松山 喜多流公演「夜討曽我」シテ方喜多流 金子敬一郎氏インタビュー

公益社団法人 能楽協会

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「喜多流公演 in 松山 鎌倉殿栄光の影で生きた兄弟の絆」が2023年1月15日(日)、愛媛県の松山市民会館小ホール能舞台で開催されます。本公演は、曽我物語を題材とした能二曲を同日同キャストによって上演するという稀有な企画公演となっています。
今回は第二部の「夜討曽我」でシテ:曽我五郎時致を勤められるシテ方喜多流の金子敬一郎氏に、本公演の見どころや会場となる松山市民会館小ホール能舞台の魅力についてお伺いしました。

金子敬一郎 プロフィール(シテ方喜多流)

1968年、愛媛県松山市に生まれる。シテ方喜多流・金子匡一の長男で、父及び故・十五世喜多宗家 喜多実、塩津哲生に師事。
1972年に初舞台。1983年、単身上京して喜多宗家に入門。重要無形文化財保持者(総合認定)。
公益社団法人能楽協会 理事、東京支部著作権委員会委員、(公財)十四世六平太記念財団 理事

金子敬一郎公式ウェブサイト

曽我物二曲が同じキャストで演じられる貴重で贅沢な企画公演

金子:本公演では、第一部で能「小袖曽我第二部で能「夜討曽我をお楽しみいただく企画公演となっています。両曲とも曽我兄弟の仇討ちの物語を題材とし、曽我物と呼ばれています。

小袖曽我

兄の曽我十郎祐成(すけなり)がシテ(主役)で、仇討ちを決意した兄弟が母の元を訪れ、弟の五郎時致(ときむね)の勘当を解いてもらい、母に暇乞いをする物語です。

夜討曽我

弟の曽我五郎時致(ときむね)がシテで、前半は兄弟が仇討ち前に二人の従者に形見の品を持たせて里に帰す話、後半はすでに仇討ちが終わった設定で、弟は兄が討たれたことを知って嘆き、その後に激しく戦う様子が描かれます。

今回は上記のように続き物である曽我物二曲を、同じキャストで演じる試みに挑みます。
私は弟の五郎役を「小袖曽我」ではツレ(シテの助演者)として、「夜討曽我」ではシテとして演じます。
同様に、兄の十郎役は内田成信さんが演じ、他の従者などのお役もすべて同じ能楽師が演じる趣向になっています。

能の正式な上演形式は「五番立て」と言いまして、脇能物・修羅物・鬘物・雑物・切能物の5種から一曲ずつ選んで上演されるため、同じ雑物に属する両曲が続けて上演されるのはまれと言えます。第一部と第二部は入れ替え制ですが、どちらもご覧いただけるお得な通し券もご用意していますので、できたら兄弟による仇討ち前後の二つの物語を続けてお楽しみいただけたらと思います。

また、両曲は「現在物」と呼ばれ、現実の世界で起きる出来事が現在進行形(通常の芝居のように、登場人物の会話を中心に物語が進む)で展開されていきます。さらに役者のほとんどが能面を付けない直面(ひためん)による、文字通りの顔見せ興行となりますため、能楽初心者の方にもわかりやすく、親しみやすい番組と言えます。私自身も「夜討曽我」のシテを勤めるのははじめてとなりますので、どんな舞台になるのか楽しみです。

喜多流公演 in 松山 鎌倉殿栄光の影で生きた兄弟の絆 公演チラシ

松山城城山公園にある会場で松山藩時代に流行したワキ方下掛宝生流の謡も上演

金子:会場の松山市民会館小ホール能舞台は、松山城城山公園内に昭和40年(1965)にオープンしました。定員200名の小さなホールですが本格的な能舞台が常設されています。全国でも能舞台が常設している自治体運営施設は多くありません。松山は松山藩時代から能が盛んな地だったため、市民会館に能舞台があるのは当たり前という感覚で能舞台が設けられたと聞いています。

この場所は私の初舞台です。父の代から毎年続いている当家主催公演「松山喜多流能」の会場でもあるので、私にとってはこれまでに一番多く立ったホームグラウンドといえる場所です。

このコンパクトな会場で(登場人物が多い)曽我物が上演されるのは貴重な機会であり贅沢なことといえます。「夜討曽我」で言うと、シテ・ツレ三人・立衆四人・アイ(能に登場する狂言の演者)二人と、立ち役だけでも10人が舞台に立つことになります。当日は賑やかで臨場感溢れる舞台になることでしょう。

能舞台が常設されている松山市民会館小ホール能舞台

本公演では、曽我物二曲のほかにも、第一部では大蔵流の茂山忠三郎さんがシテを勤める狂言「酢薑(すはじかみ)」、そして第二部では、能の打楽器一人と謡一人で勤める一調(いっちょう)という上演形式でワキ方下掛(しもがかり)宝生流の大日方寛さんと、太鼓方観世流の小寺真佐人さんによる「船弁慶」がお楽しみいただけます。

古来、松山藩ではワキ方である下掛宝生流の謡を好み、能の地謡まで勤めていたことから、今回のような珍しい番組が用意されました。謡、囃子とも常と変わって一段と技巧を凝らしたものになります。さながら江戸時代の松山城での能舞台を彷彿とさせる調べに耳を傾けていただけたらと思います。

本公演が催されるのは年が明けた寒い季節となります。ぜひお近くの道後温泉で身体を温めていただき、さらには松山城にも登っていただくなど松山旅行を兼ねてぜひ足を運んでいただけたらと思います。

松山藩時代、ワキ方下掛宝生流の謡の調べが流れていた松山城

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