奈良 三輪山公演「船弁慶」シテ方金春流 金春飛翔・穂高氏 親子対談

公益社団法人 能楽協会

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能楽のふるさと・奈良でシテ方五流(観世・金春・宝生・金剛・喜多)が出演し、見ごたえある人気曲をお届けする「奈良公演〜奈良からはじまる、能楽の旅〜」は、三輪山公演と春日野公演が2022年10月と12月の2日間に開催されます。

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日本で最古の神社と言われる大神(おおみわ)神社内にある三輪山会館 能楽堂(桜井市)で10月27日(木)に開催する三輪山公演では、各流儀による仕舞や独吟に狂言、そして歴史ファンにはおなじみの源義経・武蔵坊弁慶・静御前などが登場する人気曲 能「船弁慶」が演じられる豪華番組となっています。

今回、「船弁慶」のシテ(主人公)を勤めるのは、25歳の若手能楽師であるシテ方金春流の金春飛翔氏。同舞台で後見を勤める父の金春穂高氏とともに、「船弁慶」の見どころや本公演の魅力について語り合っていただきました。

 

金春飛翔 プロフィール(シテ方金春流)

1997年、奈良に生まれる。
2002年、祖父の晃實、父の穂高について稽古を始め、同年10月に初舞台。
2013年、国指定重要無形民俗文化財 春日若宮御祭礼 松之下式を勤める(以後毎年)。

関西を中心に公演などに出演するほか、平成生まれの能楽師3人による流儀を超えたユニット「ゆとりのかい」でのコラボ企画に参加するなど積極的に活動の輪を広げている。

公益社団法人能楽協会会員・公益社団法人 金春円満井会理事

 

金春穂高 プロフィール(シテ方金春流)

1965年、奈良に生まれる。
1970年、祖父の金春流77世宗家栄治郎、父の晃實について稽古を始め、同年10月に初舞台。

関西を中心に全国での公演のほか、海外公演への参加も多数。重要無形文化財保持者。

公益社団法人能楽協会 大阪支部常議員・公益社団法人金春円満井会理事・一般社団法人日本能楽会会員・奈良県立高円高等学校非常勤講師

金春穂高公式サイト

後シテの平知盛役は長刀の扱いなどに気合を入れて挑みます(飛翔氏)

飛翔:「船弁慶」は、半能で後シテだけを演じたことはこれまでに何回かありますが、通しで勤めるのは今回が初めてとなります。いつも通りの気持ちで勤められたらと思っています。

穂高:「船弁慶」という演目は、前場(前半)では静御前と義経の悲しい別が描かれます。後場(後半)では一転、平知盛の怨霊が義経一行に襲いかかるという場面へと大きく変わります。
前シテは優美な舞を舞う美しい静御前に対して、後シテは長刀を振るう荒々しい知盛の怨霊という、まったく異なる人格を演じることになるため、前半と後半で敵味方が入れ替わるような大きな変化がある曲です。
お客様にとっては、前半と後半でまったく違う曲趣がお楽しみいただける「一曲で二度美味しい曲」ですが、シテにとっては大変です。飛翔は「いつも通りに勤める」と言いましたが……(笑)

飛翔:我が家は私が長男で三兄弟なんですが、三人とも子方(子役)で義経役を数多く演じています。ですので父は少なくとも20回以上はシテを勤めているはずです。私だけでも義経役は六回くらい演じました。

穂高:義経役は子方としては重要な大役なので、稽古の時間に制限がない我が子を特訓して舞台に立たせるというのが昔からのやり方なんですね。
今回の舞台では、義経役は次男の嘉織かおる)が勤めます。本当は私がやりたかった(笑)。
「いかに弁慶。静に酒を勧め候え」と弁慶に命じる場面など、本当に格好が良くて魅力的です。
義経役というのは、大人になっても憧れる役です。よく「判官びいき」(弱い立場の者に対して同情して味方をし、援助すること)と言いますが、日本人の滅びの美学にマッチしていて、物語では大変魅力的に描かれています。

飛翔:確かに義経は魅力的な役ですね。「船弁慶」は子方時代から義経役などを演じながら、いつかはシテを演じてみたいとずっと思っていた曲のひとつなので、今回、このような機会を与えていただいたことは本当にうれしく、ありがたいことと感じています。

前半では静御前の優美な舞、後半は平知盛(たいらのとももり)の怨霊が義経と対峙する場面や長刀の扱いなどが見どころです。とくに後シテの知盛役は気合を入れて挑みたいと思っています。

「船弁慶」で親子競演をした時の1枚。左側のシテの平知盛役が穂高氏、義経役は幼少時代の飛翔氏

20代若手が演じるエネルギッシュな舞台にご注目ください(穂高氏)

穂高:会場の三輪山会館能楽堂で演じるのは、飛翔ともども初めてとなります。
2019年に完成した会場で、その後コロナ禍に入ってしまい、まだほとんど能楽公演が行われていないので、今回は私たちとしても大変貴重な機会となります。
本公演は「船弁慶」のほかにも仕舞や独吟・狂言をお楽しみいただけるバラエティーに富んだ面白い番組構成となっています。そして、金春流だけではなく金剛流・喜多流・観世流・和泉流(狂言)と多くの流儀による公演です。流儀によって舞台への出入りの仕方、扇の取り方、袴の結び方などの決まり事が微妙に違います。そのあたりも見どころと言えるかもしれません。

飛翔:他の流儀の方たちと同じ舞台を踏む機会は少ないので、私自身も大変楽しみと同時に貴重な勉強の機会とも思っています。仕舞や独吟をどのような感じでおやりになるのか拝見させていただくことで、新たな発見があるのではないかと思います。

穂高:「船弁慶」では、若手が演じるエネルギッシュな舞台に注目していただけたらと思います。能は「同じ曲であれば、同じ演出をする」が昔からの基本です。しかし、その演目を演じるシテの年齢というのはその時々で異なるため、年代ごとの芸の魅力というものがあります。
能を大成させたと言われる世阿弥が記した「風姿花伝(ふうしかでん)」に「年々去来の花を忘るべからず」という言葉があります。私がシテを勤めるならば私の年齢に見合った花があるでしょうし、今回のように20代のピチピチボーイが演じる船弁慶にはどのような花が開くのかという楽しみがあります。きっとお客様にとっても見どころにもなると思います。私のような出涸らしの人間が勤める能とは違った、精気に溢れた若手が演じる能に面白さを見出していただけたらと願います。

飛翔:全力でシテに挑むのみです。私はこだわりが強く人一倍負けず嫌いで友人などから熱苦しいヤツとよく言われるのですが(笑)今回も全力で悔いの残らない舞台を勤めたいと思っています。己との勝負に燃えています!

日本で最古の神社と言われる大神神社内に2019年に完成した三輪山会館 能楽堂

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