現在のシテ方流儀のルーツ・大和猿楽四座の発祥の地を訪ねる

能楽の源流である猿楽は、室町時代初期に座(劇団)となって諸国で活動しました。中でも人気を誇っていたのが、大和国(奈良県)で活動していた大和猿楽四座です。この四座は、円満井座が金春流に、外山座が宝生流に、結崎座が観世流に、坂戸座が金剛流と後に喜多流へと、それぞれ現在のシテ方流儀の礎となり、現在に至っています。

大和猿楽四座の発祥の地を訪ねる旅へとご案内しましょう。

興福寺境内に発祥之地の碑が建つ円満井座(金春流)

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興福寺(奈良市)境内の西寄り、南円堂と北円堂の間に建つ「薪能金春発祥地」の石碑

円満井(えんまんい/えまい)座は、大和猿楽四座の中でもっとも歴史が古く、飛鳥時代に聖徳太子に仕えた秦河勝(はたのかわかつ)を家祖とすると金春流に伝えられています。さらに、南北朝時代に活躍した毘沙王権守(びしゃおうごんのかみ)が金春流の祖、権守のひ孫・五十七世金春禅竹が中興の祖と言われています。禅竹は、世阿弥の娘婿でもあり、名曲と謳われる「杜若」や「野宮」の能を作るなど能楽大成に大きく寄与しました。

円満井座の本拠地は、現在の磯城郡田原本町とされ、田原本町にいまも残る「秦楽寺(じんらくじ)」の北門前に金春屋敷があったと伝承されています。鎌倉時代から初瀬寺(現在の長谷寺)で演能し、その後、春日大社や興福寺の神事猿楽で活動しました。

平安時代中期に興福寺の修二会(しゅにえ、毎年2月に行われる法会)で初めて薪猿楽を催した座であることから、興福寺の境内に「薪能金春発祥地」の石碑も建てられています。

外山座(宝生流)のふるさとはその名に由来する桜井市外山

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宗像神社(桜井市)の鳥居手前にある小公園に建つ「能楽宝生流発祥之地」の石碑
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神武天皇ゆかりの鳥見山北麓に鎮座する宗像神社

外山(とび)座は、外山崎(現在の桜井市外山)を拠点としたことから外山座と呼ばれ、多武峰寺(現在の多武峰談山神社)に所属して春日大社(春日若宮おん祭)や興福寺(薪猿楽)で活動していました。

外山には数々の古跡・古社が残っていますが、そのうちの一つである宗像神社の境内入口付近には、「能楽宝生流発祥之地」の碑が建てられ、その除幕式のおりには宝生流宗家による能の奉納が行われました。

外山座の初代は、宝生家に伝わる系図では蓮阿弥といい、観阿弥の子で世阿弥の弟となっていますが、観阿弥の兄とされる宝生大夫であるという説もあり、後にその名から「宝生座」と呼ばれるようになったとも言われています。

結崎座(観世流)の本拠地跡に不思議な伝説を持つ「面塚」とともに建つ発祥之地の碑

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結崎座の本拠地・磯城郡川西町結崎に建つ「観世発祥之地」と「面塚」の石碑
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石碑は「結崎面塚公園」の一角に整備されている

結崎(ゆうざき)座の始祖である観阿弥は、多武峰(現在の桜井市)で活動していましたが、後に結崎(現在の磯城郡川西町結崎)に移り、結崎座を創設しました。

結崎には、古くから「ある日、大きな音とともに翁の面と葱が空から降ってきて、それらを塚に納めたところ、葱は見事に育ち、後に『結崎ネブカ』として名物になった」という不思議な伝説を持つ「面塚(めんづか)」という小さな塚がありました。

1936年(昭和11年)、その面塚に、二十四世観世宗家・観世左近氏の筆跡による「観世発祥之地」と「面塚」と刻まれた2つの石碑が建てられました。その後、河川改修で移設され、現在は奈良盆地に広がる田畑の中を流れる寺川のほとりに「結崎面塚公園」として整備されています。公園周囲の玉垣は全国観世流の門下生から寄与されたもので、玉垣の刻銘には著名な観世流能楽師の名が並んでいます。

坂戸座(金剛流)がかつて仕えていた法隆寺のある斑鳩町が発祥の地

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龍田神社(生駒郡斑鳩町)境内に建つ「金剛流発祥之地」の碑
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祭神が龍田彦と龍田姫の風神であることから「風宮」とも呼ばれている龍田神社

坂戸(さかと/さかど)座は、鎌倉時代から法隆寺に奉仕していましたが、室町時代初期に興福寺に属する大和猿楽四座の一つとなって演能を行いました。

金剛流の祖としては、室町時代初期の坂戸孫太郎氏勝と伝えられ、六世善岳正明から「金剛座」を名乗りました。七世金剛氏正は豪快な芸風から「鼻金剛」の異名を持ち、中興の祖と言われています。

1997年(平成9年)、かつて坂戸座が所属していた法隆寺のある斑鳩町が、町制施行50周年を記念して、町内にある龍田神社に「金剛流発祥之地」の石碑を建てました。龍田神社は、法隆寺を台風などから守る鎮守社であり、また坂戸座が猿楽を奉納したとされる神社でもあります。

大和猿楽四座の足跡をご自身でも感じてみてください

大和猿楽四座の発祥の地は、いずれも奈良県北部にあり、車ですべて巡っても2時間はかからない近距離にあります。それぞれの発祥の地の碑をスタンプラリーの要領で巡ったり、あるいは発祥地周辺の旧跡をゆっくり訪ねたりしながら、大和猿楽四座の時代へ思いを巡らせてみましょう。

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