能「半蔀」

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幻のようなしっとりした優美さが際立つ能

「半蔀(はしとみ。観世流では【はじとみ】」は、源氏物語の「夕顔の巻」に描かれる光源氏と夕顔の上の恋物語を題材としています。

京の五条あたり、夕顔の花が咲く質素な屋敷。光源氏は半蔀(格子状の上部を外側へ上げ開く建具)の上がった建物に見え隠れする女性に興味をそそられます。
夕顔の花に添えられた和歌の贈答から、「夕顔の上」との儚くも情熱的な恋がはじまります。

しかし幸せな時間も束の間、夕顔は物の怪に取り殺され、短い恋は終わりを告げます。

能では、夕顔の霊が光源氏との出会いを思い出してひたすら懐かしみ、恋心を語り舞うという幻のようなしっとりした優美さが際立つ構成になっています。

登場人物

前シテ(前場の主役)

夕顔の霊

後シテ(後場の主役)

雲林院の僧

ワキ

番組本編

能 宝生流「半蔀」

シテ 金井雄資 主後見 髙橋憲正
ワキ 大日方寛 後見 金井賢郎
藤田貴寛 地頭 小倉健太郎
小鼓 幸信吾 地謡 水上優
大鼓 柿原弘和 地謡 金森良充
    地謡 今井基

注目ポイント

本映像は、立体感あるカメラワークで様々な角度から撮影した特別番組となっております。
最初にご注目いただきたいのが、シテが身につけている面と能装束です。これは、佐渡において江戸の慶安年間から18代もの長きにわたり能の普及と庶民化に多大な影響を与えてきた宝生流佐渡の名家本間家に伝わる貴重なもの。佐渡の能楽公演でも、特別な場合でなければ本間家の面や能装束は使用できません。

囃子の合間に聞こえる自然の音にも注目ください。風に揺れる竹林の音や、鶯などの鳥の鳴き声は、田園風景の中に鎮座する大膳神社ならではの自然の演出。 シテを勤められたシテ方宝生流金井雄資師も、「能を舞う時は能面と能装束に大きな力を借りて舞うのですが、大膳神社の能舞台では、それらに加えて自然のパワーに後押ししていただいたような心持ちがしました」と語られています。

ストーリー解説

夕顔のゆったりとした舞

夕顔の花の影から女が現れる(前場)

都、紫野の雲林院(現在の京都市北区大徳寺のあたりにあった寺)の僧(ワキ)が登場し、舞台中央に座して合掌し、夏の修行で仏に捧げた花供養のために経文を唱えます。

黄昏どき、女(前シテ)が花の影から登場し、白い花を供えると、花の名を夕顔と告げます。僧が女の名を尋ねると、女は名乗らずに「自分は五条あたりに住んでいた者」と言い残し、姿を消してしまいます。

 

夕顔の霊は光源氏との出会いを語り、昔を懐かしみつつ舞う(後場)

僧が五条あたりを訪れると、半蔀のある物寂しげな住まいを見つけます。僧が夕顔の上の生涯を思い菩提を弔おうとすると、半蔀を押し上げて夕顔の霊(後シテ)が姿を現します。
夕顔の霊は、光源氏と出会ったときに白い花を扇に載せて差し上げたこと、花の名を夕顔と教えたことが二人の契りになったことを語り舞います。

そして、光源氏の詠んだ歌「折りてこそ、それかとも見めたそかれに、ほのぼの見えし、花の夕顔(折り取ってこそ、くっきりと見えるのだろう、黄昏の頃に、ほのかに見えた夕顔の花は)」を語り、ゆったりと舞を舞います。
夕顔の霊は昔語りを終えると、僧に重ねて弔いを頼み、夜明けとともに半蔀の中に姿を消します。

半蔀の見どころ・魅力

半蔀の見どころ・魅力

後場では、半蔀の作り物(舞台装置)が、舞台上に置かれます。

作り物には、夕顔と光源氏の出会いの象徴である、夕顔の花と、夕顔の実である瓢箪が付けられ、曲に深い趣を添えます。

一番の見どころは、後場における夕顔の霊の舞です。光源氏との恋物語を語り舞うと、光源氏が詠んでくれた歌を語り、ゆったりと「序ノ舞」(ごくゆっくりと、静かに気品を持ってしっとり舞われる舞)を舞います。「クセ」(曲の中心となる重要な段落)の中には、光源氏に夕顔の花を差し上げるような動きもあり、ひたすら光源氏を慕う夕顔の一途な思いが凝縮された舞といえます。

能楽を旅する×半蔀