【喜多流 新春盛岡公演】能「竹生島 女体」見どころ ほか

公益社団法人 能楽協会

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2024年1月6日(土)に「日本全国 能楽キャラバン! 喜多流 盛岡新春公演」が開催されます。素謡の「翁」より始まり、仕舞「老松」、狂言「末広かり」、能「竹生島 女体」と正月を感じさせるめでたさあふれる番組となっています。本記事では会場の岩手県盛岡市のご紹介、そして各番組を観る際のポイントをご紹介します。

NYタイムズ紙「2023年に行くべき52カ所」岩手県盛岡市

盛岡市は、岩手県の県庁所在地で、内陸中央部に位置します。2023年1月にニューヨークタイムズ紙が発表した「52 Places to Go in 2023 (2023年に行くべき52か所)」において、ロンドンに次いで2番目に選出され、観光都市としても国内外からの注目が集まっています。

会場となる「盛岡市民文化ホール」は、盛岡駅西口に直結する複合施設「マリオス」の中にあります。マリオスは北東北随一の超高層ビルで、盛岡市のランドマークタワーです。盛岡市民文化ホールのほかにも、ショップやオフィス、そして盛岡市内が一望できる展望室などがあります。
ニューヨークタイムズ紙の選定理由のひとつはやはり「東京からのアクセスの良さ」が挙げられます。本公演の会場となる盛岡市民文化ホールは、駅直結ということもあり、東京から新幹線で充分日帰りのできる距離感です。 近隣の方々はもちろん、首都圏をはじめ遠方の方々もぜひこの機会に盛岡を訪れていただきたいと思います。

盛岡駅から徒歩5分の所にある開運橋。別名は「二度泣き橋」。<br>転勤で盛岡に来た人が「遠くまで来てしまった」と泣きながら渡るも、盛岡の人情に触れ<br>去る時は「離れたくない」と泣きながら渡るのが由来とされています

公演の見どころ

能「竹生島 女体

能「竹生島」は女体(にょたい)という小書(特別演出)での上演です。この小書が今回の見どころといってよいでしょう。通常の能「竹生島」のあらすじや題材になった竹生島そのものについては、当ウェブサイト「能楽を旅する 竹生島」で特集しております。

能「竹生島 女体」後シテの弁財天 所演:塩津哲生、撮影:安彦喜久三

竹生島 注目ポイント🔎
後シテと後ツレが入れかわる

通常、能「竹生島」では「後シテ(後半の主役):龍神」「後ツレ(主役の助演者):弁財天」となりますが、「竹生島 女体」では「後シテ:弁財天」「後ツレ:龍神」と入れ替えて演じます。竹生島弁財天の存在、神徳をメインに打ち出して、より大切な役としています。そのため、後シテが女神である弁財天に変わり「女体」という小書になります。
通常の能「竹生島」は前ツレと後ツレは同じ役者が演じるのですが、「女体」の時は別人が演じる、という約束事もあります。

舞と囃子の変化

後シテが弁財天に変わることにともない、舞が変化します。
通常ツレとして登場する弁財天は〈天女ノ舞〉という短めで軽やかな舞を舞いますが、「女体」の時はより荘重で、どことなくエキゾチックな響きのある〈〉という舞に変わります。さらに、この〈楽〉の舞も通常のものとは異なり、盤渉調(ばんしきちょう)で演奏される〈盤渉楽〉となります。
〈楽〉は通常、唐人や老体の神、あるいは仙人などの役柄が舞う舞で、足拍子を多く踏むのが特徴です。
〈盤渉楽〉は笛の調子が一調子高くなり、旋律も通常のもの(黄鐘調=おうしきちょう)とは違ったものとなります。水に縁のある調子とされ、水にかかわる曲や小書の時に用いられることが多いです。弁財天は元々、川の神、水神だそうですから、まさにピッタリの舞と言えます。

また、同公演で「翁」が上演されるときは前シテと前ツレの出が厳粛な〈真之一声〉となり、はじめの謡の一部が「白鬚(しらひげ)」の曲となります。以降の謡は通常通りです。「女体」による大きな変化は後半からがメインですが、今回も特別に「白髭」になるため、最初の前シテの登場から「今日はちょっと違うぞ」という雰囲気を醸し出します。

謡と型の変化

役が入れ替わり、舞も変わるのに加えて、謡や型も変化します。
謡の文句自体は変わらないのですが、要所に緩急が付き、また通常は地謡が謡うところをシテが謡ったりと、分担が変わったりします。
「女体」に限らず、小書の時は謡に緩急が付くことが多いです。

演技である型も要所で変わります。舞そのものが変わるシテはもちろんですが、後ツレの龍神もよりダイナミックな所作に変わりますので、謡と合わせて注目してご覧いただきたいです。

「女体」のいわれ、アレコレ

喜多流の小書「女体」を作ったのは、歴史的に有名な人物で、彦根藩主であり、幕末には大老を勤めた井伊直弼です。
井伊直弼については、当ウェブサイト「能楽を旅する 彦根城」で詳しくご紹介していますが、日ごろから竹生島弁財天への信仰心が篤く、竹生島宝厳寺には直弼が寄進した能面も残されています。

こうしたいきさつから、喜多流ではこの「女体」の小書を大切にしてきましたが、実は金剛流にも同じ名前の小書が伝わっています。しかも井伊直弼作の小書とは伝承を別にしていて、金剛家のツレ方であった長命家に伝わった小書と言われています。

さらに現在では観世流でも「女体」を演じることがあります。これはかつての観世流宗家と喜多流宗家の間に親交があり、観世流から「松風 戯之舞」を、喜多流からは「竹生島 女体」を互いに交換したことが始まりとされています。

素謡「翁」新春にふさわしい神聖な曲

」は「能にあって能にあらず」といわれるお祝いの芸能です。

「翁」に関しては芸能というよりも、「儀式」あるいは「神事」と認識していただいた方が、現代の感覚にはマッチするかもしれません。「翁」が上演される公演のチラシやパンフレットに「翁 上演中の入退場はお断り致します」といった断り書きがあるのに驚かれた方がいるかもしれませんが、これは「翁」をそれだけ大切な儀式・神事として扱っているためです。

こうした特別な扱いは、「翁」が略式の上演形式である「番囃子」や今回のような「素謡」(座して謡のみの上演形式)で演じられるときも変わりはありません。新春の清々しい空気の中、神聖な時間を体験していただきたいと思います。

仕舞「老松」長寿のめでたさを讃えつつ清らかに舞う

天神様として各地でまつられている菅原道真は、学問の神様としても大変有名です。「老松」は、道真ゆかりの松の精があらわれて、長寿のめでたさを讃えて舞を舞う曲です。

菅原道真というと左遷された太宰府天満宮(福岡県)が有名で、「老松」も筑紫(現在の福岡県)が舞台となっています。しかし、実は岩手県には道真の妻子が流されてやって来たという伝承があり、道真の子である菅原淳茂(秀才)を開基とする「福寿山安楽寺」や、道真夫人の墓が残されています。

狂言「末広かり」縁起物の末広かりとは何?

ある果報者(幸せ者の意だが、狂言の役としては長者、富豪、お金持ちといった意味で使われる)が、来客への贈り物に「末広かり(扇の別名)」を用意しようと思い立ちます。召使いの太郎冠者を呼び出し、さっそく買い求めてくるよう都へお使いに出しますが、太郎冠者は「末広かり」が何の事なのかが知りません。そこへ、都のすっぱ(ペテン師)があらわれて……。

物にはいろんな呼び名・あだ名があるもので、扇子や扇と言われればもちろんわかりますが、「末広かり」といわれると現代でもだまされてしまう人が出てきてしまうかもしれません。こちらの曲も正月によく上演される曲です。

公演チラシ

2024年の年明けは、本公演が開催される1月6日(土)を皮切りに各地で「日本全国 能楽キャラバン! 」公演が予定されています。お正月の清々しい空気の中、ぜひとも会場に足をお運びいただき、能の持つ凜とした空気感を味わっていただければと思います。

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