佐渡の能舞台は、ほとんどが神社に併設されているため、野外で演じられます。その多くは、夏場の夜間、能舞台の周囲にかがり火を焚いて上演される薪能(たきぎのう)です。薪能の魅力、そして佐渡における能楽の鑑賞スタイルや楽しみ方についてご紹介しましょう。
幻想的な空間が魅力の薪能
日が暮れ、薪に火が灯されて始まる薪能の魅力は、その空間にあります。
かがり火の炎が照らし出す能舞台で演じられる能楽は、より神秘的な雰囲気を漂わせ、パチパチと音を立てる薪の音や、風の音、虫の声なども心地よいBGMです。
野外ならではの開放感を感じながら、佐渡の人々と一緒にリラックスして観る薪能は、能楽鑑賞がはじめの方でも十分に楽しめる魅力に満ちています。
おおらかな鑑賞スタイルが佐渡の特徴
佐渡における能楽の鑑賞スタイルは、比較的おおらかで開放的といわれています。
昔は、山を越えてお重の弁当と酒をもった人々が集まり、持参したワラを敷いて、祭礼を祝いながら能楽を楽しみ、演者の芸が素晴らしければ自然と拍手が沸き起こる光景なども見られました。
往事の雰囲気がうかがえる有名なエピソードが大正時代の本間家能舞台(佐渡宝生流の本拠地)に残されています。
舞台で能「安宅」が演じられていた最中、弁慶の機転により源義経一行が関所の通行を許され、怯んだ敵役の富樫が「近頃誤りて候、急いで御通り候へ」と謡ったところで、観客から「ざまァ見ろ」という野次が富樫に向かって飛んだというのです。野次が飛び出るほどに観客は真剣に見ていたという証でもあり、笑い話としていまに伝えられています。
能月間として知られる6月は毎週、島のどこかで能楽と出会える
佐渡では、毎年4月から10月まで各地の能舞台で島の人々によって能楽が演じられ、とくに能月間として知られる6月は毎週、島のどこかで能楽と出会えます。
島外からの観光客も多く訪れる有名な演能としては、例年5月から始まる椎崎諏訪神社での「天領佐渡両津薪能」があり、8月を除く10月までの全5回、人気の演目を楽しむことができます。
また、6月中旬に開催される「正法寺ろうそく能」は、世阿弥が逗留した正法寺の本堂を舞台に幻想的なろうそくの明かりの中で能が舞われます。
開演前には、世阿弥を偲ぶ呈茶席「拝処の月」が用意されるほか、世阿弥が使用したと伝えられる県指定有形文化財「神事面べしみ(通称:雨乞いの面)」が一般公開されます。
このほかにも、各神社での神事能など様々な能楽が楽しめ、会場と宿泊施設を巡回する薪能ライナーバス(事前予約制)が運行される演能もあります。
佐渡の演能スケジュールにあわせて島を訪れ、能楽鑑賞はもちろん、世阿弥が歩いた道を辿ってみたり、各地の能舞台を巡ってみたり、能楽を通して佐渡の文化や風土を知る旅へ出かけましょう。