狂言「佐渡狐」

佐渡狐

一年を締めくくる年貢納めを描いためでたい脇狂言

「佐渡に狐がいるかいないか」を巡って賭けをすることになった佐渡と越後の百姓と、佐渡の百姓から賄賂を受け取った奏者(役人)とのやりとりが楽しい狂言「佐渡狐」は、江戸中期にできたものと考えられています。

一年を締めくくる年貢納めを描いためでたい演目で、祝言性が大切にされる脇狂言に分類されます。

登場人物

佐渡の百姓

シテ(物語の中心人物)

越後の百姓

アド(相手役)

奏者

アド

※奏者をシテとして上演する場合もある。

番組本編

狂言 大蔵流「佐渡狐」

シテ 大藏彌太郎 アド 吉田信海
アド 大藏基誠 後見 小梶直人

注目ポイント

見どころである賄賂を渡す場面などでは、立体感あるカメラワークで狂言における表現の魅力を最大限活かした映像となってます。全編、趣向を凝らして撮影しており、田園風景の中に鎮座する大膳神社ならではの自然の演出も含め、色々な部分に是非ご注目ください。

今回の動画には、客席の笑い声などは入っていませんが、実際には、島内からウワサを聞きつけた熱心な能楽ファンが50名ほど観劇に訪れ、笑い声や拍手を控えながら舞台に熱い視線を送っていました。そんな客席の静かな熱気があってこその熱演となっています。

ストーリー解説

佐渡と越後の百姓のお国自慢が賭けに発展(前場)

佐渡の国と越後の国の百姓が年貢を納めに都へ行く途中、道連れになります。

越後の百姓が「越後は本当にいいところ。佐渡は離れ島で何事につけて不自由であろう」と言うのを聞いて、佐渡の百姓は「佐渡にないものはない、何でもある」と強がります。しかし、「狐はおるまい」と本当のところを衝かれて、思わず「いや狐もおる」と言ってしまいます。「いや、おるまい」「いや、おる」と言い争いになり、とうとう「ひと腰賭ける(腰の刀を一本賭けるの意」)ことに。そして、その勝負の判定を、都の奏者(役人)に頼むことにします。

都に着くと、佐渡の百姓は、先回りをしてこっそり奏者に賄賂を渡し、佐渡には狐がいると判定してもらうよう依頼します。
賄賂を受け取った奏者は、依頼を引き受けたばかりか、狐がどんなものか知らない佐渡の百姓に、狐の特徴を細々と教えるのでした。

 

佐渡の百姓、いったんは賭けに勝つも………(後場)

奏者の前で、二人のやりとりが始まります。

越後の百姓は、「狐のなり格好を知っているか」「目はどのようじゃ」「口は何とじゃ」「耳は?」「尾は?」「毛色は?」と厳しく問いただします。

佐渡の百姓は、先ほど奏者に教えてもらった狐の特徴を言おうとしますが、所詮、見たこともない狐のことなどうまく語れるはずがありません。賄賂をもらった奏者はなんとか佐渡の百姓を勝たせようと、越後の百姓に邪魔されながらも数々のヒントを出します。

佐渡の百姓は、なんとかその場を切り抜け、賭けに勝ち、相手の腰のものをとって帰ろうとします。

すると、どうも怪しいとにらんだ越後の百姓は、「それでは、狐の鳴き声は何とじゃ」とさらに迫ります。

奏者からその点を聞きもらしていた佐渡の百姓は、鳴き声を間違えてしまい万事休す。刀を奪われてしまい、「自分の分だけでも返してくれ。やるまいぞ、やるまいぞ」と言いながら後を追い、終演となります。

佐渡狐の見どころ・魅力

佐渡狐

前場で、越後の百姓は、佐渡を辺境の地のようなイメージで語りますが、越後も、佐渡とは国向かいのいわばご近所同士なので、五十歩百歩のようなおかしみを生んでいます。

佐渡の百姓と奏者の賄賂をめぐるやりとりは、最初は賄賂を見て渋り、強い口調で叱った奏者が結局あたりを見回しながら受け取ってしまう様子がコミカルで笑いを誘いますが、同時に袖の下に弱い人間の本性も見事に描かれています。

後場、越後の百姓と佐渡の百姓が狐の特徴について議論する場面、奏者と佐渡の百姓の連携プレーと、それを邪魔しようとする越後の百姓のやりとりが一番の見どころです。その議論にいったんは勝った佐渡の百姓がどんでん返しを食って負けてしまう最期のシーンは大きな笑いを呼びます。

風刺性がありながらも、和やかな雰囲気が漂う狂言です。

能楽を旅する×佐渡狐