能で巡る大阪「玉井」住吉大社 シテ方観世流 山本章弘氏インタビュー

公益社団法人 能楽協会

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日本全国能楽キャラバン! 能で巡る大阪」は、大阪市の山本能楽堂で2022年9月から2023年1月に計5回に渡って開催されるシリーズ公演となっています。

本シリーズは、大阪を代表する神社にまつわる能の演目を上演。各公演では大阪を中心に活動する観世流五家の5人の能楽師がシテを勤めます。それぞれの能の上演前には、演目に関係する神社関係者からお話をお伺いする対談が設けられています。神社の歴史と能の演目。双方からの相乗効果によって、これまであまり知られていなかった大阪の魅力をお楽しみいただける企画となっています。

本公演のトップを飾る9月4日(日)の第1回「玉井」住吉大社では、能「玉井」でシテを勤めるシテ方観世流の山本章弘氏に、本公演と「玉井」の魅力、そして山本能楽堂や大阪の能楽事情について語っていただきます。

山本章弘プロフィール(シテ方観世流)

1960年、シテ方観世流 山本眞義の長男として大阪に生まれる。
故 二十五世宗家観世左近、二十六世観世宗家 観世清和、および父に師事。
初舞台は3歳。大阪市中央区のオフィス街に佇む歴史溢れる山本能楽堂の代表理事を務め、能楽初心者や子どもたち、外国人などに能の普及活動を積極的に行っている。海外公演も多数。重要無形文化財保持者。
山本章弘観鵆會を主宰。公益社団法人能楽協会理事。
山本能楽堂 公式ウェブサイト

大阪を題材としたお能を、演目に関係する神社の話とともに楽しむ

山本:能には大阪を題材とした作品がたくさんあり、今なお人気のある演目として演じ続けられています。さらに、それらの演目に関係する神社も存在しています。「能で巡る大阪」公演では、神社関係者の方々をお招きして、最初に神社の歴史や演目との関わりについてお話をお伺いしてから、お能をご覧いただく構成になっています。

古より神社は地域における杜(もり)として人々に力を与えてきました。能も神様に捧げる芸能として始まりましたから、いわば能楽堂も杜のような存在です。その両者の話を融合して聞いていただくことによって、お客様にとって神社という存在がもっと身近になり、お能を鑑賞するときの感性や想像力の助けにもなったらという思いで本公演を企画しました。

全5公演の日程と演目、演目に関係する神社は次のように設定しました。

第1回 9月4日(日)能「玉井」シテ:山本章弘 住吉大社
第2回 10月30日(日)能「芦刈」シテ:梅若猶義 田蓑神社
第3回 12月10日(土)能「」シテ:上野朝義 浪速高津宮
第4回 2023年1月9日(月祝)能「鉄輪」シテ:大西礼久 安倍晴明神社
第5回 2023年1月29日(日)能「雷電」シテ:生一知哉 大阪天満宮

私がシテを勤めさせていただく第1回公演「玉井」住吉大社では、日本神話の海彦山彦兄弟伝説を題材にした能「玉井(たまのい)」にちなんで、古くは遣隋使・遣唐使の時代から航海の守護神として信仰されてきた住吉大社を取り上げます。当日は住吉大社の権禰宜(ごんねぎ)である小出英嗣さんをお招きして、NPO法人まち・すまいづくり理事長の竹村伍郎さんと対談をしていただきます。

そして、第2回以降は各神社の関係者の方に私、山本章弘がお話をお伺いする対談型式を予定しています。演目の解説だけといった堅苦しいものではなく、当日のお客様からも質問をいただくなどして、皆様と一緒に楽しい雰囲気の中で能の魅力をお伝えできればと思います。

古くから航海の守護神として信仰されてきた住吉大社。その象徴として名高い反橋(太鼓橋) 写真提供:(公財)大阪観光局(住吉大社の画像)

登場人物が多い賑やかなお能「玉井」を鑑賞できるのは貴重な機会

「玉井」あらすじ

彦火々出見尊(ひこほほでみのみこと)は魚に取られた兄の釣り針を求めて海中の都に行き着きます。尊は都の豊玉姫(前シテ)と玉依姫に案内され、姫たちの父母のもてなしを受けるうちに三年の月日が流れます。陸へ帰ろうとする尊に、二人の姫は潮の満ち引きを自在に操る二つの玉を、姫たちの父の海神(後シテ)は釣り針を探し出して捧げ、舞いを舞うと尊を無事に陸へと送り届けました。

山本:「玉井」という演目は日本書紀で伝えられている有名な日本神話を典拠としているストーリーで、内容としては分かりやすく、登場人物も多く賑やかなお能です。能を初めて観るというお客さまにも楽しんでいただけると思います。

前半(前場)と後半(後場)の間には、狂言方がそれまでの物語を解説する間狂言(あいきょうげん)が入ります。さまざまな貝たちが酒宴をする「貝尽(かいづくし)」という愉快な場面が演じられます。後半では、私が頭に戴いて登場する大きな龍の冠にも是非ご注目ください。

そうして、皆様がよくご存じの海彦山彦の伝説が能ではどのように表現されるのかをご覧いただけたらと思います。しかし、能にはテレビドラマや映画のような明確な起承転結というものはありませんので、視点を様々に変えながら、能の奥にある「何か」を発見していただけたらと思います。

ジャンルの垣根を超えて上方伝統芸能の魅力を発信する山本能楽堂

山本:本公演の会場であり、私が代表理事を務める山本能楽堂は昭和2年に創建された木造三階建ての能楽堂です。第二次世界大戦の大阪大空襲で一度焼失しましたが、船場の旦那衆や市民の熱意によって昭和25年に再建されました。今や全国的に少なくなった伝統的な桟敷席(さじきせき)の能楽堂なのですが、近年大規模改修を重ねました。

公演時には可動式の椅子を設け、さらには舞台照明のカラーLED化、全館床暖房化などの設備面の強化を図り、お客様にとって居心地が良い空間を追求しました。とくに、LED照明が当たったときの能装束や能面の陰影は、一般の照明とはまた違った趣や演出効果があり、当能楽堂ならではの魅力のひとつと言えます。

山本能楽堂の舞台はカラーLED照明になっており、1670万段階の色彩で演出します

そして現在は「初心者も楽しい体験型の能楽堂」をキャッチフレーズとし、開かれた能楽堂として多様な方々に出演いただいています。能・狂言・文楽・上方舞・講談・落語・浪曲などジャンルの垣根を超えた上方伝統芸能の情報発信基地としての役割も担っています。

様々な上方伝統芸能の演者たちが一堂に会する「初心者のための上方伝統芸能ナイト」という企画公演では、実に200回を超える人気公演となりました。このような公演を数多く開催できるのも大阪だからこそというところがあります。大阪は好奇心旺盛な人が多いので、人と人との距離が近く、すぐに近しい友達になれる。そうしてジャンルや年齢などに関係なく、どんどん人の輪が広がっていきます。

お客様も同様で、落語のお客様としてはじめて当能楽堂を訪れた方が能をご覧になられてハマッてしまい、以来、能楽公演にも足繁く通われる、あるいは反対に能のお客様が文楽にも通われるようになったという例がたくさんあります。

今回の公演も、神社を媒介として、新たなお客様が能に触れていただく機会となり、それが水面への投石のように新たなる波紋として広がっていき、次代への日本の伝統文化の継承につながっていくことを願っています。

「能で巡る大阪」全5公演の各シテを勤めるシテ方観世流の皆さん。左から、大西礼久氏、山本章弘氏、生一知哉氏、上野朝義氏、梅若猶義氏

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