夜の古城で繰り広げられる鬼の物語

公益社団法人 能楽協会

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九州/沖縄 公演の魅力

世界遺産を会場とする能楽特別公演。沖縄では、琉球王国時代の城跡・中城城跡で11月1日(水)と2日(木)の夜に開催されます。
本公演では、1日日に能「大江山」、2日目に能「紅葉狩 鬼揃」と、両日ともに「鬼」にまつわる演目が上演され、ライトアップされた夜の古城を背景に「鬼退治物」をお楽しみいただきます。また、能の前に1日日には琉球芸能3曲、2日目には狂言「清水」が演じられます。
本記事ではそれぞれの演目についてご紹介します。

1日目 琉球芸能3番 おめでたい曲や月を愛でる曲が登場

老人踊り「かぎやで風」(かじゃでぃふう)はかつて琉球国王の御前で演奏されていた音楽のひとつで、現在では祝宴の座開きや結婚式、新年の集いなどで演じられます。祝福芸能であり、儀式の冒頭に演じられるところから、能の「」との関連が指摘されています。今回は、老人と老女の二人が登場して踊ります。

古典音楽斉唱「御縁節」(ぐいんぶし)は遠く離れて暮らす兄弟が再会できた御縁を祝して詠まれた歌です。
「揚竹田節」(あぎちくてんぶし)は五穀豊穣と平安な世の中を寿ぐ祝祷歌。踊りを伴って奏されることもあります。

女踊り「瓦屋」(からやー)は十五夜の月の美しさを謳った内容で、月見に出かけ宿に戻る一連の様子を歌い踊る中に、恋しい男性を想う女心がにじみ出るような美しい曲です。

1日目 能「大江山」だまされた鬼は怒り 悪鬼の本性を表して戦う

能「大江山」

能「大江山」は平安時代の武将・源頼光(みなもとのらいこう/よりみつ)がワキ(主役の相手役)として登場し、大江山に住む酒呑童子(しゅてんどうじ)という鬼を退治する物語です。この「大江山」をはじめ、鬼退治物と呼ばれる能の作品では、シテ(主役)は鬼や妖怪(退治される側)を演じます。

源頼光は勇猛果敢な武将として知られ、その武勇譚は「御伽草子」や「大江山絵詞」などで古くから流布していました。能でも「大江山」のほかに「土蜘蛛」「羅生門」といった作品に登場します。

「大江山」の物語のはじまりは、大江山の鬼を退治せよとの勅諚(ちょくじょう=天皇の命令)を受けた頼光一行が、山伏に変装して鬼の住処を目指します。やがて鬼に捕らえられていた女の手引きによって、無事に酒呑童子の館にたどり着きます。酒呑童子は悪逆無道の限りを尽くした悪鬼なのですが、かつて天皇と僧侶には手を出さないという約束をしていたため、山伏姿の頼光たちを少年の姿で迎え入れ、もてなします。

宴となって頼光に勧められた酒に酔い興じ、舞い戯れているうちに酒呑童子はすっかり眠くなってしまい寝所へ入ります。やがて武装を整えた頼光たちは寝所へ攻め込みます。酒呑童子は好意を徒にした頼光たちに対して怒り、悪鬼の本性を表して戦いますが……。ワキが多く登場する華やかな曲で、酒呑童子の力強く豪快な舞も見どころです。

2日目 狂言「清水」ユーモラスな鬼の正体は?

清水」のあらすじを紹介します。
茶の湯の会を開くために、主人が召使いの太郎冠者に野中の清水へ水汲みに行くよう命じます。ここで引き受けてしまうとこれから来客のたびに水汲みに行かされると懸念した太郎冠者は、水も汲まずに帰ってきて「清水に鬼が出た」と嘘をつきます。

不審に思った主人が様子を見に行くと、太郎冠者は先回りして鬼の面を付け主人を脅します。はじめは本当に鬼が出たと恐れおののき逃げ帰ってくる主人でしたが、やたらと太郎冠者のことをひいきにする鬼の発言や、その声がどうにも太郎冠者に似ていることに気づき……。

主従関係を軽妙に描いた作品です。太郎冠者が使う鬼の面は「武悪(ぶあく)」という狂言面。能面の鬼とはまた違った、どこかユーモラスな表情を見比べてみても楽しいと思います。

2日目 能「紅葉狩 鬼揃」スペクタクル性が増した演出に乞うご期待

能「紅葉狩」

能「紅葉狩」は平維茂(たいらのこれもち)という武将が信州戸隠山に住む鬼を退治する物語。ワキの平維茂は「大江山」の源頼光と同じく、平安時代中期の武将です。「紅葉狩」がほかの鬼退治物と大きく異なるのは、前半部で女性の優美な舞を見せる場面があるところです。

「紅葉狩」の物語は、戸隠山へ鹿狩りに出かけた平維茂一行が、紅葉を楽しみ酒宴に興じている美しい女性たちに出会う場面からはじまります。誘われるままに宴に加わった一行は、すすめられた杯を手に取り、優雅な舞を観ているうちに眠りに落ちてしまいます。女たちは実は戸隠山を根城にする鬼たちで、維茂を亡き者にしようと企んでいたのです。

ピンチに陥った維茂ですが、維茂の夢の中に八幡大菩薩の眷属、武内の神が現れます。神は危急を告げ、八幡大菩薩の加護を受けた太刀を授けます。そこで危機を悟った維茂は目を覚まし、霊剣を手に待ち構えていると、女性たちはみるみる恐ろしい鬼女に姿を変え……。

通常、この戦いの場面はシテとワキの一騎打ちになりますが、今回の小書(特別演出)の「鬼揃(おにぞろえ)」では、前半で登場した侍女たち(シテツレ=主役の助演者)が、すべて鬼となって登場します。通常の「紅葉狩」よりも一層スペクタクル性が増した演出となり、今回の中城城跡 夜の特設舞台に映えること間違いなしでしょう。

沖縄の地で演ずる鬼と酒の二題

会場となる世界遺産・中城城跡

「大江山」も「紅葉狩」も鬼の曲であり、また酒宴の場面がある曲でもあります。シテ、ワキともに酒宴に興じる華やかな前半部と、一転して緊迫した壮絶な戦いの場面となる後半部というスペクタクルな構成を持つ両曲。世界遺産・中城城跡の雄大なシチュエーションも含めて、是非お楽しみください。

関連記事では「琉球芸能と能楽との深い結びつき」「世界遺産・中城城跡の魅力についてご紹介しています。

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