能楽公演のみどころ

大濠公園能楽堂レポート&福岡近辺の能楽にまつわる場所紹介

公益社団法人 能楽協会

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九州/沖縄 公演レポート

2022年1月4日(火)に福岡県 大濠公園能楽堂開館35周年記念 第1弾 喜多流特別公演「翁」が開催されました。平日日程とはいえ、松の内ということもあり、ほぼ完売の当公演。本記事では当日の公演内容と、番外編として「福岡近辺にある能楽に関する場所」のレポートをお届けします。

九州・アジアの玄関口から30分で到着!

今回スケジュールの都合上、飛行機で福岡空港に着き、そのまま大濠公園能楽堂に向かいました。福岡空港は市営地下鉄福岡空港駅と直結しており、スムーズに乗り換えできます。さらに、最寄りの大濠公園駅まで筑肥線でそのまま一本で向かうことができます。

空港から地下鉄一本で大変便利

地下鉄大濠公園駅を出てすぐの様子。少し歩きます

西鉄バスのバス停も能楽堂の近くにあります

大濠公園入り口。右側に能楽堂の案内板が出ています

能楽堂を過ぎ、浮見堂に来たところ。爽大感を感じる景観を堪能していると、たくさんの鳥たちに出会えます

浮見堂から戻る途中、飛行機を発見

大濠公園駅から5分程度歩いたところにある能楽堂は大濠公園の中に位置します。大濠公園は明治通り沿いにあり、大濠公園駅を出た目の前に大濠公園の広い入り口が見えます。能楽堂は入口すぐのところにあり、駐車場からも近いです。大濠公園には、大きな池と周回園路(ジョギングロード)がありました。池の中央には柳島と松島があり、奥には福岡市美術館、日本庭園、武道館と、文化芸術スポーツが集結した施設も集まっています。

少し時間があったので一回りしましたが、運動や散歩に丁度良く、大濠公園にいる鳥たちと出会えました。ユリカモメ、カルガモ、ウミネコ、カワセミ、ダイサギなど多くの種類が見られ、自然豊かな環境であることも伺えます。

浮見堂をみて少しリッチな気持ちで能楽堂の方に戻ると、福岡空港から飛び立ったか着陸するであろう飛行機もバッチリ見え、飽きのこない素敵なロケーションでした。

能楽堂に戻ると既に開場しており、多くのお客様が入場されています。

正面

大濠公園能楽堂で開催された「王位戦」を記念し、藤井二冠と木村九段のサイン色紙等が展示されていました

会場内の様子

会場は、感染対策を施した受付体制が敷かれており、受付をすぎると場内ロビーでくつろいている方々が見られました。当公演は指定席が完売でしたが、自由席が一部、席に余裕があり、当日券にて自由席を購入し鑑賞される方もいました。能楽公演は当日でも入れる場合がありますので、完売情報がない場合は問い合わせをしてみてください。

今回は詞章や解説を公演中に表示してくれる「能楽鑑賞多言語字幕システム 能サポ」対応公演ということもあり、担当の方がタブレットの貸し出しやスマートフォンのアプリケーションのインストール方法を説明されていました。筆者も今回その場でスマートフォンにインストールをしました。インストール方法を聴いて一度体験することで、次回以降はスムーズに使えそうだという印象をもちました。

開演前の場内の様子。1月のため能舞台に注連縄が張られています。

公演レポート

松の内の季節(正月・新春を指す)に翁を拝見できることは能楽ファン冥利に尽きるのではないでしょうか。白式尉をかけた友枝昭世さんの荘重な舞、野村万禄さんが勤める千歳の若々しい舞、野村万之丞さんの三番叟の躍動的な揉ノ段、黒式尉をかけての鈴ノ段、各役の芸の力によって清めと未来の幸福を祈念した貴重な時間でした。

狂言 末広がり

主人と太郎冠者のボタンのかけちがえのような会話のやりとりは現在のコミュニケーションを彷彿させるもので、昔も今も変わらないし、こういうことがないようにしよう、とちょっとだけ身が引き締まる気持ちになったのと同時に、これはこれでオチがあって良いものだ……と、会場のおおらかな雰囲気と狂言の特徴が相まって大変めでたい内容に笑いが共存した時間でした。

能 絵馬 女体

能「絵馬」女体 シテ 狩野了一

休憩をはさみ、いよいよ「絵馬 女体」です。前場は老翁と老婆がそれぞれ絵馬を持って登場するのですが、絵馬がとても可愛らしい。芦毛馬と黒馬が描かれていて観客に見やすい、やや大ぶりの大きさで能楽の小道具の深さに感動しました。

絵馬は中央に配置される大道具が二つの役割を果たします。前場では、絵馬をかかげる小宮ですが、後場ではシテの天照大神が隠れる岩戸になるのです。この仕組みがとても合理的だな…というのはさておき、なによりも後場の天照大神(女神の姿)の登場と、天鈿女命と手力雄命が登場する時、とても神々しく感じました。

この後の場面はいわゆる「天岩戸の神話」の再現になるので、初めて観る方でもなんとなく理解できたのではないでしょうか。写真のちょっと前の場面では、天照大神は岩戸にこもっているのですが、天鈿女命と手力雄命が舞っている様子が気になって岩戸を少し開いて覗き見る瞬間が愛らしさを感じた瞬間でした。今回正面席で拝見していたため、天照大神が覗き見る隙間が大きくなる様子もはっきり伺えました。

大変壮大な曲ながらも、話の内容を概ね知識として入れておくと(それか、能サポ等で解説を確認する)細かい演出、仕草も理解できた、そんな瞬間でした。

休憩はしっかりと

公演前や休憩前、くつろげる場所が能楽堂施設には多くあります。ここ大濠公園能楽堂も、テーブルと椅子のスペースなど多くありました。ただ、飲食の売店がある能楽堂は多くありません。今回は13時開演、17時過ぎ終演と長丁場の公演でした。最後まで楽しむためにロビーに移動して休んだり、少しだけ体を動かしたり、はたまたペットボトル等で飲水するなどの対策はしておいたほうが良さそうです。

今回、満員に近いこともあり、トイレが能楽堂外のものも開放されていました(チケット半券で再入場)。偶然能楽堂外のトイレを利用したところ、屋外に出られたものもあり少しリフレッシュして絵馬を拝見できて結果的に大満足でした。

大濠公園能楽堂では今後も様々な公演を企画しています。九州にお住まいの方は定期的にチェックしてみてはいかがでしょうか。

【番外編】太宰府天満宮の能楽の謡蹟を訪ねる

公演翌日、あまり時間がないので福岡近辺にある能楽に関する場所に行ってみたい……。太宰府天満宮がまっさきに思い浮かびました。太宰府天満宮は「老松」「藍染川」の二つの曲の謡蹟があります。このように簡単に訪問可能な場所もありますので、少し遠出の公演に行った際は是非近くの謡蹟を探してみてください。

太宰府天満宮 本殿までの道のり

博多バスターミナルより、太宰府ライナーバス「旅人」を使い一度西鉄の太宰府駅へ。駅前から参道はお土産屋さんが立ち並び、午前中早い時間からすでに賑わっております。初詣客・修学旅行生と様々です。本殿への参道に続く四の鳥居がある小さな広場では、神牛が出迎えてくれ、皆さん牛をなでたりしていました。神牛は他にも様々なところにいました。神牛の右手には天神さま(菅原道真公)の「東風吹かば匂ひをこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ」歌碑が立っていました。そこから更に鳥居をくぐり進むと、本殿になります。

太宰府駅前。まわりは既に参拝客が多くいました

御神牛。アルコールジェルを持ち歩くなど感染対策を施してから触りましょう

菅原道真「東風吹かば匂ひをこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ」歌碑

四の鳥居過ぎた辺り。曇りでしたが水場が綺麗で心は晴れやか

能「老松」

曲の解説

都の者が菅原道真の菩提寺、筑紫の安楽寺に紅梅殿という梅と老松という松を訪ねる。来かかった老人と男が梅と松の徳を物語るうちに姿を消し、夜に入り老松の精が神々しく〈真ノ序ノ舞〉を舞い、御代を寿ぐ。

能「老松」は長寿の象徴である松・春、先駆けとして咲く梅のめでたさをたたえる祝言・初番目物の演目です。ちょうど1月に訪問できたのもなにかの思し召し。

解説には書いてありませんが、老松は小書がつくと「紅梅殿(後ツレ 梅の精)」が登場します。この梅の木こと飛梅(とびうめ)が実際に本殿の横に祀られています。近づくと、僅かですがつぼみをつけており、春の訪れを実感しました。

太宰府天満宮の神木として知られる梅の木「飛梅」。本殿脇にあり、初詣で賑わっていました。

能「藍染川」

曲の解説

在京中の太宰府の神主と契った女が、その証である一子梅千代と共に筑紫へ下る。神主は不在なので手紙を宿の主左近尉に託すが、嫉妬した神主の妻の策略にあい、女は絶望して藍染川に身を投げる。帰府した神主は事実を知り梅千代との父子の対面となる。また神主の祈祷が通じ、女は天神の力によって蘇生するのだった。

能「藍染川」は四番目物・五番目物として観世流・金春流によって演じられます。現代の藍染川は小川のようになってしまいましたが、太宰府天満宮参道の脇にそれたところにあるため、比較的簡単に訪問できました。物語の最後に女が蘇生する場面がありますが、「梅壺侍従蘇生碑」がごく近いところにあり、能「藍染川」はこの伝承とほぼ同じストーリーになっています。

藍染川の石碑。ほとんど見えていませんが川があります

梅壺侍従蘇生碑。先程の藍染川がここに流れています

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