金剛流 京都能楽紀行「歌会と宮廷文化」公演レポート

公益社団法人 能楽協会

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近畿 観光情報

日本全国能楽キャラバン! in 京都④ 金剛流 京都能楽紀行 「歌会と宮廷文化」が2022年1月9日(日)に開催されました。天気も穏やかで、ご来場の皆さんが新年の挨拶を交わしていました。

京都ならではの能楽公演。独自企画の深堀りも交えた公演レポートをお届けします。

入場までの時間があれば、能楽堂の周りを散策しよう

「金剛能楽堂」は能楽五流の中で唯一、宗家が京都に在住する金剛流の能楽堂です。京都の歴史と文化の中心である京都御苑に面しています。交通機関としては京都地下鉄烏丸線 今出川駅が最寄りで、駅を出て烏丸通沿いに南に徒歩4、5分ほどに位置します。地下鉄の本数も多いためアクセスしやすい環境です。

少しだけ入場前の余裕を持ち、能楽堂の周りを歩いてみると良い出会いがありました。

京都御所の周りは人混みという感じでもなく、厳かな佇まいをみせています。金剛能楽堂の手前にはとらや 京都一条店・虎屋菓寮(茶店)・虎屋 京都ギャラリーがありました。丁度今年の絵馬は虎ですので、店舗も虎の置物が多かったような……。

金剛能楽堂を少しだけ通り過ぎると、護王神社という、平安京の建都に貢献された和気清麻呂公を祀っているイノシシにちなんだ小さな神社がありました。さまざまなイノシシ像があり、健脚祈願の絵馬も多く見られ非常に和んだ時間を過ごしました。

もっと時間があれば京都御所の入口(清所門)が非常に近く、無料で見学できますのでこちらもおすすめです。

さて、いよいよ入場です。金剛能楽堂は平成15年にこの地に開館し、旧金剛能楽堂よりそのまま移築されています。(※詳しくは日本全国 能楽キャラバン!内 金剛能楽堂をご覧ください)

金剛能楽堂入口 。京都御所向かいにあり、周りの建物に調和した素敵な建物

 

会場内の様子

手の消毒・カメラ検温をすませて入場です。売店等はありませんが、休憩スペースが多めに取られていて、人数が多いながらもそこまで窮屈さを感じませんでした。他の能楽堂でも同じ事が言えますが、公演だけではなく前後の時間も自分の特別な時間として過ごせるのが能楽鑑賞の醍醐味です。公演主催側としては服装に決まりごとはありません。お着物で来られる方も、ちょっと背伸びした服装の方も、いつものスタイルの方も、この時間を大切にしていただければ大変うれしいです。

金剛能楽堂受付

錦鯉が泳ぐ池と石舞台のある中庭。金剛流の能楽師はこの鯉の見分けがつくそうです。非常にゆったりとした動きで、序の舞を彷彿とさせます

金剛能楽堂脇の休憩スペース。この日は曇りでしたが素敵なコントラストでした

公演レポート

「金剛流 京都能楽紀行」は全4回を通じ、上演曲の内容に関わりの深いゲストをお招きして、演目にちなんだお話しをしていただいた後、能をご鑑賞いただくという非常に趣のある企画公演でした。

能楽の公演は能2番、狂言1番のケースが多く、その場合休憩を挟んでも4時間ほどかかる場合があります。今回の公演は休憩をいれて2時間強という流れでした。また、夜に行われる公演も解説と能1番の場合があります。ご自分の体力と相談して、公演を楽しんでください。

鼎談(ていだん)

能「草紙洗」は9〜10世紀頃の架空のお話で、都の清涼殿で有名歌人(小野小町・大伴黒主・紀貫之)が歌合(左右に分かれ歌を詠み、その優劣を競う貴族の遊び)をします。

この話を見ただけではまだパッとこないのですが、鼎談(三人で会談すること)は

・藤原俊成・定家を祖先に持ち「和歌の家」として年中行事を今に伝える冷泉家の冷泉貴実子さん
・『令和の御大礼』にても衣紋を務められた衣紋道山科家 家元後嗣の山科言親さん
・コーディネーターは金剛流若宗家の金剛龍謹先生(この後地謡を勤める)
(そして、清涼殿は冒頭にお話した京都御所内にあり、金剛能楽堂から目と鼻の先にある)

という、一気に能「草紙洗」を身近に感じられるようになる面々でした。内容も、ただの物語の解説ではなく、歌合は現代でも存在している事や、能「草紙洗」では宮中の装束ですが、これを衣紋道(宮廷装束を美しく着付ける道)から見ると〜といったディープな話を非常にわかりやすく解説されていました。

能楽を楽しむ際、お話の内容・シテの仕舞・謡だけではなく、ツレ・アイ・ワキ・囃子・地謡・間狂言・後見と様々な立場の方が舞台上に登場し、そしてその方を支えている装束・面・扇・小道具、そして能舞台・能楽堂の歴史……など興味を抱くポイントが数多くあります。今回鼎談という形をとったことで、より深いポイントを見つけてもらう意図があったのではないでしょうか。日本の文化をまた好きになった瞬間でした。

鼎談の様子。この日の山科言親さんは裏山吹色の宮中装束を着用されました

能 草紙洗

いよいよ能「草紙洗」です。前提として、見た目がとても華やかで前提知識がなくとも楽しめます。ですが、やはり知識が深くあったほうがより細かい演出や会話のやりとりが見えてくるものがありました。とりわけ、小野小町は3名の女性陣と装束がほぼ同じで一見区別がつきませんが、大伴黒主がかける疑いに対して確固たる信念が備わった反論をしている様こそシテ(主役)たる存在なのだと感じたり、最後に小野小町の疑いが晴れて自害しようとする大伴黒主に対する温情たるもの、様々な人間ドラマ・心情劇が含まれた素晴らしい内容でした。

能「草紙洗」歌合の場面。前方の紀貫之(ツレ 廣田泰能)は歌を詠み上げる

公演を終えて

筆者はこれまであまり京都に馴染みが無かったのですが、今回の公演を通じて京都地元の方の能楽に対しての楽しみ方や、遠方や旅行の一環としてこのような公演に少しだけ触れることで京都という土地が好きになりました。京都は金剛能楽堂だけではなく、ほかにも能楽堂がたくさんある地域ですので、是非自分にあった公演を探してみてください。

最後に、金剛能楽堂では、夏の虫干し(装束・面など所蔵品を一斉に干す)を一般公開したり、その様子を宗家が解説されたりと様々な企画を催し、大変精力的に活動されています。

2022年2月6日まで京都駅 美術館「えき」(ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)で能面100という展覧会に金剛家の面を展示しています。お時間があればチェックしてみてください。

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