佐渡には、日本各地の文化がもたらされ、島の中で生まれた文化と融合し、情緒溢れる素朴な伝統芸能が育まれてきました。能楽もその一つですが、その他にも有名な「鬼太鼓」など多種多様な芸能が島内各地に広がっており、各集落の祭りなどで披露されています。
島民の祈りや願いが秘められている佐渡の伝統芸能をご紹介します。

鬼の数だけ踊りがある鬼太鼓(おんでこ)

鬼太鼓は、集落の厄を払い、五穀豊穣や大漁、家内安全を祈って島内の多くの祭礼で舞われる佐渡にしかない代表的な伝統芸能です。

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集落によって鬼の踊りや太鼓の打ち方が異なる鬼太鼓

現在、島内には約120地区の鬼太鼓があると言われています。踊りの型は大きく「豆まき流」「一足(いっそく)流」「前浜流」「花笠流」「潟上流」の5つに分けられますが、同じ型でも鬼の踊りや太鼓の打ち方が微妙に異なり、一つとして同じものはありません。

  • 豆まき流
    豆まきの翁と鬼が登場。主役は翁で、素襖姿で烏帽子をかぶり升を持ち、太鼓に合わせて長い袖を振りながら舞います。相川・国中・小木地区の集落で見られます。
  • 一足流
    江戸時代に相川地区で行われていた鬼太鼓の原型で、太鼓に合わせて片足でケンケンするように踊ります。相川・小木地区の集落で見られます。
  • 前浜流
    2匹の鬼が笛と太鼓に合わせて踊ります。老僧(ローソ)という「鬼太鼓の案内人」が加わる集落もあり、ご祝儀をいただいた家で口上を述べます。前浜地区を中心に各集落で見られます。
  • 花笠流
    両津地区で花笠踊りの演目の一つとして行われるもので、一匹の鬼がしっとりと舞います。地元では「鬼の舞」と呼ばれています。
  • 潟上流
    阿吽一対の鬼が交互に舞います。獅子が絡む集落もあり、島内でもっとも多く踊られています。

鬼太鼓は、神社で舞った後、集落の一軒一軒を回り、玄関先で舞い踊る門付け(かどづけ)を行い、門付けを受けた家は祝儀を振る舞います。

毎年5月に両津地区で開催される「佐渡國鬼太鼓どっとこむ」では各地区から集まった様々な鬼太鼓を観ることができます。

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鬼太鼓のほかにも、佐渡おけさなど佐渡の伝統芸能が一堂に会する佐渡国鬼太鼓どっとこむ

佐渡を代表する有名な民謡・佐渡おけさ

佐渡を代表する民謡として全国に知られている佐渡おけさ。その元唄は九州のハイヤ節という酒盛り唄といわれ、北前船の船乗りによって佐渡の小木地区に上陸しました。やがて座敷唄から盆踊唄化し、それが相川地区の金山の鉱夫たちに広まって「選鉱場節」として哀愁漂うメロディになったとされています。

さらに、1926年(大正15年)、選鉱場に勤務していた村田文三が日蓄レコード(後の日本コロンビア)より「佐渡おけさ」として発売すると一躍有名になりました。

哀調を帯びた節と洗練された優雅な踊りは、島内の祭りや盆踊りなどで目にすることができます。

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佐渡奉行の前で披露したことから無礼にならないように笠で顔を隠して踊るようになったと伝えられている

赤・黄・青・紫・白の花がついた笠をかぶって踊る花笠踊り

両津地区の久知(くち)八幡宮で9月中旬に行われる例大祭で奉納される花笠踊りは、県の無形民俗文化財に指定されている五穀豊穣を祈願する芸能です。踊り手が赤・黄・青・紫・白の花がついた笠をかぶって踊ることからその名がつきました。
室町時代の天文年間(1500年代)から続いており、踊り手は早乙女姿(田植え用の装い)の子どもたちで、田植えを祝う「御田(おんた)踊」、豊作を祝う「神事踊」、収穫を祝う「千代踊」と「金田(きんた)踊」の4つからなる踊りの合間に、鬼の舞や獅子踊りなどが加わります。

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両津地区にある久知八幡宮で奉納される花笠踊り

佐渡の花笠踊りは、両津地区の赤玉神社や、相川地区の御礼智神社の例祭でも行われています。

乗馬型と手駒型の2タイプがある佐渡の春駒

佐渡では一般に「はりごま」と呼ばれ、木製の馬の首にまたがり、地唄に合わせて祝いの言葉を述べながら舞い踊る門付けで、豊作や大漁を願う前祝いとして正月や祝いの席で披露されている伝統芸能です。
木製の馬の首型を腰につけ馬にまたがったような形で舞う乗馬型と、馬の首型を手に持って舞う手駒型があります。

佐渡の春駒は江戸時代に相川地区からはじまったとされていますが、相川地区は乗馬型で、特徴的な黒褐色で頬のゆがんだ奇怪な面は、江戸時代初期に金山の山師としてもっとも活躍した味方但馬(みかたたじま)の顔つきとも言われています。

佐渡で現在、正月に門付けを行っているのは、両津地区の浜梅津と野浦集落の二つでどちらも手駒型です。

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馬にまたがったような形で舞う乗馬型の春駒

説教人形・文弥人形・のろま人形と3種類ある佐渡の人形芝居

佐渡には説教人形・文弥人形・のろま人形と3種類の人形芝居があります。いずれも一人で一体の人形を操る一人使いで、古浄瑠璃形式をもとに独自の改良が加えられ、すべて「佐渡の人形芝居」として国の重要無形民俗文化財に指定されています。

  • 説教人形
    僧侶の説教に端を発した説教節の語りに合わせて演じられ、佐渡の中ではもっとも古い人形芝居です。
  • 文弥人形
    当初、哀調を帯びた旋律が特徴の文弥節が京都から伝わり、三味線の弾き語りとして語り継がれましたが、1870年頃に人形遣いと語りによる芝居が確立したと言われています。
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    頭が前後左右に動くことから「がくがく人形」とも言われていた文弥人形
  • のろま人形
    素朴な佐渡の方言で語られ、説経人形や文弥人形の合間に幕間狂言として登場することが一般的です。

 

現在、島内の人形座は10数座を数え、芝居は各地の祭りや芸能行事などで上演されています。
ちなみに、文弥人形は、国中地区の長谷寺で毎年5月中旬に開催される「長谷観音祭り」で春駒とともに披露されています。また、のろま人形は、国中地区で毎年8月上旬に行われる「新穂城跡はすまつり」で、やはり春駒と一緒に上演されています。

子孫繁栄を祈る原始的な民俗芸能・つぶろさし

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羽茂村山の鬼舞つぶろさし

南佐渡地区に伝わる大神楽舞楽で、「つぶろ」は男性器のことで、「さし」はさするの転化といわれ、子孫繁栄や豊作を祈る原始的な民俗芸能です。南佐渡地区にある4集落のつぶろさしが県の無形民俗文化財に指定されています。

  • 羽茂本郷の寺田太神楽つぶろさし
    菅原神社の例祭(6月15日)に奉納してから氏子を門付けして回ります。男面をつけ男根を持った「つぶろさし」、女面をつけ竹の楽器ササラをすりながら、つぶろさしに迫る美女役の「ササラすり」、金をちらつかせながら色気で迫る顔を隠した女性役「銭太鼓」が登場します。
  • 羽茂村山の鬼舞つぶろさし
    草苅神社の例祭(6月15日)に奉納した後、門付けに回ります。初めに青鬼と赤鬼が笛と太鼓のリズミに合わせて軽快に舞った後、男性役のつぶろさしと女性役のササラすりが登場して二人のユーモラスな舞が披露されます。
  • 宿根木のちとちんとん
    宿根木の鎮守の祭り(10月第2土日曜)で行われます。青鬼と赤鬼による舞のあと、男根を股にはさむ「ちんとん」と、ササラを持つ「とん」が太鼓と笛に合わせて舞います。途中、ちとちんが男根を落とし、とんがササラの音で男根のありかを示す仕草が特徴です。
  • 小木町の大々神楽
    諏訪神社の例祭(8月第4土曜)に奉納されます。主役の獅子のほか、子どもが務めるササラすりと銭太鼓、そして、つぶろさしが登場します。このつぶろさしは他の集落とは違って主で舞うことはありません。

豊かな金銀鉱脈の発見を願う鉱山の祝歌・やわらぎ

やわらぎは、金山が繁栄した江戸時代、山の神の心を「なごめ、やわらげる」とともに、硬い鉱石が「やわらかくなる」ことを祈って金掘りの労働者たちが歌った祝歌です。

わらのむしろで作った袋を裃として、頭にむしろの烏帽子をかぶり、長い髭をつけた人が中央に座って幣束(へいそく)を振りながら祝歌を唄います。そして、左右に坑夫が並んで、樽を叩いたり、たがねで鉱石を掘る所作をします。むしろの裃には、大きなムカデが描かれていますが、これは古くからムカデが金運を招くものとされたことや、その姿が金鉱脈に似ていたことから鉱山師の間では神様的存在だったとされます。

毎年7月第3土日曜に行われる相川地区の鉱山祭りで、山の神を祀る大山祇神社に奉納されます。

 

佐渡では、上記のほかにも「大獅子舞」「小獅子舞」「流鏑馬」「山車」、それに「羽茂のおいらん道中」(南佐渡地区)、「片野尾歌舞伎」(相川地区)などの伝統芸能、さらには、国内外から音楽ファンが訪れ、薪能を含む多彩なプログラムを展開する野外フェス「アース・セレブレーション」も毎年8月に開催されるなど、年中どこかしらで祭りやイベントが行われています。

佐渡を能楽鑑賞で訪れた際に、神社のぼりを見かけたら立ち寄ってみたり、鬼太鼓などの門付けの後についてのんびりと歩いてみてはいかがでしょう。

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