能楽公演のみどころ

手話で楽しむ能狂言鑑賞会inふくやまのススメ

公益社団法人 能楽協会

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能や狂言は、一般的に扇や小道具を手に持ち、謡にあわせて演者が舞台上で舞う姿をイメージする方も多いと思います。
ところが、2021年11月6日に広島県福山市の大島能楽堂で行なわれる日本全国 能楽キャラバン!では「手話で楽しむ能狂言鑑賞会inふくやま」として手話能・手話狂言が上演されます。

手話能・手話狂言とはどんなものか、どのような経緯で上演にいたったのかをご紹介します。

手話狂言とは

今回の手話狂言は「日本ろう者劇団」が演じます。

日本ろう者劇団の手話狂言は演者が手話にて狂言を舞いますが、無音が続くのではなく、狂言方が舞台外で発する声にあわせて演者が手話を交えながら舞うという新しいスタイルです。

狂言方と演者が狂言のフレーズにあわせて手話で演じられるよう繰り返し稽古されています。その阿吽の呼吸をぜひご覧いただければと思います。

なお、手話狂言で使われる手話は、話し言葉の手話と少々異なり、狂言にあわせて工夫し、狂言らしい手話にアレンジされています。通常の狂言の演技・動作に加えて手話があるので、手話によるイメージでさらに狂言を理解しやすくなっています。昔言葉で少し敷居を感じてしまっている方も、狂言を初めて触れる良いきっかけになるのではないでしょうか。

手話能とは

今回の手話能は喜多流能楽師の大島輝久氏が中心となってつくられたもので、演者が舞台上で謡いながら手話にて舞います。一度、曲の言葉を現代語訳して台本化し、その台本を基に手話能の手話がつくられています。特に固有名詞の表現に苦労されたようです。その甲斐もあって、ろう者の方はもちろん一般の方にも親しみやすい舞台になっています。

手話能の誕生エピソード

今回の公演の手話能「土蜘蛛」は、喜多流の能楽師が演じます。喜多流の本部は「喜多能楽堂」で品川区にあります。15年ほど前に喜多能楽堂が公益財団に認定されたことをきっかけとして、同じく品川区に本部をかまえる「日本ろう者劇団」との交流が始まりました。

日本ろう者劇団は狂言師の指導により「手話狂言」を上演しており、交流をしていく中で2016年に喜多能楽堂主催で「手話で楽しむ能狂言鑑賞会」公演が催され、毎年1回この公演が開催されています。当時の手話能は、通常の能に併せて手話通訳者が同時通訳するという形でした。しかし、日本ろう者劇団を指導されている狂言方の勧めもあり、舞台上の立ち役も手話で表現することにチャレンジし、今日の手話能の形になっていったそうです。

手話で楽しむ能狂言鑑賞会inふくやま 番組紹介

手話狂言「六地蔵」

新たに建立した御堂に安置する六体の地蔵を購入するため、田舎者が都にのぼりました。そこで親切に声をかけてくれたすっぱ(詐欺師)を仏師と信じ込み、翌日には因幡堂で受け取る約束をします。まんまと仏師になりすましたすっぱは仲間3人を呼び出し、3人で3体ずつ二度に分けて地蔵の姿に取り繕い田舎者をだます算段をします。当日、因幡堂の本堂と鐘楼堂の二か所を忙しく行き交いながら、田舎者に地蔵を見せるうちにだんだん立ち姿が崩れ、ついに化けの皮がはがれ追い込まれてしまうのでした。

手話能「土蜘蛛」

源頼光は、近ごろ体調が優れず、病の床に伏しています。侍女の胡蝶は、典薬寮から薬を持ち帰り、心身共に弱った主君を励まします。夜更け、怪しげな僧が部屋を訪れます。頼光が名を問うと、僧は「我がせこが来べき宵なりささがにの蜘蛛の振舞ひかねてしるしも」と古歌を引き、巨大な蜘蛛に姿を変えると、無数の糸を投げて襲いかかります。頼光はすかさず枕元に置いた名刀膝丸を抜き、斬りつけて「しとめた」と叫ぶと、化け物は消え失せます。
その声を聞き、家来の独武者が駆けつけます。頼光は経緯を語り、刀の名を蜘蛛切と改めます。
独武者は郎党を引き連れて退治に向かいます。血の跡をたどって古塚に至り、塚を壊すと敵は火炎や水を吹いて抵抗しますが、巣を暴かれて姿を現します。その正体は葛城山で年を経た土蜘蛛の精で、御代に害を為そうと企んだのでした。
武者たちは「王地に住みながら帝を悩ますことへの天罰」と挑みかかります。蜘蛛の投げる糸が手足に絡まりますが、大勢で取り囲み、ついに首を打ち落とすのでした。

公演にぜひお越しください

今回の「手話で楽しむ能狂言鑑賞会inふくやま」は同日に2回、公演が開催されます。大島能楽堂では感染症の対策にしっかり取り組み、皆様をお迎えいたします。ぜひ手話能・手話狂言をお楽しみください。

公益社団法人 能楽協会

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