平泉駅から毛越寺、そして中尊寺へと続く平泉の観光エリアには、古くから伝わる郷土料理から、食べ歩きやお土産に適したおやつなど、数々の平泉グルメが点在しています。世界遺産に登録された史跡巡りの合間のひと休みに、平泉ならではのグルメを堪能しましょう。

農民が知恵を絞り工夫を重ねて生み出した郷土料理「餅御膳」と「はっと汁」

岩手県南部に位置する平泉町や一関市では、400年にわたり独特の餅食文化が受け継がれてきました。餅というとお正月のイメージですが、この地方では冠婚葬祭、田植え、お花見など、人生・季節・農作業の節目ごとに餅を食べるのが習慣で、いつどのような種類の餅を食べるかを表す「餅歴」までありました。

餅食文化のはじまりは江戸時代。伊達藩の命により毎月1日と15日に神前に餅を供え、平安無事を祈願する習慣がありましたが、農民は餅米だけの白い餅を毎回用意することができず、代わりにくず米や雑穀を混ぜた「しいな餅」を作っていました。そうした、しいな餅を美味しく食べるための工夫として、季節ごとの食材を活かし、様々な味で餅を食べるようになったと言われています。さらに、冠婚葬祭の席では、それらの様々な餅をお膳に並べた「餅御膳」が振る舞われました。

この餅御膳を味わえるのが、中尊寺から南へ300メートル、毛越寺に向かう途中の小高い丘にあるお休み処「夢乃風」です。餅御膳は50年近く提供を続けている店の名物料理です。

一番の人気メニュー「藤原三代お餅膳」は、ずんだ・あんこ・くろごま・くるみ・しょうが・お雑煮の6種類の餅に、大根おろしと漬物が付きます。平泉産の餅米「こがねもち」を使用した餅は粘り強くやわらかで、口に入れると滑らかな舌触りにまずはビックリ。餅の種類によって味や食感が異なり、また箸休めの大根おろしもほどよい甘酸っぱさと辛みがあり、最後まで飽きずにいただけました。

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ずんだ・あんこ・くるみ・くろごま・くるみ・しょうが・お雑煮の6 種類の餅に、箸休めの大根おろしと漬物が付く「藤原三代お餅膳」

夢乃風では、餅御膳のほかに、郷土料理の「はっと汁」を味わうこともできます。水を加えて練った小麦粉の生地を熟成させて薄く伸ばし、醤油仕立ての汁に入れて茹で上げた「すいとん」のような料理がはっと汁です。伊達藩時代、年貢等のため満足に米を食べることができなかった農民は知恵を絞り、畑で作った小麦で美味しい料理を生み出しました。そのため領主は農民が米作りを疎かにすることを恐れ、この料理をハレの日以外に食べることを「御法度」としました。それ以来、はっと汁と呼ばれるようになったと伝わっています。

はっと汁の出汁や具材は地域や家庭により様々ですが、夢乃風では石巻産の鰹節からとった出汁と、季節の野菜やきのこ類とともに、ツルツル、シコシコの食感のはっと汁が楽しめます。

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一度食べるとツルツル、シコシコの食感がやみつきになるはっと汁

マイペースで楽しめる「盛り出し式平泉わんこそば」

わんこそばというと、ひと口分のそばをお椀に入れ、食べ終わるたびに店の人が次々とそばを入れ続ける盛岡の「給仕式」を思い浮かべますが、平泉のわんこそばはあらかじめ数多くのお椀に盛って出す「盛り出し式」。急かされずに、個々のペースでそばを楽しんでほしいという平泉の人々の優しい思いから誕生しました。

この盛り出し式の平泉わんこそばを味わえるのは「駅前芭蕉館」。屋号の通り、平泉駅を出るとすぐに落ち着いた風情ある佇まいが見えます。駅近でアクセス抜群、鉄道を利用する観光客にも人気のお店です。

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小盛りそばのお椀が24杯、二段重ねのお盆にずらっと並ぶ様は壮観

グランドメニューの「わんこそば」は一口程度の小盛りそばの椀が24杯出てきます。それも12杯が1枚のお盆にのり、それが2段重ねとなって登場するので大迫力。自分で1杯ずつ手元の平泉名産「秀衡塗」のお椀に移し入れ、薬味を加えたら一口で食べるのがお店のおすすめ。薬味は、いくら、鮪の山かけ、なめこおろし、鰹節、のり、ねぎなど種類が豊富で、好みに応じて「味変」ができるのも魅力です。

最初はお椀の数に圧倒され食べきれるか不安でしたが、そばの滑らかな喉越しと薬味による味変により、気が付いたらペロッと平らげていました。なお、24杯でも物足りないという食べざかりの方のために、さらに12杯まで無料でお代わりをすることができます。

平泉駅前にある駅前芭蕉館。お土産として秀衡塗の椀や急須台などの伝統工芸品、平泉の関連書籍なども販売されている

弁慶の名を冠した食べ歩きグルメ&お土産

平泉には源義経に縁のあるスポットが点在していますが、平泉グルメには、なぜか義経ではなく、配下の弁慶の名を冠したものが多く存在しています。

「弁慶餅」は、中尊寺の参道、月見坂を登りきり平坦になった中腹に位置する老舗和菓子店「松栄堂 弁慶園」の名物。山芋とうるち米を合わせて作られた餅にくるみ醤油を塗り焼き上げたもので、香ばしい香りとモチモチッとした食感が散策で疲れた身体にエネルギーをチャージしてくれます。店に併設されている休憩処でひと休みしながら味わっても良し、また散策しながらの食べ歩きにも向いています。

香ばしい香りが中尊寺境内に漂う弁慶餅

「松栄堂」は一関市に総本店があり、明治36年創業以来、多くの餅菓子を生み出してきました。弁慶餅のほかにも、お土産としても絶大な人気を誇るのが「ごま摺り団子」。香ばしいごまの摺り蜜をもちもちとした食感の団子で包んだもので、噛むとチュルンと口の中でごま蜜が溢れ出る、食感も楽しいお団子です。

一関市の松栄堂 総本店内にあるカフェスペースでは、ごま摺り団子など3種の人気菓子がセットになった「寿梅セット」が楽しめる

「弁慶のわらじパン」は、毛越寺駐車場にある土産物店「毛越寺門前直売あやめ」の一角にある小さなパン屋「きんいろぱん屋」で、ひときわユニークな見た目とネーミングで話題を呼んでいるパンです。

商品名の通り、弁慶のわらじを模した形をしており、長さは20cm程度、大根の辛子醤油漬けと角切りチーズが生地に練り込まれています。漬物とチーズという一見ミスマッチにも思える組み合わせは不思議に相性が良く、しっかりとした食感で口の中でなじみます。

きんいろぱん屋を運営しているのは農事組合法人アグリ平泉で、平泉産の小麦と自家製天然酵母にこだわり、毎日30種類以上のパンを加工販売しています。弁慶のわらじパンは2011年に中尊寺などが世界遺産に登録されたことを記念し、アグリ平泉が同じく経営する「漬け物処 きら里」とのコラボ商品として誕生しました。

やはり二つ揃えて並べたくなる弁慶のわらじパン。ルックスはインドのナンにも似て、表面が凸凹している

能の演目の一つに、有名な牛若と弁慶との出会いを描いた「橋弁慶」がありますが、その名もズバリ「特別純米 橋弁慶」という能楽ファンへのお土産にピッタリの日本酒を発見! こちらのお酒は、中尊寺の門前にあるお土産処「平泉レストハウス」で購入することができます。

特別純米 橋弁慶は、岩手県奥州市で明治時代から続く酒蔵・岩手銘醸株式会社で作られた清酒。原料米は、人気漫画「夏子の酒」で描かれた幻の酒米のモデルである「亀の尾」で、口当たりなめらかな甘口タイプです。

その商品名により、義経ファンにも人気が高い特別純米 橋弁慶

平泉産の和からしを使用したインパクト大の珍味「和からしソフト」

2017年にオープンした「道の駅平泉」は、地元の農産物や特産品を販売する産直コーナーと、地元の食材を生かしたメニューを提供するレストランが併設されており、平泉駅からも徒歩15分程度とアクセスも抜群で、観光客や地元の人々で賑わっています。

ここで人気を集めているのが各種のオリジナルソフトクリーム。中でも、珍しさとインパクトの強さから話題となっているのが「和からしソフト」。平泉産の和からしを使用したソフトクリームで、バニラソフトに和からしの実の粒がそのままトッピングされています。口に含むと和からしの粒のプチッとした食感とともにピリリとした辛さが広がります。アイスの甘さと和からしの辛さが絶妙で一度食べたらクセになるかも!

平泉産の和からしの実が粒ごとトッピングされている和からしソフト

また、「どぶろくソフト」も、ほかではなかなかお目にかかれないソフトクリーム。平泉町で収穫された「ひとめぼれ」で作られたどぶろく「一音(いっとん)」が使用されており、甘みとこっくりとした深い味わいのどぶろくの風味がしっかりあります。アルコールが0.9%含まれているので、車を運転する人はここはぐっと我慢で和からしソフトを召し上がれ!

平泉の人々の優しさが感じられるグルメの数々

少しでも美味しく食べるために知恵を絞り工夫を重ねる中で生み出された「餅御膳」「はっと汁」などの郷土料理から、自分のペースでゆっくりそばが楽しめる盛り出し式のわんこそば、地元の食材で工夫を凝らした名物グルメ、ネーミングが楽しいおやつまで、バラエティー豊かな平泉グルメの背景には、平泉の人々の優しさやサービス精神が感じられました。

世界遺産に登録された史跡巡りとともに、そんな平泉の人々の思いが感じられるグルメの数々もぜひ堪能されてみてはいかがでしょうか。

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