2021年 観世能楽堂特別公演 レポート

一般社団法人観世会

2022年1月10日(月)、日本全国能楽キャラバン!公演として「観世能楽堂特別公演」が開催されました。

本公演は、観世会正会員総出演による「安宅」と「正尊(しょうぞん)」のほか、野村萬斎先生が演じる狂言「富士松」、さらには連吟、独吟、仕舞なども上演される豪華番組でチケットは完売。多くの観客が東京・銀座の二十五世観世左近記念観世能楽堂に詰めかけました。

銀座4丁目の交差点からも至近距離、絶好のロケーションに位置する観世能楽堂のご紹介も含めた公演レポートをお届けします。

銀座駅から観世能楽堂までのルート

観世能楽堂が地下3階にある大型複合施設GINZA SIX

観世能楽堂は観世流の活動拠点で、以前は渋谷区松濤にありましたが、総檜造りの舞台をそのまま移築して、2017年に銀座の大型複合施設GINZA SIXの地下3階にオープンしました。

最寄りの銀座駅とGINZA SIX地下2階をつなぐ便利な連絡通路もありますが、今回は地下鉄A4出口からファッションビルの銀座コア内を通って地上の中央通りに出ます。当日は正月明けの三連休最終日とあって銀座の街は多くの人が行き交い賑わっていました。

中央通りを新橋方面に歩くと、すぐに通り沿いのGINZA SIXに到着。表のエントランスから入って地下2階まで降りたら「ワインショップ・エノテカ」の奥にある地下3階へのエレベーターとエスカレーターを目指します。

ワインショップのカフェ&バーには、ワインを楽しみながら公演の待ち合わせをする人々の姿も見られました。次回はぜひ利用してみようと思いつつエスカレーターで降りていくと、最初に目に飛び込んできたのが松羽目(鏡板)。今回「正尊」のシテを勤められる武田宗和先生が公演前のインタビュー記事で語られていた、松濤時代の能楽堂2階の小さな舞台にあった知る人ぞ知る松羽目。移転時に行き場がなくなっていたのを宗和先生の提案で飾られたとのことで、能楽堂の入り口前で観客を出迎えていました。

観世能楽堂の入り口前でお客様たちを出迎える松羽目

公演前や休憩時間にくつろぎのひとときを提供するロビー

売店コーナーで人気を集めていた観世能楽堂オリジナルクッキーと開運寅だるま

本公演は、義経物で能面が一切使われない「安宅」と「正尊」が一緒に上演される貴重な機会とあって、開場前から長い行列ができるなど、観客の期待の大きさが感じられました。出演される能楽師のお弟子さんたちも多く来られていたようで、その影響からか、はたまた成人の日だったからか、男女とも着物姿の方が多く見られました。

コロナ対策のため検温をして手消毒を済ませてエントランスへ。

正面の売店コーナーでは、「安宅」「正尊」の謡本をはじめとする能楽関係の書籍のほか、ここでしか買えない観世能楽堂オリジナルのクッキーやスヌーピーコラボグッズが販売され、人気を集めていました。

オープンからさほど経っていないこともあってロビーは明るい雰囲気。長椅子が多数置かれ、休憩時間も含めて、多くの方がくつろぎのひとときを過ごされていました。

会場内は、座席が互い違いに配置され観やすいことに加えて、足元が広いことにも感動。今回は休憩込みで4時間にわたる長時間公演でしたが、途中、楽に足を組み替えることもでき、舞台に集中することができました。

座席の足元が広く、長時間の観劇中も楽に過ごせました

なお、観世能楽堂について紹介している動画「観世能楽堂バックツアー」が公式観世能楽堂YouTubeチャンネルで配信中です。動画は、今回「正尊」で義経役を勤められた観世宗家嫡男の観世三郎太先生が案内役となり、観世能楽堂の歴史から舞台裏、能楽の基本などが紹介され、特別番組なども見られます。英語版・フランス語版も同時に配信されているので、ぜひご覧ください。

豪華番組がスタート!

新年を迎えて注連縄が張られていた能舞台

能「安宅」「正尊」と狂言「富士松」の前後に、連吟、独吟、仕舞の六曲が入る構成で、4時間にわたって計九曲が上演されました。幕開けの連吟での、大正生まれの女性能楽師・山階弥次先生の力強い謡をはじめ、力のこもった熱演が続き、徹頭徹尾、見応えのある公演となりました。

能「安宅 勧進帳 瀧流之伝」

まずは舞台に登場する演者の多さにビックリ! シテの弁慶役の観世流二十六世宗家の観世清和先生をはじめ、子方、ツレ、ワキ、アイ、囃子方、地謡、後見と30人ほどが舞台に並ぶ光景は圧巻。

安宅の関を通るために、あるはずもない勧進帳を力強く朗々と読み上げる弁慶が、変装した義経を関守の富樫に見とがめられ、とっさの機転により金剛杖で義経を打つ場面では一転、切なさや優しさが感じられグッときました。それに続く義経方と富樫方のせめぎ合いも見応え抜群。「瀧流之伝」の小書き(特別演出)は最後の場面、静かに舞っていた弁慶が橋掛かりへ行き、囃子の高揚にノッて舞台へ戻ってくるダイナミックな演技で、迫力の中にも気品が感じられました。

狂言「富士松」

テレビなどでも活躍する人気の野村萬斎先生がシテの太郎冠者として登場すると舞台がパッと明るく華やかになったように感じられました。

最後の太郎冠者と主人による連歌の付け合いが徐々にスピードを増していく様や、セリフの応酬が見事で、会場の笑いを誘っていました。

能「正尊 起請文 翔入」

「安宅」同様、シテの正尊役の武田宗和先生をはじめ、ツレの家臣などが大勢、舞台に登場。前場では、正尊がとっさに作り上げた起請文をよどみなく読み上げる場面とともに、子方の静御前の可愛らしくも堂々とした演技が印象に残りました。

後場は、変化に富んだ斬り合い場面が、翔入(かけりいり)の小書でパワーアップし、正尊方、義経方、それぞれ数名が入り乱れながら、敵が振りかざす刀の上をジャンプしたり、前転したりとアクロバティックな立ち廻りが次々に披露され、その激しさと迫力に驚きました。とくに、斬られたまま後ろにバタンと倒れる「仏(ほとけ)倒れ」では会場からどよめきが聞こえました。

最後に、正尊が弁慶と長刀で対峙するも破れ、縄をかけられ揚げ幕の中に消えると会場から大きな拍手が起きました。

公演を終えて

終演後はライトアップされていたGINZA SIX前

4時間にわたる公演が終わり、会場を後にする観客が皆一様に満足げな表情をされていたのが印象的でした。

「安宅」のシテは義経の配下の弁慶、「正尊」のシテは義経の敵である正尊ということで、義経物を敵味方の両サイドから見ることができたのも興味深く、義経物の能をもっと観たいと意欲を駆り立てられた公演でもありました。

なお、地下3階の会場から地上に出ると、あたりはすっかり暗くなっており、銀座の街の華やかなライトアップに包まれ、本公演の余韻を楽しみながら帰途につきました。

一般社団法人観世会

観世流の中核をなす団体で、観阿弥・世阿弥の系譜を受け継ぐ二十六世宗家 観世清和先生を筆頭に66名の観世流シテ方能楽師によって構成されています。設立は1900年(明治33年)。1951年(昭和26年)に社団法人となり、2000年(平成12年)には100周年を迎えました。活動拠点である観世能楽堂では、観世会主催公演含めた能楽公演をはじめ、多目的ホールとしても幅広い層に親しまれる様々な公演が数多く行われています。

ウェブサイト
https://kanze.net/

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