佐渡能楽のいまと未来

佐渡では、各地の能舞台で島の人々によって能楽が演じられているほか、能楽に親しむ活動が行われ、学校でも授業に能楽を取り入れるなど、佐渡の能文化は様々な形で継承され裾野が広がっています。

佐渡の宝生流の重鎮で、年5回開催されている「天領佐渡両津薪能」でシテを何度となく務められている神主弌二(こうずいちじ)さんと、神主さんに能楽を習っている女子中学生の二人へのインタビューを通して、佐渡能楽のいまと未来を探ります。

佐渡の能舞台に立ちながら、市内の中学生たちに能楽の指導を行う佐渡の宝生流の重鎮

 

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本間家能舞台にて、神主弌二さん

神主さんは、シテ方宝生流の能楽師として佐渡の能舞台に立つほか、お弟子さんに稽古をつけたり、さらには市内の中学校で能楽を教えるなど、様々な活動で佐渡の能文化を支えています。
神主さんは、祖母が佐渡で女性としてはじめて能を舞った佐渡本間家の重立(有力者)という能と所縁の深い家に生まれましたが、実際に稽古をはじめたのは東京での大学時代でした。

「たまたま能楽サークルを見つけ、吸い込まれるように入部しました」(神主さん)

大学卒業後、新潟県長岡市で高校の教員となっても能を続け、40歳で佐渡本間家十八代当主・本間英孝先生の門を叩いて本格的に能に打ち込むようになり、54歳で宝生流師範となりました。

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本間家能舞台で仕舞を舞う神主さん

「能は、50年やっても終わりというものがない。その奥深さが魅力」という神主さんが新潟県立佐渡中等学校の総合的な学習の時間で能楽を教えはじめたのは平成20年。佐渡の文化を学ぶスクール・カルチャーとして、学年ごとに年間約20時間の授業を担当されています。

神主さん曰わく「全校生徒が能楽を学んでいる中学校は全国でもここだけでしょう」とのこと。「謡には深い呼吸が必要で、それには姿勢も大事ですから、自然と身体の芯が造られる。授業では能楽の魅力を伝えることはもちろん、こうした身体的財産も獲得してほしいという思いで教えています」

授業の成果が披露されるのは毎年12月の学習発表会。招待された保護者の前で、生徒が本を見ずに謡い、代表の生徒が舞囃子を舞う光景は圧巻です。

能楽を習っている女子中学生たちが語る能楽の魅力

2020年12月の発表会で、舞囃子・小袖曾我を二人で舞ったのが、当時中学2年生の渡嘉敷阿美(あみ)さんと高橋優月(ゆつき)さんです。二人は、授業のほかに月3~4回、神主さんのご自宅に通ってマンツーマンの稽古も受けています。

「吹奏楽部の先輩に誘われて、神主さんの稽古場に通い始めました」という渡嘉敷さん。親友の髙橋さんも渡嘉敷さんの後を追うように一緒に習うようになったといいますが、高橋さんには別の目的もあったようで………。

「『刀剣乱舞』というアニメの影響から袴に憧れていたんです。発表会で袴を着たときはうれしいの一言でした」と高橋さん。

神主さんのご自宅での稽古は約1時間。まずはお茶を飲みながら和気あいあい、その後、正座をして一礼してから稽古開始。二人の舞に対して「足拍子は腿で踏む感じで!」などのアドバイスを送る神主さんの声が稽古場に響きます。

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神主さんのご自宅にある15畳の和室で稽古をつけてもらう渡嘉敷阿美さん

「最初は、手足の角度や方向など、舞自体を覚えるのがたいへんでしたが、徐々に楽しいと思うようになりました。舞っているときは何も考えない“無”で、それが気持ちいいんです」と渡嘉敷さん。

一方、高橋さんは「もともと音楽やダンスが好きなので、能もその一つという感じ。いま好きな音楽はボカロ曲(歌詞とメロディーを入力することで歌声を作成できる音声合成技術の一つであるボーカロイドを使用して作った曲の総称)で、ふだんはそれに合わせて踊ったりしていますが、そっちのダンスがキレッキレなのに対して、能楽は流れるような感じで、全然違うところが逆に新鮮で面白いです」とのこと。

実は高橋さん、昨年の発表会前日に足首を捻挫してしまい、松葉杖が必要な状態でしたが、当日は最後まで無事に舞を披露しました。
「舞うのに精一杯で緊張どころではありませんでした」と高橋さん。隣で一緒に舞っていた渡嘉敷さんも「ケガをしているのに足拍子を思い切り踏んでいるので、大丈夫かなと心配でした」と、いまだからこそ笑えるエピソードを披露してくれました。

今年12月の発表会では、渡嘉敷さんは「船弁慶」、高橋さんは「羽衣」の舞囃子で挑戦する予定です。

卒業後の能楽との付き合い方をお伺いすると、「稽古を続けて、プロの能楽師さんの舞台ももっとたくさん観てみたい」という渡嘉敷さん。高橋さんも「趣味の一つとして大事にしていきたいし、練習の様子などをYouTubeにアップしてみたい」と笑顔で答えてくれました。

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神主さんのアドバイスに耳を傾けながら稽古をする高橋優月さん

本間家に伝わる面装束を維持していくためにも能を演ずる人の育成が大切

現在、神主さんのお弟子さんは約30人。新潟県立佐渡中等学校の卒業生など佐渡の人もいれば、島に移住してきた人、中には中国から来た人などもいて年齢も様々。

「最近は、島外から移住してきた人が、能楽を新鮮に感じられて習いたいと来られるケースも増えています」と神主さん。神主さんの現在の課題は、本間家に江戸時代から伝わる面装束の維持・管理です。
「本間家には、能のほぼ全演目を演じられる面装束があります。これらを維持していくには、能を演ずることで面装束が使われることが必要です。そのためにも、能を演じられる人たちを多く育てていくことが、私の最後の仕事と思っています」

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大膳神社で撮影した映像「半蔀」でシテを務められた金井雄資先生は本間家の面装束で舞台に立ちました

最後に、神主さんに、これから佐渡で能楽を鑑賞する人たちへのメッセージをいただきました。

「佐渡で能に携わる人の多くはそれぞれ他の仕事をしながら能舞台に立っていますが、とにかく良い能を演じたいという思い、そして能楽に取り組む姿勢は真剣そのものです。そんな熱い思いや気概を感じていただけたらと思います」

神主さんをはじめ、佐渡能楽を支える島の人々の熱い思いが詰まった能舞台をぜひご鑑賞ください。

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