丹波梅若能公演への誘い

公益社団法人 能楽協会

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日本全国 能楽キャラバン!は「こころ弾む、能楽と出会う!」をテーマに、昨年度に引き続き大規模な能楽フェスティバルを2024年1月末日まで日本全国で開催しています。今回は京都府南丹市「アスエルそのべ」にて9月24日(日)に開催される丹波梅若能公演をご紹介します。

京都府南丹市は丹波猿楽、梅若家の発祥地

南丹市を代表する観光スポット「美山かやぶきの里」。昔ながらの茅葺き屋根の家屋が残る山間の集落<br>写真提供:美山DMO

会場となる南丹市は、京都市の西に隣接する船井郡園部町・八木町・日吉町・北桑田郡美山町が合併して2006年に誕生した市です。南丹市の観光スポットには、日本の原風景が残る「美山かやぶきの里」、日本建築学会賞を受賞した「日吉ダム」、美しい渓谷の「るり渓」などがあります。

南丹市のある丹波地域は、現在の能楽の源流となった芸能である「猿楽」の座(集団)が存在していたところです。矢田、梅若、日吉などいくつかの座があり、これらは「丹波猿楽」と呼ばれていました。本公演の演能を行う「梅若家」はこの丹波能楽の主要な一座を担う家でした。
丹波猿楽は、時代の流れとともに主流となった「大和猿楽」に吸収され座としては姿を消します。しかし、梅若家は観世流の一派として連綿と芸系を継承しました。そのため、今回の南丹市の公演は梅若家にとって「里帰り公演」とも言える公演で、先祖供養の願いも込めて梅若家総出の舞台となっています。

梅若家からは「南丹市での公演は江戸時代以来初めてです。丹波猿楽発祥の地で、また安土桃山時代の梅若ゆかりの地で公演できることは感無量です」と熱のこもったコメントをいただきました。本公演は意義深い公演になることでしょう。

各演目の見どころ

丹波篠山 春日神社の境内に立つ翁像

番囃子「翁」猿楽の座の根本にある芸能

梅若六郎家の当主、梅若実桜雪師による番囃子「」が演じられます。翁は「能にあって能にあらず」といわれる、他の数ある能の曲とは違う位置付けの祝祷(しゅくとう)芸能です。先ほどお話した「猿楽の座」は「翁」という芸能を演ずるために神社や寺院で組織されたと考えられています。丹波猿楽を祖とする梅若家にとって「翁」はことさらに大切な曲と言えるでしょう。

本公演では「番囃子(一曲の中から舞を省き、謡と囃子のみでの全曲演奏する形式)」で演じられます。略式にはなりますが、「翁」という祝祷芸能の本義は変わりません。

舞囃子「芦刈」梅若誕生の機縁となった曲 

芦刈(あしかり)」も梅若家にとっては大切な一曲です。
梅若家は京都の梅津村に住してから梅津姓を名乗っていましたが、文明13年(1481)当時の大夫である梅若景久が、禁中(天皇の御所)でこの「芦刈」を舞い、後土御門天皇の御感を得て「若」の字を賜り、姓を「梅若」に改めたといういわれがあります。

「芦刈」は離ればなれになった夫婦が和歌の徳により再会を果たす物語です。舞囃子では曲の後半部、再会を果たした夫婦が酒宴を開き、夫が喜びの「男舞」を舞う場面が演じられます。

狂言「察化」単なるドタバタを越えたナンセンスな面白さ

察化(さっか)」の簡単なあらすじをご紹介します。
田舎に住む主人が連歌の会の講師を都に住む伯父に頼もうと太郎冠者を使いに出します。ところが、太郎冠者は伯父の住まいも顔も知らない始末です。これに目を付けた都のすっぱ(詐欺師)が伯父になりすまし、まんまと主人の家へと入り込みますが……。

「察化」とは、このペテン師の名前です。曲中では「みごいのさっか」と呼ばれます。「みごい」は「見乞い」という字があてられます。これは字のごとく「物を見て乞う」ような人間、現在でいうと「たかり」のようなものでしょうか。主人はこの「みごいのさっか」をなんとか穏便に帰そうと、方策を講じます。しかし、とんちんかんな太郎冠者のせいか、状況はどんどん混乱していくという物語です。

能「通小町 雨夜之伝

能「通小町(かよいこまち)」のあらすじは、絶世の美女とうたわれた小野小町と、彼女に恋し百日百夜の百夜通い(ももよがよい)を行った深草の少将の物語です。雨の夜も風の夜も小町のもとへ通う少将ですが、思いを遂げぬまま百日目の夜についに息絶えてしまいます。
「通小町」は中世以降、民間にも広く流布した小野小町のこのエピソードを元にしたものです。ドラマティックな演出と構成、鮮烈な詞章も相まって、現在も変わらぬ恋の妄執を描いた名曲です。

特殊演出である小書「雨夜之伝(うやのでん)」は主に囃子に合わせて舞台を回りながら演技する所作(立廻リ)の内容と型が通常と変わります。降りしきる雨の夜、一人小町のもとへ通う少将の心情をより強調したものとなります。

「通小町」は「四位の少将(深草の少将)」という古作に観阿弥が手を加え、完成させた曲といわれています。要所に古い演出や謡の名残があり、能楽大成以前の姿が残されていることがうかがえます。まさに丹波猿楽、梅若発祥の地にふさわしい曲といえます。

丹波梅若能 公演チラシ

丹波猿楽梅若家ゆかりの名所、旧跡を訪ねよう

会場のある南丹市と近くの丹波篠山市には丹波猿楽梅若家ゆかりの名所旧跡が残っています。時間に余裕のある方は、公演の前後に訪ねてみてはいかがでしょうか。

南丹市日吉町 曹源寺 梅若家の旧菩提寺

曹源寺」は曹洞宗の寺院で、天文4年(1535)鎌倉時代に開山しました。この地域一帯は、まだ梅津を名乗っていた時代から梅若家の所領で、曹源寺はその菩提寺でした。曹源寺の前を流れる日吉川を隔てた世木地域が梅若家の屋敷跡とされ、その南側には梅若家の墓所が残されています。

丹波篠山市黒岡 丹波篠山 春日神社 江戸時代の能舞台が現存

丹波篠山の市街中心部に位置する「丹波篠山 春日神社」では毎年元旦の午前0時20分から「日本で最も早い演能」といわれる「翁」の奉納が梅若家によって行われています。また4月の第2土曜日には「春日能」として能楽が奉納され、 地元では「おかすがさん」と呼ばれ親しまれています。

神社の創建は平安時代初期の貞観18年(876)と古く、現在の篠山城がある小山に奈良の春日大社を分祀したのが起源とされます。篠山城が築城された慶長14年(1609)に現在の地に遷座されました。
13代篠山藩主・青山忠良によって、文久元年(1861)に建てられた能舞台が現存し、平成15年(2003)に国の重要文化財に指定されています。この能舞台は音響効果を高めるために、ご当地焼物である丹波焼の大甕が床下に設置されています。

丹波猿楽、梅若家発祥の地で開催される本公演へ、会場近くの能楽スポットとともにぜひ足をお運びください。

毎年元旦に「国内で最も早い演能」といわれる元朝能が奉納される丹波篠山 春日神社

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