神戸「楠公様 夜能」〜二十六世観世宗家による野外能「土蜘蛛」の魅力

公益社団法人 能楽協会

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神戸特別公演「楠公様 夜能」〜二十六世観世宗家 観世清和シテによる野外能「土蜘蛛」の魅力

「日本全国能楽キャラバン!神戸特別公演」は、兵庫県神戸市の湊川神社 境内特設舞台で2022年10月7日(金)に開催されます。本公演は、神社境内での野外能に相応しい華やかな演目「土蜘蛛」を、多くの人物が登場する「眷属出之伝(けんぞくだしのでん)」の小書(特別演出)で、二十六世観世宗家 観世清和氏のシテ(主役)により上演するほか、狂言・連吟・仕舞などを一挙にお楽しみいただける豪華番組となっています。

今回は本公演「土蜘蛛」にて後見を勤められるシテ方 観世流 上田貴弘氏に「土蜘蛛」の魅力についてお伺いしました。

上田貴弘プロフィール(シテ方観世流)

1958年、シテ方観世流 上田照也の長男として神戸に生まれる。
故 二十五世宗家観世左近、二十六世観世宗家 観世清和に師事。
初舞台は2歳。神戸・大阪・東京を中心に活躍し、ヨーロッパ、アメリカ、アジア等における海外公演にも多数出演。重要無形文化財保持者。
上田観正会定式能、上田観正会を主宰。
神戸観世会 副理事長、上田観正会能楽堂 代表。

「お能ははじめて」という方にも気軽にご覧いただける野外能公演

上田:本公演の会場である湊川神社は、南北朝時代の名将、楠木正成公が祀られ「楠公(なんこう)さん」と親しまれていることから、本公演のサブタイトルを「楠公様 夜能」としました。

あまり知られていませんが、楠木正成公の妹御は、能楽の祖と言われる観阿弥の母、つまり世阿弥の祖母であり、その子孫への系譜は観世宗家につながると言われています。そのような縁から、昭和47年(1972)当時、観世流の本拠地として東京の大曲(新宿区)にあった観世会館の舞台を移築し、境内に「神能殿」という能楽堂を建てられました。湊川神社は観世ご宗家にとって所縁の深い神社なのです。

本公演ではあえてこの神能殿の舞台は使わず、境内に特設舞台を造り野外公演として行います。これは理由があり、「お能ははじめて」という方にも気軽にご覧いただきたいという思いがあります。

秋の夕暮れ、神社境内での野外能という素晴らしいロケーションですので、能楽堂だと少し敷居が高いと尻込みされている方もちょっと足を運んでみようかなという気持ちになられるのではないでしょうか。

実は、湊川神社では、「楠公さんの薪能」として、神戸を中心に活動している能楽師たちによる野外能が、平成元年(1989)頃まで行われていました。それを今回、約30年ぶりに復活させることになります。今回「土蜘蛛」のシテを勤めるご宗家も湊川神社の野外能で舞われるのは初となりますので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思っています。

本公演の会場である湊川神社は「楠公さん」と親しまれ、観世ご宗家と深い所縁を持っています<br>※写真協力:一般財団法人神戸観光局

「眷属出之伝」の小書でいっそう華やかな舞台が期待される「土蜘蛛」

上田:今回の「土蜘蛛」の演目は、お能を見たことがない方にも分かりやすい、エンターテインメント性の高い作品として、ご宗家に自らご選曲いただきました。

「土蜘蛛」は源頼光一行が土蜘蛛の精を退治する話です。見どころは、後場(後半)、後シテの土蜘蛛の精が正体を現し、源頼光の家臣(後ワキ=シテの相手役)たちに向かって和紙で作られた蜘蛛の糸を投げる場面です。これに「眷属出之伝」の小書がつくと、土蜘蛛の精が複数登場して縦横に活躍し、蜘蛛の糸が舞台全体に飛び交い、いっそう華やかな演出となります。そして今回は夜の舞台となりますから、白い蜘蛛の糸が宙で放物線を描く様が照明に照らされて浮かび上がり、美しい光景が展開されるのではないかと思います。

実は、「眷属出之伝」は最近作られた小書のため、私自身もまだ目にしたことがありません。もちろん神戸では初披露となります。今までに「土蜘蛛」を見たことがあるという方にとっても魅力ある演目となることでしょう。さらに、ご宗家のご子息、観世三郎太さんにも源頼光役としてご出演いただきますので、親子競演の舞台をぜひお楽しみいただけたらと思います。

能「土蜘蛛」のシテを演じられる二十六世観世宗家 観世清和氏(2017年の観世能楽堂開場記念日賀寿能 にて)

多彩な番組を普段着姿でお楽しみいただけます!

上田:本公演では、能「土蜘蛛」のほかにも、狂言方大蔵流の善竹忠重さん出演による有名な狂言「附子(ぶす)」、神戸を中心に活動する観世流能楽師たちによる仕舞、女性能楽師3名による連吟など、多彩な番組をお楽しみいただけます。

お能をご覧になったことがないという方にもお楽しみいただけるような企画・選曲となっていますので、ぜひ足をお運びいただけたらと思います。
とくに、楠公さんのお膝元、地元神戸の方々には、普段着姿で気軽にお立ち寄りいただけたらと期待しております。

インタビューにご協力いただいたシテ方観世流の上田貴弘氏。本公演に企画から携わり、「土蜘蛛」では後見を勤められます

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