奈良でシテ方五流(観世・金春・宝生・金剛・喜多)すべてが出演する3日間の「奈良特別公演〜奈良からはじまる、能楽の旅〜」の最終である春日野公演が2021年12月22日(水)に開催されました。

当日のチケットは完売。県内はもとより、全国各地から遠征してきた能楽ファンが奈良公園内にある会場「奈良春日野国際フォーラム甍~I・RA・KA~ 能楽堂」に詰めかけました。

奈良公園は、現在のシテ方五流の源である大和猿楽四座が参勤していた春日大社や興福寺があり、今も「春日若宮おん祭」や「薪御能」(たきぎおのう)で原初の能楽が奉納され続けている能楽と縁の深い地です。

本記事では、奈良公園にある能楽スポットのご紹介を含めた公演レポートをお届けします。

奈良公園には能楽スポットがいっぱい

鏡板のルーツと言われるクロマツの切り株が後継樹の若木とともに立っている影向の松

会場の最寄り駅である近鉄奈良駅から会場まではバスでも行けますが、徒歩でも約20分の道のりなので、奈良公園の能楽スポットに寄り道をしながらゆっくり向かいます

まずは、春日大社の一之鳥居をくぐってすぐの参道右側にある「影向(ようごう)の松」へ。ここにはかつて能舞台の鏡板に描かれている老松のルーツと言われる古いクロマツの巨木が立っていたそうです。影向とは神仏が現世に降臨すること。春日明神の依代となった松が観客席の側に存在しており、それを鏡のように映したものが鏡板であると言われています。残念ながらクロマツは枯れてしまい、現在は名残の切り株と、その横に後継樹として松の若木が植えられていました。

さらに、参道を二之鳥居方向に歩くと、左手に「御旅所(おたびしょ)」という芝地があります。ここは、毎年12月17日に春日若宮おん祭りで能楽のルーツである猿楽が夜遅くまで奉納される舞台となるところ。2021年の春日若宮おん祭りは非公開で行われましたが、訪れたときはちょうどその後の片付けが行われているところでした。

奈良国立博物館前の広場でのんびり草を食べる鹿たち

御旅所から奈良国立博物館前の広場を通って「氷室神社」へ。氷の神様が祀られ“難問氷解”を祈願できる神社ですが、実は本公演の演目の一つである能「野守」に縁のあるところです。

目当ての「鏡池」は、鳥居のすぐ近くにありました。曲中、前シテの野守の老人が「野守の姿を映すその池は“野守の鏡”と呼ばれる」と語る池が、この鏡池とされているのです。さらに、その池の近くには、帝が鷹狩りの際に見失った鷹の姿が水面に映ったとされる「鷹之井」と呼ばれる井戸もありました。

万葉の昔、このあたりで王朝貴族たちが鷹狩りを楽しんでいたのかと思うと感慨深いものがあります。

野守の老人が姿を映したとされる鏡池

手水舎の左隣にあるのが、帝が見失った鷹がその水面に映ったとされる鷹乃井という名の井戸

公演前のひとときをゆったり過ごせる会場ロビー

会場の奈良春日野国際フォーラム甍。「甍」の名の由来である大きな瓦屋根の後方に若草山が見える

氷室神社から奈良公園最大の芝生広場「浮雲園地」の園路を通って、会場の奈良春日野国際フォーラム甍へ。エントランスで検温と手の消毒を済ませ、チケットの半券を自分で切り取ってロビーに入ると、まず目に付いたのが「字幕サービス無料」の案内板。この「能サポ」というサービスは、スマホやタブレットの端末に舞台上演に合わせた字幕解説が自動的に表示されるもので、手持ちの端末でも「G・マーク」アプリをダウンロードすれば利用できるほか、会場でも専用端末の貸し出しが行われていました。初心者でも安心して能が楽しめるとあって、多くの方が利用されていました。

また、ロビーの椅子は全面ガラス張りの窓に向けられ、窓越しに若草山を借景とする日本庭園を眺めながら公演前のひとときをゆったりと過ごすことができました。

全面ガラス張り窓から日本庭園の眺めを楽しむことができるロビー

ロビーでは、奈良県立美術館館長の籔内佐斗司さんが制作された奈良県マスコットキャラクターの「せんとくん」が太郎冠者装束でお出迎え

いよいよ公演がスタート!

総檜造りの本格的な能舞台

能楽上演に先立ち、奈良県立美術館館長の籔内佐斗司さんによる「仮面芸能のふるさと 奈良」と題された講演がありました。講演は仮面芸能の歴史の説明からはじまり、近年、奈良の纏向古墳から古墳時代の木製の仮面が発見されるなど仮面芸能の多くが奈良を発祥としており、能楽はもとより仮面芸能のふるさとが奈良であることなどが語られました。

能「三輪 白式神神楽」

能「三輪」は、奈良・桜井市にある日本で最古の神社と言われる大神(おおみわ)神社を舞台とする神秘的で幻想的な曲。今回は、観世流により「白式神神楽(はくしきかみかぐら)」の小書き(特別演出)で上演されました。

白式神神楽は、後場に美しい姿をした三輪明神(後シテ)が純白の装束で青竹の作り物から出現する神性を強調した壮麗な演出ですが、シテの観世銕之丞先生が榊を手に舞う神楽は荘厳で、先生の力強い美声とあいまって、会場はより神秘的で幻想的な雰囲気に包まれました。

狂言「寝音曲」

休憩をはさみ、大蔵流による狂言「寝音曲(ねおんぎょく)」です。シテの太郎冠者に二十五世宗家の大藏彌右衛門先生、アドの主人に善竹彌五郎先生という大ベテランお二人によるやりとりはおかしみに溢れ、垣間見える微笑ましい主従関係にほっこり。会場は一気になごやかモードに染まりました。

能「野守」

公演最後の演目は、金春流による「野守」。まさにここ奈良公園が物語の舞台で、公演前に訪れた氷室神社のあたり、今は鹿がのんびり群れ遊ぶ広大な芝生エリアの飛火野(とぶひの)。しかも、シテは奈良を中心に活動されている金春穂高先生という奈良尽くしの演目です。

前場、前シテの野守の老人の語りが中心の静かな雰囲気から、後場は一転、後シテの鬼が円鏡を持って現れ力強い舞を披露します。その姿は、神々しく華もあり、躍動感溢れる舞に魅了されました。

公演を終えて

公演が終わり、席を立つ観客の方々からは、「これで観能納め」「良いお年を」などの声が聞かれました。当方もこれが観能納め。1年を締めくくる能として、能楽のふるさと・奈良で、奈良に縁のある曲を観ることができ、2022年に向けてエネルギーをいただけたような心持ちになりました。奈良という地に降臨した、いにしえの神々と大地の力を感じた公演でした。

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