能「吉野静」

演目_22

静御前の美しく健気な舞が魅力の能

「吉野静」は、源義経とその主従を中心に書いた軍記物語「義経記(ぎけいき)」巻5を題材とし、観阿弥が作った曲です。壇ノ浦の戦いで平家を滅ぼした源義経は、兄・頼朝と対立し、追っ手から逃れて奥州・平泉へと落ち延びていきます。この義経一行の逃亡を描いた能には「船弁慶」「安宅」など多くの作品がありますが、「吉野静」もその一つで、義経が奈良県の吉野山に逃れたときの物語です。

義経一行は吉野山に身を潜めますが追いつめられ、ここまで連れてきた静御前と別れます。そして追っ手を撃退する「しんがり」を命じられた家臣の佐藤忠信は、吉野山中で静御前と偶然出会い、義経を無事に吉野山から落ち延びさせようと相談し、ひと芝居打ちます。

静御前が義経をなるべく遠くまで逃そうと時間を稼ぐために、白拍子姿で美しい舞を見せる、その健気な舞が魅力の作品です。なお、本作品には、忠信と静御前が出会い計画について相談する場面が演じられる前場もありますが、近年では上演機会が少なくなっています。

登場人物

静御前

シテ(主役)

佐藤忠信

ワキ(シテの相手役)

番組本編

能 喜多流「吉野静」

シテ 佐々木多門 後見 狩野了一
ワキ 舘田善博 地謡 長島 茂
小野寺竜一 地謡 内田成信
小鼓 森澤勇司 地謡 大島輝久
大鼓 亀井洋佑 地謡 友枝真也
    地謡 佐藤 陽

注目ポイント

本映像は、立体感あるカメラワークでさまざまな角度から撮影した特別番組となっております。
1月下旬の撮影収録となりました。雪景色の白山神社 能舞台での撮影。その景色の美しさはもちろん、寒さを感じさせない出演者の熱演にも注目です。
吉野山で義経と別れた静御前が鶴岡八幡宮の社前で舞った際の歌「吉野山 峰の白雪 ふみわけて 入りにし人の 跡ぞ恋しき」から雪の風景が彷彿とさせられます。雪化粧の舞台と能が織り成す美しい映像をご堪能ください。

本番組 シテ 佐々木多門インタビューはこちら

ストーリー解説

演目_35

義経を逃そうと静御前と佐藤忠信は芝居を打つ

春爛漫の吉野山から落ち延びることになった源義経。義経から追っ手を防ぐよう命じられた佐藤忠信(ワキ)は、都からの参詣者に変装し、時間稼ぎのためにひと芝居打とうと、吉野の勝手明神で待ち伏せています。すると吉野の衆徒(僧兵)たちがやって来て、忠信に義経の動向を探り尋ねます。忠信は、頼朝と義経の和解話の噂や、義経一行の武勇伝を吹聴し、彼らの戦意を喪失させようとします。

そこへ静御前(シテ)が舞装束を身にまとい現れ、忠信との打ち合わせ通り、義経を討つことの愚かしさを語り、勝手明神に奉納する舞を舞います。衆徒たちは静御前の舞を楽しみ、また義経の武力を恐れ、ついに義経を追い討とうという者は一人もいなくなりました。こうして計画は成功し、義経は無事に吉野山から落ち延びていきました。

吉野静の見どころ・魅力

シテ_13

「吉野静」は様々な要素が盛り込まれた劇中劇の面白さを感じられる能です。今回の映像では、静御前が白拍子姿で舞を見せて時間を稼ぎ、義経をなるべく遠くまで逃そうとする静御前の健気さが美しい舞姿と重なり、凄みをともなって観客の胸を打ちます。

なお、物語の舞台である奈良県・吉野山の勝手神社には、吉野山中で義経と別れた静御前が追手に捕まって連れて来られ、請われて社殿前で舞を舞い、観る人たちを感嘆させたという話が伝えられています。

能楽を旅する×吉野静