一陽来復祈願能 IN 和歌山御坊 「道成寺」シテ方 観世流 片山九郎右衛門先生 インタビュー

公益社団法人 能楽協会

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2021年11月11日(木)に和歌山県の御坊市民文化会館で、能楽キャラバン!公演として「一陽来復祈願能 IN 和歌山御坊」が開催されます。

演目は、見せ場が多いことから能屈指の大曲ともいわれる能「道成寺」と、「能にして能にあらず」といわれる別格の一曲「翁」。

本公演は「第36回国民文化祭・わかやま2021」の応援事業になっており、国民文化祭の様々なイベントが行われる道成寺のお膝元の御坊市で、能「道成寺」をご覧いただくことになります。

今回、「道成寺」でシテを勤められるシテ方観世流の十世片山九郎右衛門先生に、道成寺のお膝元で演じられる想い、そして公演の魅力や見どころなどをお伺いしました。

片山九郎右衛門 プロフィール(シテ方 観世流

1964年京都市生まれ。父の片山幽雪(九世片山九郎右衛門)と八世観世銕之亟に師事し、70年「岩船」で初シテ。全国各地、海外で多数の公演を行うほか、能楽の普及、後継者育成に取り組む。2011年十世九郎右衛門を襲名。重要無形文化財保持者(総合認定)。
公益社団法人 京都観世会 会長ならびに公益財団法人 片山家能楽・京舞保存財団 理事長。

ご当地開催「道成寺」公演を目前に控えての思い

片山先生:「道成寺」のシテを勤める舞台は、今回が7回目となりますが、御坊市民文化会館で演じるのも、和歌山県で舞うのも初めてでして、いろんな意味で感慨無量です。

まず一つには、私の大先輩であり、父のお弟子さんでもいらっしゃったシテ方観世流の小林慶三先生が、お父様の代から親子二代にわたって和歌山県を本拠地として能楽普及に励まれていますので、その地で演じさせていただくのは身が引き締まる思いがします。

また、「道成寺」の題材にもなった「安珍清姫伝説」の二代目釣鐘を道成寺に寄進された万寿丸様の生誕700年という記念の年に舞わせていただくことにも不思議なご縁を感じております。

現在、この二代目釣鐘は道成寺にお里帰り中で(〜11月18日まで)、秘仏の千手観世音菩薩もご開帳中ですので(〜11月28日まで)、道成寺へのご参拝とともにぜひ本公演にも足を運んでいだけたらと思います。

吉阪会「道成寺」 片山九郎右衛門 撮影:渡辺真也

「道成寺」にまつわる不思議な思い出

片山先生:昭和60年、19歳のときに祖父の追善会で初めて「道成寺」を舞わせていただきました。その際に、先代の八世観世銕之亟先生に懇切丁寧に稽古をつけていただいたのですが、なかなか先生の要求に応えることができず、もどかしい思いに突き当たってしまいました。そのときに思い立ち、早朝に京都から電車に飛び乗り、気が付いたら道成寺境内の釣鐘跡に立っていたんです。釣鐘跡の石碑をシテ柱に見立てて、その周りをグルグル舞っているうちに、ふっと吹っ切れたような心持ちになれた、そんな思い出があります。

「道成寺」を演じるにあたり、見どころや心がけていること

片山先生:「乱拍子」「鐘入り」など見せ場が多い曲ですので、舞うということだけでもハードルが高いので、どうしても特別な曲と思いがちです。しかし、「道成寺だから特別ということはない」と昔から先生方にも教えられてきました。たくさんの見せ場をこなしつつも、いかに1人の女性の哀しみや思いを表現できるかがいちばん大切なことです。その点が難しいお能ともいえます。道成寺は特別という思いを吹っ切って、どれだけ普通に舞えるか、今回の公演でもその点が試されるのではないかと思っています。

「道成寺」を鑑賞する際のポイント&能楽ファンの皆さんへのメッセージ

片山先生:能をご鑑賞いただく場合は、ワキなどその場の登場人物になったつもりでご覧いただくと理解しやすいと言われますが、「道成寺」の場合、演目の舞台である道成寺を取り巻く樹木など自然の一部になったつもりで観ていただくのも面白いかなと思います。

そのような心持ちで、たとえば、満開の桜の下、前シテの白拍子が怪しい静謐を湛えて登場するシーンなどを眺めていただければ、ワキの住職に対して「住職、危ないですよ。いまから事が起ころうとしてますよ」というように、より演目に寄り添った気持ちでご覧いただけますし、ぜひそのような形で皆様にも能に参加していただけたらと思います。
公演当日は、緊張感を持ってシテを勤めさせていただきますので、1人でも多くの皆様に会場に足を運んでいただけたらありがたいです。

一陽来復祈願能 IN 和歌山御坊 演目紹介

-おきな-

翁の荘厳な舞。千歳の爽快な舞。そして三番叟の高揚したリズムに乗った動的な舞。三つの異なった祝福の舞で構成された曲で、舞台披(ひら)きや年頭に舞われる儀式的な一曲。神事的な要素の濃い演目で、能にも狂言にも属さない、神聖な曲として別格の扱いをする。

能 道成寺 -どうじょうじ-

紀州道成寺の撞鐘供養の場に忽然と現れた一人の白拍子が、妖しい舞で一同を眠らせた隙に鐘の中に入って蛇体に変じて現れる。恋慕嫉妬の極致をあらわす、能の中でも最も仕掛けの大きさと緊張度の強さで有名な曲。

御坊市民文化会館に造る能舞台の特徴

和歌山在住の能楽師、シテ方観世流の小林慶三先生のご指導のもと、地元の材木を使って作られた本格的な能舞台です。小林先生は、この能舞台を使用して、数々の公演や発表会を行い、御坊市をはじめ当該地域における能楽の普及・振興に努めてこられました。

御坊市民文化会館

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