世界文化遺産の中尊寺は、平安時代の850年、比叡山延暦寺の高僧・慈覚大師円仁によって開山されました。その後、12世紀初めに奥州藤原氏の初代清衡が、東北地方で続いた戦乱で亡くなった命を供養し、仏国土(仏の教えによる平和な理想社会)を建設するため大規模な堂塔造営を行いました。

中尊寺というと金色堂のイメージが強いですが、ほかにも諸堂、子院が点在しており、3000余点の国宝や重要文化財を伝える平安美術の宝庫です。

平安期の雅やかな雰囲気が色濃く残る美しい境内を散策しながら国宝・文化財などの見どころを効率良く巡るコースをご案内しましょう。

月見坂

老杉に覆われた表参道

東物見台からの眺め。天気がいい日には遠くの束稲山もきれいに見える
東物見台からの眺め。天気がいい日には遠くの束稲山もきれいに見える

中尊寺へ公共交通機関を利用する場合は、新幹線の一ノ関駅前から路線バスで中尊寺バス停まで行くか(約25分)、または一ノ関駅からJR東北本線で平泉駅へ行き、そこからバスまたは徒歩で向かいます。

中尊寺バス停からは、本堂まで約560mにわたって続く長い表参道の月見坂を歩きます。上り口から総門跡までは、息切れするような急坂もありますが、沿道には江戸時代に平泉を治めた伊達藩によって植えられた樹齢約300〜400年の老杉が連なり森林浴が楽しめます。

また、途中には東物見台という展望台があり、その近くに藤原氏全盛期に二度平泉を訪れた歌人・西行法師の歌「きゝもせず 束稲やまのさくら花 よし野のほかにかゝるべしとは」が刻まれた歌碑が建っています。束稲山(たばしねやま)に咲き誇る一万本の桜の見事さを詠んだ歌ですが、東物見台からは束稲山とともに平泉の街並みや田園風景を眺めることができます。

東物見台近くに建つ西行歌碑
東物見台近くに建つ西行歌碑

金色堂

平安期から黄金に輝き続ける国宝(中尊寺バス停から徒歩15分)

中尊寺を象徴する新覆堂。この中に中尊寺建立当時から現存する唯一の建物である金色堂がある
中尊寺を象徴する覆堂。この中に中尊寺建立当時から現存する唯一の建物である金色堂がある

まずは中尊寺一番の見どころ・国宝の金色堂へ向かいましょう。

ちなみに、車の場合は、平泉町営中尊寺第1駐車場から徒歩で月見坂を上るルートのほか、月見坂と並走する町道を上って、坂の上駐車場に車を止めると金色堂までは徒歩3分の最短ルートで行くことができます。

金色堂の並びにある宝物殿「讃衡蔵(さんこうぞう)」で、金色堂・讃衡蔵・経蔵・旧覆堂を拝観できる共通拝観券を購入しましょう(大人800円)。事前にインターネットから購入できる電子チケットもあります。

金色堂は、1124年(天治元年)に初代清衡が自身の廟堂として建立した阿弥陀堂です。金色堂の覆いとして風雪から守るために鉄筋コンクリートで造られた新覆堂の中にあります。保護のためガラス越しに拝観しますが、堂の内外とも金箔で覆われ、随所に漆や象牙、夜光貝を用いた螺鈿細工などの装飾が施され、目を見張る美しさです。堂内には合計33体もの金色の仏像が立ち並び、建物ごと国宝に認定されています。須弥壇の内部には初代清衡、二代基衡、三代秀衡の御遺体と四代泰衡の首級(みしるし)が安置されています。

なお、金色堂は撮影禁止。ぜひご自分の目で金色堂をご覧になってください。

経蔵

中尊寺経(国宝)を納めるために建立された堂(金色堂から徒歩1分)

当初の鮮やかな彩りや飾りは長い歳月によってすっかり洗い流され、金色堂とは対照的な趣がある経蔵
当初の鮮やかな彩りや飾りは長い歳月によってすっかり洗い流され、金色堂とは対照的な趣がある経蔵

金色堂のそばに建つ経蔵(きょうぞう)は、藤原氏三代によって奉納された中尊寺経が納められていた堂。鎌倉時代の建物ですが、平安時代の古材が随所に用いられており、重要文化財に指定されています。

現在、中尊寺経は本尊の騎師文殊菩薩(重要文化財)とともに讃衡蔵に移され、経蔵には新たな騎師文殊菩薩が安置されています。

秋には、堂前の紅葉が真紅に色付き、美しい光景が楽しめます。

旧覆堂

金色堂を風雪から守ってきた堂(経蔵から徒歩1分)

華美な装飾を廃した質素かつ力強い建物の旧覆堂
華美な装飾を廃した質素かつ力強い建物の旧覆堂

旧覆堂は、新覆堂ができるまで金色堂を風雪から守ってきた木造平屋建ての建物で重要文化財に指定されています。1963年(昭和38年)の金色堂解体修理とともに新覆堂が建築されたことにともない、現在地へ移築されました。

金色堂の覆いは、建立50年後ほどで簡素な覆屋根がかけられて以来、何度かの増改築を経て、この旧覆堂は室町時代に建てられたと考えられています。

旧覆堂の内部
旧覆堂の内部

白山神社能舞台

伊達藩主によって再建・寄進された貴重な能舞台(旧覆堂から徒歩3分)

老杉の木立に溶け込む茅葺き屋根の白山神社能舞台
老杉の木立に溶け込む茅葺き屋根の白山神社能舞台

白山神社は中尊寺鎮守の一つで、拝殿の手前にある能舞台は、江戸時代末期の嘉永年代に焼失したため、伊達藩主の伊達慶邦公によって寄進・再建されたものです。

橋掛り、楽屋などを完備した構成の近世能舞台遺構としては東日本で唯一とされ、重要文化財に指定されています。

この能舞台では、いまも中尊寺の僧と地元住民による「中尊寺能」が奉納されています。詳細はこちらからご覧いただけます。

この冬、白山神社能舞台では、本サイト「能楽を旅する・平泉旅」の特別番組として能「吉野静」を収録しました。

かんざん亭

絶好のパノラマビューが楽しめるカフェ&レストラン(白山神社能舞台から徒歩1分)

境内奥にあるモダンな外観のかんざん亭
境内奥にあるモダンな外観のかんざん亭

かんざん亭」は、中尊寺散策の合間の休憩や食事に最適なカフェ&レストラン。

店内はスロージャズが流れ、落ち着いた雰囲気。平泉でとれた自然薯を使ったそばやピザのほか、自然薯入りティラミスという珍しいデザートも味わえます。

ガラス張りの店内、そしてテラス席からの眺めは抜群で、平泉の街並みや、天気が良ければ秋田県境の焼石岳がパノラマビューで楽しめます。

自然薯のとろろをかけていただく自然薯そばはねっとり優しい味わい
自然薯のとろろをかけていただく自然薯そばはねっとり優しい味わい

讃衡蔵(さんこうぞう)

3000点以上の国宝・重要文化財を収蔵する宝物殿(かんざん亭から徒歩5分)

藤原氏三代(清衡・基衡・秀衡)の偉業を讃えるという意味で名付けられた讃衡蔵
藤原氏三代(清衡・基衡・秀衡)の偉業を讃えるという意味で名付けられた讃衡蔵

藤原氏が残した3000点以上の国宝・重要文化財のほとんどを収蔵している宝物館。国宝の中尊寺経をはじめ、平安期の仏像、藤原氏の御遺体の副葬品など平安時代の仏教美術をじっくりと鑑賞することができます。

館内に入ると、まず正面に3体の丈六仏(じょうろくぶつ)が安置されています。丈六とは一丈六尺の意味ですが、坐像なのでその半分強(266〜273.3cm)の高さがあります。3体とも重要文化財で、中央の阿弥陀如来座像はかつて本堂の本尊でした。

中尊寺経は、藤原氏三代によって奉納された供養経で、寺外に流出したものも多いのですが、中尊寺に残る2739巻が一括で国宝に指定されています。中でも紺紙に金字と銀字が一行ずつ交互に書き写されている清衡発願の「紺紙金銀字交書一切経」が有名です。

旧鐘楼

奥州藤原氏以後の歴史を伝える(讃衡蔵から徒歩1分)

口径86cmの鐘が納められている旧鐘楼
口径86cmの鐘が納められている旧鐘楼

旧鐘楼は、当初は2階造りの建物でしたが、1337年(建武4年)の火災で焼失し、梵鐘は1343年(康永2年)に鋳造されました。

この鐘の銘文には先述の建武の火災のことなどが詳しく刻まれており、当時の歴史を知る上で貴重な資料となっています。

鐘の傷みが激しいため、今ではこの鐘が撞かれることはほとんどないそうです。

峯薬師堂

とくに目にご利益があると言われる薬師堂(鐘楼から徒歩2分)

峯薬師堂前の池には大きなカエルの石像があり「福かえる」として親しまれている
峯薬師堂前の池には大きなカエルの石像があり「福かえる」として親しまれている

薬師如来を本尊とする堂で、目をはじめ病気平癒に御利益があるとされています。讃衡蔵にある丈六仏の薬師如来(重要文化財)は、もとはこの堂の本尊として安置されていたものです。

堂の右傍に建つ石造りの宝塔は12世紀のもので重要文化財に指定されています。

また、目に御利益があるということから、お札所には「目の御守」が置かれています。

本堂

不滅の法灯が輝き続ける中尊寺の中心(中尊寺バス停から徒歩15分)

本尊の釈迦如来坐像。像高約2.7m、台座・光背を含めた総高は5mに及ぶ
本尊の釈迦如来坐像。像高約2.7m、台座・光背を含めた総高は4mに及ぶ

1909年(明治42年)に再建された中尊寺の中心となる堂。古くから伝わる法要儀式の多くはこの本堂で勤められます。

本尊の釈迦如来座像は丈六仏と呼ばれる背丈の大きい仏像で、初代清衡が中尊寺造営の折に安置した尊像にならい造立され、2013年(平成25年)に奉安されたものです。

本尊の両脇にある灯籠には、最澄上人が灯して以来、1200年以上灯り続ける「不滅の法灯」が比叡山延暦寺より分灯され護持されています。

上記を参考に自分だけの中尊寺散策コースをつくりましょう

中尊寺は山全体の総称であり、本寺である「中尊寺」と山内17ヶ院の支院(大寺の中にある小院)で構成される一山寺院です。今回ご紹介したほかにも、たくさんの堂・碑・像などの見どころがあります。

上記コースを参考にしていただき、旅のスタイルやスケジュールにあわせて、もっと多くの見どころをゆっくりと巡ったり、自分だけの中尊寺散策コースを計画しましょう。

 

 

SNSでシェアする