能や狂言では、いわゆる大道具を使いません。山や家、船や立ち木など物語を進めるにあたって、どうしても必要と思われるものや、いきなり途中で「誰か」を登場させたいときなど、やむを得ず簡単なセットを使うことがありますが、これを「作り物」といいます。
「作り物」とはそのつど作るという意味があり、すでに出来上がっている「小道具」と区別されるものです。もっとも、すべて一から作るわけではなく、骨組みは出来ていて、普段はパーツに解体し、保存しています。製作は昔は「作り物方」という専門職がいましたが、今はシテ方の担当です。各流儀によって、微妙な違いがあります。ここでは代表的な作り物をご紹介しましょう。

船の骨格だけを竹で作り、白い布(ボウジ)を 巻きつけてあります。真ん中の四角い輪(台輪) のなかに後見が入って運び出します。船の基本形です。「船弁慶」「竹生島」など。他に緞子(どんす)で包んだ船もあります。こ れは骨組みだけの船では不都合の場合、例えば「国栖」のように、うつ伏せて人を隠す必要が あるためです。
「隅田川」のように、演出上、船を出さない曲もあります。

代表的なものには、物見車があります。牛車ですが、もちろん牛はいません。一人しか乗るスペースが無いので、本来の同乗者は車の外に立っています。「熊野(湯谷)」「右近」など。そのほか「松風」に使う「汐汲み車」、「車僧」の「椅子車」などがあります。

木を舞台に出すときに支える台。角台と丸台が あります。「羽衣」に使う松(写真)、「胡蝶」に使う梅、「綾鼓」の桂など。作り物は一本ですが、たくさんの松原を表す事もあります。

質素な住まいを表します。時には部屋になる事も。引き廻しという幕を掛けることが多くなります。藁屋根のないもの、四方を扉で囲っていないものもあります。

文字通り畳一畳の大きさを少し大きくして、緞子 金襴の覆い(台掛け)をします。屋根をつけて宮殿を表したり(写真-大屋台)しめ縄を張り鍛冶場に見立てたり、牡丹の立ち木を挿して石橋にしたり、用途は様々です。曲専用の作り物 他の曲に使えない、その曲専用の作り物は割りにたくさんあります。

「半蔀」専用の作り物で、「半分の蔀遣り戸(しとみやりど)」です。夕顔の花と蔦がからまり、瓢箪もつきます。つかえ棒であけます。

「小督(こごう)」専用の作り物で、片方の扉だけの簡易な門戸と、柴垣根からなる、門と塀のセットです。大掛かりなセットですが、柴垣を重ね合わせ戸の台座に載せて、後見2人で運びます。

これも「猩々」専用ですが、小書き(特殊演出)のときに使われます。汲めども汲め ども尽きないお酒の壺です。流儀により壺の形が違ったり、酒を汲む方法もヒシャクで汲んだり扇で汲んだりします。
