金剛流の能 島根公演の魅力と見どころ

公益社団法人 能楽協会

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2023年11月4日(土)に島根県の出雲市民会館で「日本全国 能楽キャラバン! 金剛流の能 島根公演」が開催されます。本公演では、出雲に伝わる神話を題材とした能「大蛇」をはじめ、このたび人間国宝になられた金剛流二十六世宗家の金剛永謹氏による仕舞「砧」、そのほか半能「井筒」、狂言「千鳥」などが上演されます。
能「大蛇」の上演前には「能と神楽が描く出雲神話」と題された鼎談(解説)があります。はじめて能をご鑑賞される方から神社・神話好きの方や、様々な視点から舞台を楽しんでいただける公演となっています。
能「大蛇」でシテ(主役)を勤められるシテ方金剛流の種田道一氏に、島根公演の魅力や能「大蛇」の見どころなどについてお伺いしました。

種田道一 プロフィール(シテ方金剛流)

たねだ・みちかず。
1954年、能楽金剛流の職分家である種田家の四代目として京都に生まれる。
1959年初舞台。
1975年「石橋」で初シテ以降「乱」「望月」「道成寺」「卒都婆小町」などを開曲。
茶道裏千家(茶名:宗道)としての顔を持ち、著書「能と茶の湯」(淡交社)がある。
種田後援会能を主宰。重要無形文化財保持者。金剛会理事。

出雲にゆかりのある能「大蛇」をご当地で初披露

能「大蛇」後シテ 八岐大蛇

種田:能「大蛇(おろち)」は、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)神話を題材とした演目で、出雲が物語の舞台となります。この曲は金剛・宝生・喜多流だけに伝わる稀曲(ききょく=上演機会が少ない曲)となります。
以前から、ぜひご当地である出雲で上演したいと考えておりましたが、このたびようやく実現の運びになりました。

「大蛇」は島根県の伝統芸能として有名な石見神楽(いわみかぐら)の演目にもなっています。地元の方々にはなじみのある曲だと思います。

能「大蛇」の見どころ

物語は八岐大蛇神話の通り「老夫婦から娘の稲田姫を八岐大蛇が狙っていることを聞いた素盞鳴尊(すさのお)が策略で大蛇を酔わせて退治する」というものになります。

私が「大蛇」のシテを勤めるのは2回目になります。前半は稲田姫の父親、後半では八岐大蛇を演じます。
前半は、まず藁屋(わらぶきの家)を表す大きな作り物(舞台装置)が登場します。藁屋から、老夫婦と稲田姫の泣き声が聞こえてきたので、素盞鳴尊はなぜ泣いているのか尋ねます。稲田姫は八岐大蛇の生贄に差し出されることをなげいていたのです。そこで、素盞鳴尊は「大蛇を退治する代わりに、稲田姫を自分の妻にしてほしい」と提案します。
実はこの場面、神話とは少し異なります。神話では大蛇を退治した後に結婚するのですが、能ではなんと先に結婚してしまうのです(笑)。
稲田姫は子方(子役)が演じます。こんな小さい娘が大蛇に飲まれてしまうのではないかと、いっそう哀れさが引き立つことと思います。

静かな前半とは一転、後半は素盞鳴尊と八岐大蛇が対峙する「動」のシーンが続きます。
素盞鳴尊と八岐大蛇がどう対峙するのかは見てのお楽しみとなりますが、見どころは八岐大蛇が激しく暴れ回る迫力ある舞です。蛇ですから謡はなく、最後までダイナミックな舞が披露されます。
最後には、対峙した八岐大蛇の尾から剣が出現します。この剣はすなわち日本神話でも伝えられている叢雲(むらくも)の剣となり、劇的なフィナーレを迎えます。どうぞご期待ください。

市民会館でも能公演に近い舞台でお楽しみいただけます

出雲市民会館で本格的な能公演が開催されるのは今回がはじめてとなります。舞台自体もできるだけ本格的な能舞台に近づけて設営する予定です。橋掛かりは、隣の松江市にあり能公演を多く行っている島根県民会館からお借りしてトラックで運び入れます。橋掛かりに沿って設置する松も地元の造園業者に特別に用意していただくことになっています。

はじめて能をご覧になる方も多いと思いますので、できるだけ、ふだんの能公演に近い舞台をご用意したいと考えています。是非、能舞台を間近で見ていただき、上演を堪能ください。

出雲大社や一畑薬師など観光地としても魅力的な出雲

日本最大級の大注連縄で知られる出雲大社 神楽殿

種田:私自身は出雲とはご縁がありまして、約30年前から月1回ほど稽古で通っているなじみのある土地です。大変魅力的なところで、出雲は飛行機などのアクセスも充実しております。他県からもぜひ本公演に足を運んでいただけたらと思います。

観光スポットとしては、八百万の神々が神在月に集まる出雲大社、霊験あらたかなお薬師様として知られる一畑薬師のほかにも神話にゆかりのある神社が数多くあります。

出雲から奥へ行きますと、日本古来の製鉄法であるたたら製鉄や刀鍛冶が盛んだった雲南市や奥出雲町があります。現在も川の流れが茶色でして、これは鉄が豊富な土地であることがうかがえます。
実は、この斐伊川(ひいかわ)は古代からたびたび氾濫を繰り返して恐れられておりました。このことから「大蛇」にたとえられ、神話になったという説もあります。

隣の松江に行きますと、天守閣が国宝となった松江城がありまして、そのお膝元には「水の都・松江」と呼ばれるにふさわしい素敵な城下町が広がっています。
ノドクロをはじめ日本海の幸も美味しい土地です。ぜひ観光を兼ねてお越しください。

古代から氾濫が多かったことから、大蛇の正体とも言われている斐伊川

親子で楽しめる能楽ワークシップや鼎談など魅力的な企画も満載

種田:公演当日の午前中、同会場では島根県内在住の小・中・高校生と、その引率者の親子などを対象とした能楽師による能楽講座「青少年のための能楽ワークショップ」を予定しています。参加費は無料で、能楽師と一緒に謡を謡っていただいたり、幼少の頃から能を習っている子どもたちによる仕舞のパフォーマンスを予定しています。
貴重な能楽体験を通して、地元の若い皆さんに少しでも能楽に興味を持っていただけたらと願っています。
なお、ワークショップ参加者には引率者も含めて本公演に無料でご招待させていただきます。奮ってご参加ください。

本公演は、能「大蛇」の前にも魅力的な番組が並んでいます。
半能「井筒」は、幽玄が深い本格的な能で、後半のしっとりとした美しい舞を通して能の神髄に触れていただけます。
続いて、このたび人間国宝となった金剛流二十六世宗家による仕舞「」、太郎冠者と酒屋の必死の駆け引きが楽しめる狂言「千鳥」、そして能「大蛇」の直前には、出雲にある由緒ある万九千神社の宮司さんをゲストに迎えて「能と神楽が描く出雲神話」と題された鼎談があります。

楽しい鼎談を通して出雲神話や八岐大蛇についての理解を深めていただいてから「大蛇」をご覧いただきますので、より演目を楽しんでいただけることと思います。

出雲を舞台とした能「大蛇」をご当地で演能する機会は演ずる側からしても大変貴重です。そして公演前のワークショップや鼎談も含めて、普段の能公演では見られない企画が満載で最初から最後まで充実したプログラムです。
ぜひ足をお運びいただければと思います。

斐伊川上流にあり、大蛇が住んでいたところと言われる天が淵(あまがふち)

 

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