能楽なぜなに~能楽と歌舞伎、まめちしき~

能楽なぜなに~能楽と歌舞伎、まめちしき~

能楽についてプロの先生方にお伺いする「能楽なぜなに」。
今回はシテ方金春流の辻井八郎さんに、能楽と歌舞伎の違いや豆知識など、普段なかなか聞けない内容についてお教えいただきました。

辻井先生のプロフィールは能楽協会の会員ページでもご覧いただけます。

能楽と歌舞伎について

Q1 能や狂言と歌舞伎との違いはなんでしょうか?

能、狂言は室町時代に足利幕府の庇護を受け、観阿弥・世阿弥の親子を中心にほぼ現在の形ができました。対して歌舞伎は安土桃山時代に出雲阿国という女性の踊りが評判になり、その後、江戸時代に今のような形になりました。

能は武家社会で好まれ、江戸時代には幕府の「式楽」として扱われ格式高いものでした。歌舞伎は大衆向けの演劇として発展しました。

上演される演目は、能は室町時代から見た古典文学(源氏物語、伊勢物語、平家物語など)を題材に取り作られました。登場人物が幽霊として現れ、夢と現実が行き来する「夢幻能」という特徴的なストーリーも作られました。
歌舞伎は江戸時代の身近な出来事を描く作品もあり、また能の演目を歌舞伎に取り入れたものもあります。

一番分かりやすい大きな特徴は、能は「能面」をつけて演じ(面をつけない役もあります)、歌舞伎は白塗り、隈取りなどの化粧をして演じます。

Q2 歌舞伎は家柄で配役が決まるイメージですが、能や狂言は家柄関係なく 舞台に出演することができるのでしょうか?

能の世界も代々伝わる家柄があり、そういう人が重要な役を勤めることが多いです。ただし、催しによっては家柄でない人でも主役であるシテを勤めたり、その他重要な役につくことができます。

能楽まめちしき

Q3 能楽から生まれた言葉はどんなものがありますか?

映画やドラマの脇役という言葉があります。能では主役を「シテ」、その相手を勤める役を「ワキ」と言いますが、ドラマの脇役の語源は能の「ワキ」から来ています。主役を引き立てる良い脇役俳優に「この人また出てるね」と思うことも多いと思いますが、能のワキ方も、A能楽堂で能を一曲観た後に、B能楽堂で別の能を観たら、さっき旅の僧だった同じ人が今度は山伏で出ているということがよくあります。
また「埒(らち)があかない」という言葉があります。これは奈良の春日大社で行われる「おんまつり」において金春太夫が「埒」(柵)に囲まれた神輿の前で祝詞を読み上げ、人々は祝詞が終わってはじめて「埒」の中に入ることができたことから生まれた言葉です。

能を大成したと言われる世阿弥は「風姿花伝」と呼ばれるものを書き残しています。その中に書かれた「初心忘るべからず」という言葉は現在でもよく使われています。

Q4 日本独特の感性を持ち合わせていない方(外国人など)でも能楽を楽しめますか?

外国の方はもちろん、人それぞれの楽しみ方があると思います。何も予備知識が無く言葉が分からなくても、お囃子の音色に興味が湧いたり……能面の不思議な表情、きらびやかな能装束、すり足で動く独特な所作、そして何より舞台上で発せられる能楽師の“気”というものが感じられると思います。
もちろんあらすじなどあらかじめ予習をしていれば内容も理解しやすく、より楽しめると思います。

Q5 先生のおすすめの演目・お気に入りの演目があれば教えてください。

「船弁慶」という能があります。物語のストーリーもわかりやすく、前半と後半で雰囲気がガラリと変わり、見どころも多く、初めて能をご覧になる方でも予備知識がなくても楽しめる能だと思います。

Q6 プロになるためには何歳から始めないと難しい、というようなものはありますか?

やはりプロとして舞台に立とうという方は早く始めるに越したことはありません。能の家に生まれた人はそれこそ物心ついた時から稽古を始めています。大人より子供の方が、物覚えが良いということもあります。ですが本人のやる気次第で、大人になってから始めても一流の能楽師になっている人はいます。社会人を経験してから能の道に入られた人もいます。国立能楽堂では、中学卒業以上で23歳までの男女を一般から広く募集し、ワキ方、囃子方、狂言方の後継者として養成する事業も行っています。

Q7 先生方の家にも能舞台のようなお部屋があるのでしょうか?

私の家には能舞台のようなとは言えませんが、自分の稽古や素人のお弟子さんのお稽古ができる部屋はあります。

Q8 開演時間にもよりますが、能の公演がある時の一日の参考スケジュールやその日にいつもやっていることなどを教えてください。

最近は特別なことがなければ開演の二時間か一時間半前くらいを目安に楽屋に入ります。薪能など特設舞台での演能の時はもっと早く入らないといけません。演能で使う装束などの準備をしたり「作り物」を作ったりという作業があります。三十分前頃には装束の着付けが始まります。五分前くらいに囃子方の「お調べ」が始まり、いよいよ開演となります。

Q9 色々なデザインの扇がありますが、好きに決めていいのですか?

能には様々な決まりごとがあり、この曲にはこういう扇というものが決まっています。同じ曲で使う扇でも流派によって柄が違うこともあります。その決まりごとの範囲内ならば好みで選べる部分もあります。扇だけではなく、能面、能装束にも同じことが言えます。