【能楽インタビュー】金子敬一郎

【能楽インタビュー】金子敬一郎

能楽の世界で活躍されている方々をさらに知り、より能楽を楽しむためにインタビューを実施しました。能楽とのきっかけや私生活など、普段ではなかなか聞けない内容について語っていただきました。

今回、回答いただいたのはシテ方 喜多流 金子敬一郎さんです。
金子先生のプロフィールは能楽協会の会員ページでもご覧いただけます。

金子敬一郎プロフィール(シテ方 喜多流

kanekokeiichiro

経歴・芸歴・表彰歴

1968年生。父 金子匡一及び 故 喜多実、塩津哲生に師事。1972年 仕舞「老松」にて初舞台。

重要無形文化財保持者(総合認定)。
(公社)能楽協会 理事及び東京支部著作権委員会委員、(公財)十四世六平太記念財団 理事。

 

能楽インタビュー

初めて能楽に触れたのはいつですか?どんなきっかけですか?

当家は曽祖父 金子亀五郎より能楽師として続いていて、私で4代目です。
そういう意味では生まれる前から能楽には触れ合ってきたと言えます。

能楽師を目指そうと思ったきっかけはなんですか?

物心がついた時には能楽師になるものだと思っていました。きっと両親の洗脳がうまかったのでしょう(笑)。小学校1年文集の将来の夢に「能楽師になる」と書いています。

好きな演目や得意な演目を教えてください。

「松風」「井筒」の様な言葉が美しいものも好きですし「高砂」の様に淀みのない曲も好きですし「山姥」の様な哲学的な曲も好きです。逆に嫌いな曲はあまり思いつきません。

松風
「松風」金子敬一郎

得意な曲と言われると、いまだに1番も完璧にできたことがないので困ります。強いて言えば年齢的にまだ体が動くので、動きの激しい曲かな?

舞う時に工夫していることはなんですか?

なかなか一言では言えませんが、工夫や努力が第一印象にならない様に気を付けます。「工夫してるな」「努力してるな」と思われるのは工夫や努力が足りないのだと思っています。

能楽をはじめて、一番楽しかったこと/つらかったことは何ですか?

15歳で愛媛の松山の実家から単身上京して喜多流十五世宗家喜多実師の内弟子になったころから20代前半までに楽しさも苦しさもたくさんあった様に思います。

苦しかったのはやはり謡の暗記。その頃は1週間に1番ずつ覚える事になっていました。現行曲が200番ですから4年頑張れば全部覚えられるし、五輪選手の努力を考えればこっちは一生使える財産となるのだからと自分に言い聞かせて精進しましたが、やはりつらかった。

20代前半の頃はちょうど催し物も多く先輩方の稽古の地謡をたくさん謡わせていただきましたが、同年代で私だけ大学進学をしなかったので空いているのが私だけということも多く、1人だけで多い時は1日に7番 週に25番ぐらい謡わせていただきました。ただ、さすがに体力と喉がつらく、一人暮らしだったので毎晩「もう明日はきっと起きられない」と思いながら生活していました。

楽しいことは同年代の仲間や、素晴らしい先輩達と巡り合えたことです。どんな楽しい事かは……あからさまにすると色々と差し合いが有りますから……ね。

能楽師になっていなかったら何をしていたと思いますか?

根っから工学系な人間で、時代的にもIT革命の申し子世代なのでシステム・情報・通信系の何かをやっていたでしょうね。と言いつつ現在喜多能楽堂のシステム管理を一手に担っていたりします。Macintosh IIciから使用しているほどのMac派です。

尊敬する先生や注目している先生がいらっしゃったらお教えください。

舞台に立たれる方は皆注目していますし、尊敬しています。なんか道徳の授業の模範解答みたいですが偽らざる気持ちです。
あとはお話したことがない記録だけで対面する名人と称される諸先輩達。ただあまりの憧憬の念は理解の妨げになるので自制する様にしています。

私生活についてもお伺いします

普段どれくらいご自身のお稽古をされていますか?

どの程度から「稽古」になるか微妙ですが、何もしない日というのはほとんどありません。ただ今回のコロナ渦では催しが2ヶ月ほど消滅しました。自分で持っている稽古場があったので自主稽古はしていましたが、本番に勝る稽古はないとも言えるので、かなり鈍っているのではないかと思っています。

月にどれくらい教えているのですか?

いわゆる趣味で能楽をなさる方への稽古としてお答えしますと、お一人月に3回が標準です。また松山の実家の方にも稽古場がありますが月に1週間ほど帰って指導をしています。

能楽以外の趣味があれば教えてください。

全くお酒を飲めないので(アルコール消毒もできません。近頃困っています)自然と趣味は多くなります。インドアなら読書(ミステリー・SF系多し)PC系(PythonとBlender勉強中)映画・アニメ鑑賞・TVゲーム・プラモデル作り。
アウトドアならゴルフ(目指せ90切り!)・ロードバイク(愛車はCervélo)・サッカー観戦(浦和レッズサポーターです)

私生活でつい出てしまう職業病みたいなものはありますか?

  • 鏡を見るとつい構えをとって姿勢が真っすぐか確認してしまう。
  • 時代劇などで能面を乱暴に扱っているのを見ると、胸が苦しくなる。
  • 電車とかエスカレーターでなんとなく謡ってしまい、妻に叱られる。
  • 咳払いの声が大きいらしく、妻に叱られる。

最後に

このページをご覧の方に向けて、一言お願いします。

山姥
「山姥」金子敬一郎

エンターテインメントというものは残酷なもので、衆人に愛せられることがなくなるとジャンルごと消滅してしまうことも多々有ります。その中で600年以上生き残っている「能楽」が面白くない事があるでしょうか?確かに間口は狭くて奥が深い、とっつきにくい趣味の代表的な特徴を持っていますがぜひ能楽の沼にはまっていただきたいと思っています。好奇心さえあればあらゆる能楽師があなたをサポートしてくれるでしょう!